表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エコー  作者: たかさば


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/85

違和感がすごかった

 素直に返事をした宇宙人を下りエスカレーターにのせ、私は四階従業員用出入り口からエレベーターに乗り込み、退勤処理を済ませ!!!今日こそ17:00で切れると思ったのに、15分だった……無念……。


「樫村さん、お疲れ様でーす!」

「カッシー乙~!」


「はーい、お疲れ様!私明日お休みだからよろしくお願いしまーす!」

「オッケー!ゆっくり休んでねー!」


 早番のみんながどんどん退勤していく。挨拶ついでに、明日の自分の不在をしっかり伝えておいてと。一応勤務表がタイムカードの横に貼ってあるんだけど、みんなあんまり見てないんだよね。


 退勤する従業員をロッカーの中を整頓する振りをして見送り、通路に誰もいなくなったのを確認した私は、いつもよりいくぶんゆっくりとした足取りで、帰路に就く。


 ……念のために、ちょっとゆっくり出ようかなってね。


 従業員用駐車場及び駐輪場はお客様入り口とは別方向の少し離れた位置にあるので、今アッシュくんのいる自販機の辺を通る退勤者はほとんどいない。ただ、ご家族に迎えに来てもらう従業員がいたりするとお客様用駐車場に向かう場合があるから、ばっちり逢引きを見られる可能性もあるわけで……念には念を入れておきたいところ。うちの店は、実にこう、ゴシップ好きが多いというか。人の恋愛模様って、みんな気になるようで……ホントパパラッチみたいな人がね?いるというかね?!


 きょろきょろと目を光らせつつ、待ち合わせ場所に、向かう。アイスクリーム自販機は店舗の端に設置されていて、そこを曲がると街路樹が植えられているリラックスエリアが広がっている。ベンチもいくつかあって、日中はいい日向ぼっこポイントになっていたりするんだよね。今の時間帯は落ち着いた色合いの街灯がついて、少しだけムーディーなデートスポットのような雰囲気になっている、はず。

 街路樹横の二車線の道路を挟んだ向こう側には背の高い車用の第二駐車場があって、その向こうには、昨日色々とあったあの公園がある。アイスを買うはいいけど、どこで食べようかな、リラックスエリアで食べてるともしかして誰かに見つかるかもしれないから、ちょっと身構えちゃうけど公園に行くべきか……。そんなことを考えつつ、待ち合わせ場所に……って、あれは!!!


 自販機の横で、レジの秋野さん……アッキーとニシに囲まれてる、宇宙人の姿―――!!!


 何話してるんだろう、やけにへらへらしたうちのやんちゃ系トップツーの二人と、ちょっとかしこまった感じの新人アルバイトの姿から目が離せない!ちょっと待って、おかしなこと話してないでしょうね、あああ!!!もう気が気じゃない、でも今ここで私が乗り込んでいったところで…もしもう何か暴露してたんだったらいまさら遅いっていうか、ますます火に油的な展開しか待ってないっていうか!!!


 う、動けない!!!

 

 プー!!プップー!!!


 車のクラクションの音にはっとして振り返ると、荷物のいっぱい載ったシルバーカーを押すおばあちゃんがよろよろと歩いているのが見えた。店舗出入り口から通路を挟んだ駐車場に向かっているんだけど、荷物が落ちないように抑えながら歩いているので、早く歩けないみたい。車の運転手は、おばあちゃんがのろのろ歩いているのに苛立っているようで、車の中で何やら怒鳴っているのが見える……。


「おばあちゃん、私荷物持つね、いい?」


 急かされちゃうと、焦って転倒しかねない。おばあちゃんの元に駆け寄り、お手伝いさせていただく。


「はぁ、はぁ、あ、ありがと……。」


 大きなレジ袋を持ち上げると……うっ、これお米だ、これはおばあちゃんにはきつそう。重い荷物がなくなったので、おばあちゃんはテンポよく前進をはじめ、あっという間に横断歩道の向こう側に到着……

 

 ブブゥンブブゥンブ……ウンッ!!!


 私もおばあちゃんもまだ渡り切ってないのに、クラクションを鳴らした車は空ぶかしをさせながらものすごい勢いで背後を通り過ぎていった。なんていうか、行き急いでるなあ、もう少しこう、余裕のある生き方したらいいのに。


