車が届いた
横を歩くアッシュくんは、時折レジ袋の中のポインセチアをのぞき込みながら鼻歌?らしきものを歌っている。…宇宙人でも機嫌がよくなると鼻歌を歌うのかぁ、なに歌ってんのかさっぱりわからないけど、すごく楽しそうで…良かった。
「スーちゃん、この子、ありがとう!」
キラキラした笑顔を向けるアッシュくん。うれしくてたまらないって顔をしている。
…うん、プレゼントしたかいがあった!地味にお財布の中寂しくなっちゃったけど、まあいいや。
私はあんまりけち臭いことをいうタイプじゃないんだよね。わりとお金を出すことを躊躇しないっていうか。
…ああ、でもアッシュくんにお金の使い方とか学ばせるためには余計なことしちゃったのかも?…いやいや、すぎたことは仕方がない、次から気を付けよう。
「支払いのタイミングができませんでした、商品の価値…お金払うよ。はらわねば!払うべきだちょ一般論では!!!」
「うん?気にしなくていいよ、これは私からのプレゼントだから。…ちゃんと育ててね!」
おススメしてもらったの、小さい方の鉢植えでよかった。大きい方だったらプレゼントできなかった。
私はこの山に登るとき…あんまりお金を持って来ないようにしてるんだ。ドリンクホルダー付きのウェストバッグに入ってるお財布には、基本、千円札が一枚しか入っていない。買い物目的じゃないからね、ここに来るのは。ストレス解消兼、運動不足解消…体力づくりのためだもん。
とはいえ、まったくお金を使わないのかといえば、そういうわけでもなくて。
自宅マンションから一時間歩いて魅留駈山まで来て、山に登って下るのに三時間…一時間かけて家に向かう帰り道、マンションからほど近いところで開催されている青果市場で野菜を買って帰るのが、私の日曜日のルーティンとなっているんだ。1000円もあれば、一週間分の野菜は買えるんだよね!
ここで私は野菜を500円分くらいと、300円のお好み焼きを買って帰宅するのだ!
朝からよく歩いたぺっこぺこのおなかにお好み焼きがしみわたるのなんのって…ああ、今日はお金足りないから買えないなあ、まあ、仕方ない。今日は夏に食べるタイミングを逃したそうめん食べよう。…そういえば、ちょっとおなかすいてきた、ああ、もう11時過ぎたんだ、今から帰ると12時越しちゃうなあ。
「ね、アッシュくんはこの後どうするの?私、歩きでここに来てるから、そろそろ帰ろうと思ってるんだけど…。」
このままハイさよならってパターンは、ちょっと危険すぎると思うので、お伺いを、立ててみる。
道端で休憩してるおばあちゃんとか、落ちてたって言って拾いかねないし!!!
できれば、住居にきちんと収納されるまでしっかり監視しておきたいというか!!!
・・・しておかないと大騒ぎになる、可能性!!!
「僕はね、今から車を取りに行く。ここの駐車場?そこに納品されているのだ!ここからね、家まで、車で行くために、ここに納品してもらったんだよ。僕、車の運転は得意なんだけど、地球の上で実際に運転したことなくて。練習を兼ねてるんだ!スーちゃんは、車運転する?運転できるなら、ちょっと手伝ってほしいです!!僕の運転技術、見てよ!」
車?!
宇宙人が車なんて乗っていいの?!
納品って!!
普通って、ディーラーさんに行って、もらって帰ってきたりするもんなんじゃないの?!
なんでこんな辺鄙な場所に納品?!
というか、そもそも、こんなおかしな言動する人が車の免許持ってるの?!
…ダメ、どこから突っ込んでいいのかわかんない!!!
「ええっと、ここに納品?車、持ってきてもらったの?買ったの?それはその、何の目的で、えっと、乗るため?運転、できるの?」
「大丈夫だよ!!ちゃんと免許取ったもん!!見れ、これ!!」
アッシュくんがタブレットをぶんぶん振り回すと、ぴらっと一枚の免許証が落ちてきた。…このうっすいタブレットのどこに収納機能が?!
