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オダリスク・ハート  作者: 未央トサ
【序章】兄弟の【始まり】
13/25

同日午後、異能者

【ユイ】


「今は俺も、異常者の一人だ」


 境孝二の一言で、夜ノ森執行部長の目が、場の空気が変容する。


「ちょ、ちょっと待てよ。何言ってるんだコウジ。あれは僕の見た幻覚じゃーー」

 狼狽を隠さない境進一郎に、境孝二は顔を向ける。


「幻覚じゃねえんだ。いや、幻覚だったとしても。今の俺は普通の人間じゃない。それだけは確かだ。俺にも、異常な力がある。」

「俺たちをここに呼んだのは事故の話じゃない。ーーそうだろ? 夜ノ森さん。」


 夜ノ森執行部長が一度、首肯した。

「やはり、君には『死者の身体』が宿っているのね。そう、君たちを呼んだのは君の、そして私たちの異能について話をするためよ。」

「『死者の身体』? なんだそりゃ。この異常な力をあんたらはそう呼ぶのか?」

「そうね。『死者の身体』を持つことが異能力者の証よ。現時点にて保持者はあなた含め47名確認されているわ。」

「あんたも『死者の身体』を持ってるって事か?」

「ええ。私は3年前の今頃に能力を発現したわ。あなたの能力とは別系統になるかしらね。」

「それぞれで違うって事か……。」

「不思議な事に、今まで一つとして同じ能力はないの。だからーー」

「ーー待ってくれ! 全くわからない! 何言をってるんだコウジ! 夜ノ森さんも! 何の冗談だ!?」


 日常を過ごしてきた一般人としては当然理解ができないだろう。境進一郎が我慢できずに割り込んだ。理解できないまま話が進んでいく事への恐怖が読み取れる。

 対して彼女は、すぐに言葉を紡がない。まっすぐに境進一郎を見据えた。トーンの違う声が発せられた室内で、静寂が流れる。


 ふと、夜ノ森執行部長を挟んで佇む梅雨姫が視界に入った。後ろ手に持っているビニール袋に、右手を差し込んでいる。間も無く、なるべく目立たぬよう音を立てずに引き抜いたそれは、紙でできた三角錐だった。頂点から紐が飛び出している。

 呆れた。公務中に抜け出して何を購入していたのかと思えば、全くお気楽な。梅雨姫の考えはよくわからない。まさか今この硬直した空気の中でクラッカーを鳴らす気なのか。到底歓迎ムードの空気には思えない。

 梅雨姫への牽制で差し込んだ咳払いが、思いがけず静寂を殺した。夜ノ森執行部長が続ける。


「ーー君には信じられないみたいね、無理もないわ。確かに、こんな話を聞いて信じる方がどうかしている。」

夜ノ森執行部長は、男から目線を動かさずに続ける。

「でもーー真実よ。冗談ではないわ。」


「そんな……。あなたの仰る異能力者は実在していて、あなたや、コウジが!そうだって言うんですか!?」


「ーーええ、その通りよ。丁度いいわ、論より証拠ね。コウジ君、見せてもらえるかしら。あなたの力を。」


 夜ノ森に促され、境孝二が首肯する。おもむろに立ち上がった後、右手を一度閉じて、開いた。

 再び閉じる刹那、右手には白いビニール袋が収まっている。梅雨姫が持っていたクラッカー入りの袋だ。対して、梅雨姫の手からはそれが失われている。

 ーーやはり、転移か。今まで幾度となく間近で見た能力だ。

夜ノ森執行部長は堺孝二に簡単に礼を述べると、ビニール袋を受け取る。


「お、お前、なんでこんな力を…?」

「なんでかは知らねえ。ただ、いつ宿ったのかは分かる。今朝の工場爆発の時だ。起きた時に、力が使えるって分かった」

「に、にしたって、なんで使えるんだ……くそ、さっきから頭が全然追いつかない」

 境進一郎はまさに唖然といった様相で、彼に声をかける。流石に無理もないとは思う。

 

 しかし、実際に能力の行使をし、それを見た以上、ここから逃げることはできない。夜ノ森執行部長の目がぎらつき、彼女のデスクの引き出しに手をかけた。引き出しから紙束を掴むと、ゆっくりと立ち上がる。

 境兄弟に向かいながら、境孝二の代わりに返答する。


「君は、指の動かし方を誰かから習ったかしら? 息の吸い方は? 吐き方は?」


 黙って顔を下にして、それは、と言う境進一郎に、彼女は続ける。


「そこにあった時から意識せずにもできる。それだけ。大事なのは超常的な力が存在していて、それが君の弟にも宿っている。それだけなのよ。」


 言いながら、夜ノ森執行部長は手に持った書類の束を、それぞれに渡す。

 片方は乱雑に、もう片方は震える手で、しかし丁寧に受け取った。


 ーーこれで、この兄弟の逃げ道は絶たれた。夜ノ森執行部長は更に続ける。


「さて、『死者の身体』保有者の境孝二君。そして、その唯一の肉親であり、異能力について知ってしまった境進一郎君。この書類に目を通したら、サインして頂戴。」


「ーー本日から、君たちはハブ横執行部の一員となるわ。よろしく頼むわね」


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