「ごめんねぇ、助かったわぁ、ありがとう!もう持って行けるから、ここに置いて?駐車場でねえ、息子が待ってるの。」

「あの、車どこですか?私持って行きますよ。」


 あんまりふらふらした状態で駐車場内を歩くのも危なそうなので、更なるお手伝いをご提案してみる。……うん?駐車場の奥からこちらに向かって走ってくるのは。


「バーちゃん!!俺行くから待っててって言ったのに!あの、すみません、ありがとうございました。」


 良かった、どうやら息子さんがお迎えに来てくれたみたい!さっきのやり取りを見ていたのか、息子さん……中年男性が私に何度も頭を下げる。


「いえいえ!」


 にっこり笑ってお米の入った袋を手渡し、こちらも一礼してお見送りさせていただいた。

 ……良いなあ、おばあちゃん孝行、か。


 少しだけ、自分のおばあちゃんを、思い出した。

 ……私も、こんな、ふうに。


「スーちゃーん!!あーん、待ってたよ、見つけたから来たけど、一緒に帰りましょう!!ふふ、今から一緒に美味しいものだ、あわよくばこのままお宅訪問してぐふふ!!!」


 おばあちゃんとお孫さんに手を振っている私の耳に、怪しげな声が聞こえてきた!!振り返ると、同じ目の高さに緑色の瞳、灰色頭がー!!!アッキーとニシの姿は……ない。もうどこかに行っちゃったのかな?いや、どこかでこちらを見ている可能性!!あたりをグルングルンと見渡して、チャラい影がないことを確認してからアッシュくんの顔を見る。


「僕ねえ、どれにしようか迷っていたんだよ、そうしたらね、お子さんがキャラメルリボンがおいしいと教えてくれたんだ。だからそれを僕は食べます、スーちゃんはどれにする?あのね、おじいちゃんが言うには、チョコミントは歯磨き粉の味がするから眠くなっちゃうんだって、どういう事かな?もしや食べ物のふりをした人肉捕獲計画でも練り込まれているんだろうか、だとしたらこれは由々しき事態だ、……許さん!」


 何やら憤っているようだけど、この自動販売機はただのアイスクリームの自動販売機であって!!!宇宙人が心配するような恐ろしい計画はないはず、あったら困るパターン!!!


「多分ね、おじいちゃんが寝る前に歯磨きするから、そのイメージで眠くなると思うの!おかしな計画はないと思うよ?」

「そう?でも心配だ、どうしよう僕確認したいな、よし二つ食べるか!いやいや、やはり全部食べたいなうぐぐ、我慢できない!よし買おう!!スーちゃん、はよかお!!」


 にっこり笑って、私の手を取り、グイと握って横断歩道をずかずかと歩く強引宇宙人!!!こ、こんな所誰かに見られたりしたらってね?!あたりをきょろきょろと見まわしながら、連れさられる私っ!!!さっきから挙動不審もいい所だけど、喪女、喪女の喪女たる喪女らしさがね?!店舗出入り口にはお買い物を終えた奥さんとおじさん、女子高生の二人組が歩きスマホで横断歩道を通って、おじいちゃんがクリーニングの荷物を持って駐車場に向かって、駐車場からお子さん連れのお母さんがご入店!!!よし、誰も見てない、どこにも顔見知りはいない、この隙に自販機の角を曲がり、奥に移動!!!ここなら街路樹の影になるから、あまり人目に付きにくいはず!落ち着いた明るすぎない街灯がいい感じに身を隠してくれるはず!


「あのね、一気にたくさん食べたらおなか壊しちゃうから、今日は一個にしておこう?」


 もう11月だもん、いくらこのところ暖かい日が続いているとはいえ、日の沈んだ夕方五時、外でアイスをバクバクと食べるのはちょっと寒いと思われる。体の外も中も冷たくなったら、さすがに宇宙人とはいえおなかこわしちゃうんじゃないのかな……。


「おなか壊れる?!そんなにやわ?!人肉社長そんなこと言ってなかったよ、肉体が破壊されるのはおよそ物理的衝撃があってなんぼって!!!食べたら崩壊するの?!ますます恐ろしい食材だ、これは即刻密告が必要なやつだ!!!」

「密告?!違うの、あのね、モノのたとえがね?!普通の人は冷たい物を食べすぎちゃうとおなか痛くなっちゃうんだよ、アイスは一日に一個までっていうルールがね?!」


 なんていうのかな、ごく普通の会話ができないもどかしさ?常識の通じないむなしさ?きつく言うのもかわいそうかなっていう遠慮?そういうのが、こう、一気に押し寄せてくる感じが、非常にこう、ダメージがあると言いますか……。うう、ガンバ、ガンバだよ、(すなお)っ!!諦めたら、この宇宙人はただの宇宙人で終わってしまう!私はこの子を立派な日本人にするという大仕事が!!!


「そんなルールが?知らなんだよ、教えてくれてありがとう、じゃあ、僕は少女おすすめのキャラメルリボンを選びます、ねえ、買ってみるから見てて?」


 ポケットから五百円玉を取り出し、硬貨投入口に入れて、商品ボタンを押すアッシュ君。


 ・・・・・・かしょん。


 がっちゃがっちゃがっちゃ・・・・・・。


「わーい!買えた!!これは僕のものだ!ねえねえ、スーちゃんも食べるでしょ、僕ご馳走するの、どれがいい?」

「じ、じゃあ、眠くなるというチョコミントを……。」


 またポケットから五百円玉を取り出してる……もしかして、おつりっていう概念を持っていない?日曜にご馳走してもらった自動販売機は、住人特権でお金入れなくても買えた?から、お金の使い方わかってないのかも……。