落ちた免許証を、アッシュくんが拾って…、私に手渡す。
…ちゃんとした免許!!
しかもゴールド免許だ!!!
「えっ!!ゴールド?!すごいねっって…!!!はい、はいイイイイイいい?!」
思わず、免許証を二度見、三度見、四度見五度見イイイイイ!!!!
名前、名前がASH GRAY (灰島 明)って書いてある!!!
灰島って誰だ!!!
明って誰のこと!!!
誕生日、1996年8月13日、ちょっと待って、同い年!!!
…住所は、小夏日市朝山町・・・うちの職場の近くだ!!!
え、ちょっと待って、このマンション名、知ってる、あのでっかいタワマン!!!
って、はい?!
はいイイイイイイイイイイ?!
「え、なんかおかしい?ちゃんと規則にのっとって、きちんと交付されたものなのだ!僕ね、視力検査も頑張ったの、二つの目で物を見るのが難しかった、機械の内部まで見る癖が抜けなくて、なかなかピントがねえ、でも取れたよ!」
「おかしくない、でもおかしい、何これ、アッシュくん、名前、アッシュグレイって!!!灰島明?!誕生日!!住所!!ごめん、混乱が混乱すぎて…!!!」
免許証を両手で握りしめ、にっこり笑うイケメン宇宙人の写真を見る!
…おんなじ顔して、私の目の前でニコニコしてる人がいる!!!
何度も何度も、免許証と宇宙人を見比べ見比べ見比べ見比べ…!!!
「名前はね、さっき車の業者にお願いして書きなおしてもらったんだ、アッシュって名前がうれしくて、この名前に決めたの、これからは僕アッシュなんだ、スーちゃんありがとね!!アッシュって言ったら、業者がほかのところも全部考えて埋めてくれたらすい。おかしい?誕生日はね、細胞の誕生日から引っ張ってきたよ、培養の期間はすっ飛ばしてるけど、なんてことないって人肉社長が。細かいこと言えば、僕はこの体になってまだ三日だけど、大丈夫でしょう、僕は僕なのだ!」
ダメだ!!!
全然訳が分かんない!!!
名前って書き直せるの?!
細胞?!
培養?!
三日?!
どうしよう、全然わからない!!
「免許証としてはちゃんとしてる、でも、いろいろと私には理解できない部分が多すぎて…ふ、ふふ、あはは・・・。」
免許証を返しながら、落ち着きを取り戻すべく、愛想笑いなどを返して、みる
。うん、全部理解しようとね、するからね、混乱するの。こういうもんなんだってね、さらっと軽く流せばね、ずいぶん楽になるよ、多分!!!
「ちゃんとしてる?良かった!じゃあ、車取りに行こ、もう来てるはずなんだ!ええとね、これ…。」
アッシュくんがタブレットをつるつるやって…画面に映ったのは、一台の軽自動車、私の車と同じメーカーだ…。植物園の大きな建物が映ってるから…第一駐車場に停めてあるっぽい。
ここからたぶんすぐかな、混乱がハンパないけど、気にしないようにしよう。
どうやって持ってきたんだろうとか、誰が持ってきたんだろうとか、タブレットがなんかすごそうとか、うん、気にしない気にしない。
納車済み?の車を取りに行くべく第一駐車場に向かうと、ずいぶん緑地公園内が賑わってきたことに気が付いた。すれ違う人たちが多くなってきたのは、お昼が近いからかな?
