同日午後、事故
【ユイ】
「どうしても君たちだけに話がしたかったの」
始まった。
彼らはもう、こちらに来ざるを得ないだろう。
夜ノ森執行部長に失敗はない。
相手が私たちのような種類の人間を知らないならば尚更だ。
私は黙って立っているだけでいい。彼らが夜ノ森執行部長に危害を加えそうな時のみ動くだけだ。
彼女は異能力者だ。
彼女は『死者の身体』を所持している。どういう条件があるかは全く聞かされていないが、今まで夜ノ森執行部長と対話したほとんどの者が、結果的に彼女の思うように動いている。
推測でしかないが、彼女は他者の意思を操作できるのだろう。
夜ノ森執行部長の向こうには、ツユキが栗色の髪をゆるゆると髪に巻きつけながら、後ろでにはコンビニのビニール袋を握りしめている。まだかまだかとそわそわした様子だ。
病院に行く前、ツユキは新しい仲間が増えるならと、勇み足でコンビニに向かっていった。
すぐに小さなビニール袋を抱えて帰ってきたが、中身については一切教えてくれなかった。
ツユキのことだ。きっとしょうもない事でも考えているのだろう。
そんな事よりも。
ソファに並んで座る兄弟を注視する。
ちょうど今回の事故について、夜ノ森執行部長が質問しているところだ。主に黒髪の男子が答えている。金髪の方は、ふてぶてしいというか、横柄に構えて殆ど口を開かない。
彼らをハブ校のデータベースで調べた結果、二人は同日に生まれている。双子だ。
見ると、顔立ちや骨格が全く同じに感じる。なるほど、一卵性双生児というやつだろう。顔立ちに違いが見つからない。
しかし何故だろう、こんなにも似ているのに、二人をはっきり見分けることができる。それは服装の趣味だったり、髪色だったり、仕草がこれでもかと言うほど似ていないからに違いない。本当に兄弟なのかと、調べた私ですら訝しむほどに。
「なるほど、つまり君は倒れてるコウジ君を見つけてからの記憶があいまいだったと、そういう訳ね」
「はい。倒れている男性や真っ赤なドレスの女性など、ありえない幻覚を見たりしてしまう程には気が動転していました。あまりお役に立てず申し訳ないです」
黒髪の男性、確か境進一郎だったか、彼がすまなそうに頭を下げる。真面目な人だと思う。わざわざ呼ばれておきながら、何の役にも立たない事を心から申し訳ないと感じているのだろう。
でも、それは間違いだ。
あなたたちが呼ばれた理由はそこではない。役に立つのもこれからの話だ。
だから、これで用は済んだと思っているなら大きな間違いだ。
「幻覚じゃねえよ」
金髪の男子、境孝司がぶっきら棒に割り込んだ。
境進一郎の安堵した、荷が下りた顔が一瞬で固まる。
そのまま正面を見ながら、兄貴が見たのは現実だ、と続けた。
「俺は爆発の後、人影を見た。助けようと思って工場内に入ったら、あったのは異常な光景だ。おおよそ人間のできることじゃない事が中で起きていた」
境進一郎が信じられないような顔で境孝司を見ている。
なおも、境孝司が続ける。
「その異常を起こしていた奴らが、倒れていた奴らで、赤いドレスの女だ」
そして、と孝司は自らの拳を見つめながら言う。
「今は俺もその異常者の一人だ」
境進一郎から、表情が消えた。代わりに、夜ノ森執行部長の目が、光を増す。