「あのね、五百円玉のおつりがここに……出てるから、これで買えるんだよ。あの、アッシュくんはお金のこと理解できてる?わかんないんだったら教えるよ?」

「あ、そっか、販売価格を超えた場合はおつりがいただけるんだった!丁寧であり面倒なこのシステム、実にうまくできていると感心したんだよ。はんはん、130円のモノを買ったので、おつりとして370円が排出されている!では、200円を入れてみましょう、おつりはおそらく、70円!」


 やけにいい笑顔で百円玉をコイン投入口に入れ、ボタンを押そうとするアッシュ君。


「ええとー、チョコミントはどれかな?これ?ちょこみるく……ちがうな、ええとー!」


 うん?文字、読めてないのかな?微妙に、チョコミントをスルーしたように、見えたような気がする。……そっか、アイスなんか食べた事ないから、パネルの写真見てもわからないよね。文字も英語とかうたい文句がいっぱい書いてあるからわかりにくいのかも。


「これだよ、ほら、ここにチョコミントって書いてあるでしょ?」


 チョコミントのプレートを指差して差し上げる。


「ほんとだ、ち、ょ、こ、み、ん、と!これこれ!はい、ぽちっとな!わーでた!はいスーちゃん、どうぞ!ふふ、フフフ、29の燃える様は実に美しく!ひいふうみい……14枚も麗しの10がある!!!」

「あ、ありがとう。」


 にっこり笑って、チョコミントのアイスを手渡してくれたのだけど、……なんかこう、ものすごく、違和感が。


 じゃらじゃらとおつりの十円玉をポケットに突っ込む様子に、頭を抱えたくなるっていうか……お財布持ってないの!?人間としての……、基本的な何かが、完全にこう、欠落してる感じがすごい。

 仕事中のスマートさに驚かされた後の、この初心者丸出し感に、心底驚いている私がここに。目の色変わるとここまでこう、人間初心者感が出ちゃうの?!仕事モードの時と通常モードの時の落差が激しくて混乱しないんだろうか……。


「これはどうやって食べるの?このままかじっていい?」

「だめだよ!これはね、このふたを取って、紙を剥がして食べるんだよ! いい?一緒にやるよ?ここをめくって、うん、そう……ペロっとめくったら、ここのゴミ箱に入れるの。」


 考察しているとその隙にやらかす気満々の宇宙人がここに!!!おかしなことをする前にきっちりと目を光らせておかなければ!!!


「あのね、中にプラスチックの棒が入ってるから、それは食べられないよ、この冷たい部分だけが食べられるの、わかった?少しずつかじるようにして

「うん!いただきまーす!!!」」


「あっ!!ちょっと!!」


 人の話を最後まで聞かずに、大きな口を大きく開けてがぶりとアイスをかじる宇宙人がー!!!


「ッ!!~?!~!!!はぐ、うっぎゅぅうウウウウ!!!頭部が頭部トウブぅぎぃいいいいたああああいいいいい!!」


 ああー!!そんなに一気に食べるから!!!やっぱりの案の定で悶絶する人間初心者の姿、姿アアアア!!!


「落ち着いて!それはね、アイスクリーム頭痛って言って、冷たい物を一気に食べるとなっちゃう頭痛なの!すぐに治るから、こ、ここ座って?!ベンチで座ってたら痛みも落ち着いてくると思う!動ける?!」

「は、はう、はう、うぅ、ぅうううう……!!!」


 顔をくしゃくしゃにして痛みに耐えているアッシュくんの手を取り、そっと横にあるベンチに座らせる。左手に食べかけのアイスをにぎりしめたまま、両手で頭を抱えて苦しんでいるのをしゃがみ込んで見上げると……うわあ、泣いてる!!!そ、そんなにも痛いの?!……そっか、人間になって始めての頭痛ってやつなんだ、きっと!!きっとパニックになってるに違いない、こういう時は、えっとー!!!勢い良く立ち上がって、悶える灰色頭にそっと手をのばす。


「大丈夫、大丈夫!!痛いの、痛いの、とんでけ~!!!」


 ポン、ポ……ダメだ!!!このままポンポンをしたら、また……ヤツが来る!!!強引で、俺様で、遠慮知らずの青い瞳のあいつが―――!!!


 私はポンと置いた右手で、灰色の頭を、そっとなで、なで、なで、なで……!!!どうだろう、ポンと置いた手の衝撃で、すでに俺様は、召喚済み、それともまだヘタレ、ど、どっち……?


「う、うぎゅ、あ、ありがちゅー、うぐうぐ、えぐえぐ、ふひぃーん……!!!」


 私を見上げたのは、緑色の潤んだ目、だった。


 ……良かったああああああああ!!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 29/29  ・・・・・・かしょん。  がっちゃがっちゃがっちゃ・・・・・・。 [気になる点] へたれかわいい。まじですかもうギャップ。これは恋してもいい [一言] なでなで。 こうい…
2021/05/24 23:09 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