朝ここを一人で通った時は人っ子一人いなかったのに、ずいぶん温度差があるというか。見えてきた駐車場も、来た時はここの職員さんのものと思われる車が一台二台くらいしか停まっていなかったのに…今は駐車待ちの列ができている。
これは、駐車場でのんびりしていたら怒られそうなパターンだ、気を付けないと…。
「あの、車のキーとかは?説明書とか、受け取りの書類とか、そういうの…。」
車の購入って、もっとこう、厳かっていうか、厳格っていうか、しっかりしてるっていうか、きちんとしてるもんだとばかり思ってたんだけどなあ。
私が車買ったときは、そりゃあ保険の手続きや操作方法、定期メンテナンスの申し込みやなんかで相当に時間がかかった覚えがある。…まさか、立ち合い無しで、無人で引き渡し?
「%☆△2ЖΘ◎するから問題ないよ・・・。」
アッシュくんが、タブレットをつるりと撫でると…って、はい、はいイイイイイイイイイ?!?!?!?
手のひら!!
手のひらの上に、説明書とかのセット!!
人差し指!!
人差し指に漫画肉のマスコットの付いた車のキー!!!
一瞬で、ものが現れて!!
何これ、手品?!
ああもう…いちいちびっくりするのが非常にこう、疲労感がね、ハンパなくってね?!
「ね!大丈夫、全部聞いてきたよ…このボタンを押すと、車が返事をなさるのだ!てやっ!!」
ぴぴっ!!
三台ほど向こうにある、黒い軽自動車のライトが光る。
「あれが僕の車!よーし、はりきっていっぱい潰すぞ!!!」
…潰す?
「いっぱい車が停まってるから、大変そうだ!!!がんばらねば!!この車弱っちそうだし、持つかなあ…。」
…弱っちい?
ちょっと待って!!!
今なんかおかしな言葉を何個か聞いた!!!
「ねえ、アッシュくんは本当に車乗れるの?」
車に乗り込もうとしていたアッシュくんは、ちょっと眉をひそめて…こっちを見た!!
悲しそう、いや、不服そうな感じ?こういう表情もするんだ…って!!
「むむ。失礼ですよ!!!僕はね、教習所ではかなり優秀だったんだよ、僕が一番車を上手に壊したんだ!みんな擦るだけでちっとも原型崩せなくてひいひい言ってたけど、僕はね、正に木っ端みじんでね!!!」
ちょっと!!!!!!!!!
それ……、車の運転ちゃう!!!
ただの…ただの破壊活動じゃないの!!!!!!!!!
「何言ってんの!!!!車はね、車はね、ぶつけるもんじゃなくて、壊すもんじゃなくて、乗るものなの!!!運転して、移動することが目的って、学ばなかったの?!」
「何言ってんのスーちゃん、車は壊して楽しむものでしょう、・・・現にほら、あそこでもおじいさんが壊してる、うーんさすがです。ほら、皆さん感心していらっしゃる!」
アッシュくんの指差す方を見ると、駐車場の壁に車のおしりを突っ込んでへらへらしてるおじいちゃんがー!!!!
周りには、あごに手をやりながら笑ってる若者!!
スマホで撮影している不届きもの!!
完全スルーしてるおっさんたちによけて歩いていくファミリー!!!
ああ、管理棟の人が走って来て…なんか話してる!!!
遠くからパトカーやってキター!
「違うよ!!あれは事故!!!あってはならないパターン!!!」
「ええー、そうなの?聞いてた話と違うなあ、困った、僕はね、壊す方は得意だけど、逃げることはそんなに得意じゃないんだ、現に250キロ出した時はぶつかる事しかできなかったし、15キロとか手加減難しくていつも200キロオーバーで…。」
・・・あかん!!!
これ、あかんやつや!!!!
「アッシュ!!!あなたね、私が運転してあげるから、おとなしく助手席に座りなさい!!!」
まさかの人様の新車を運転する展開にね?!
正直混乱というよりもね?!
もうね、この小夏日市民を守らなければならないという使命感の方がね?!
「えっ!!スーちゃん、一緒にドライブしてくれるの!!やったぁ!!!」
私は大喜びするイケメンから車のキーを奪い取り!!!
新車のにおいがする車に乗り込んで!!!
エンジンを、エンジンをっ!!!
かけたんだってばあああああああああ!!!




