同日午後、接点
【シンイチ】
唖然としている間に、全てが終わっていた。
吹き飛ばされた店長が僕たちに目もくれず、もがくように走り去っていった。
ベッドに座るコウジも、瞬きすら忘れてただ入口に立つ彼女たちを見つめていた。
「邪魔者はいなくなったわね。さて、君たちに話をしたいのだけど。ここではなんだし、少し移動してもらえるかしら」
手をひらひらとさせながら微笑みかけてくる真ん中の女性。この人は知っている。夜ノ森家の長女で、ハブ横の執行部長だ。横浜に住む学生で彼女を知らない者はいない。
そんな彼女が、僕たちに何の用だろうか。それが分からない。
「……境コウジさん、あなたは先ほど退院の許可がでました。話が済み次第、そのままご自宅へ帰れます。着替え等身支度をしていただけますか」
隣の女性が無機質に口を開いた。黒髪の、凛とした雰囲気のある女性だ。彼女も夜ノ森アカリと同じ制服を着用している。赤色のネクタイに、金獅子のタイピン。同じ執行部の人間だろう。もう一人も同様だ。
なるほど、つまりは夜ノ森アカリ個人の用ではなく、ハブ横執行部としての用事なのだろう。
コウジは急な話に思考が追いついていないのか、開けたままの口を一度閉じ、あ、ああ、とだけ返すとベッドの隣にある旅行鞄を漁りだした。僕が一度自宅に戻り持ち込んだものである。
ハブ横執行部としての用事だとは推測できたが、そんなところから、それも執行部長直々にお呼びがかかるような心当たりはない。
まさかコウジが何かしたかと思うが、夜ノ森は君たちと言った。コウジだけではなく僕たち二人に用があるのだ。ますます分からない。
いや、違う。心当たりはある。今朝の事故の事だ。間違いないだろう。
ただ、警察ならわかるが何故彼女らがでてくるのか。結局具体的な理由が分からない。
とにかく、彼女たちの様子を観察する。何でもいい、情報が欲しい。
よくわからないまま事が進むと無性に不安になる性分なのだ。それが、執行部からの直々の呼び出しとなれば尚更である。不安に胸を鷲掴みにされたような、言いようのない緊張が走る。
一言で言えば怖いのだ。
真ん中で腕を組む夜ノ森アカリは、澄ました顔でコウジの着替えが済むのを待っている。その表情からは何を考えているのか全く読み取れない。強いて言えば、行動的かつ野心的な瞳をこちらに向けている。
僕から見て左側、黒髪の女性は直立不動として夜ノ森アカリの傍に控えている。
こちらを向いてはいるが、視線は落ちている。無機質な感覚を覚えた。
右側には、淡い栗色の女性。肩までの長さの髪を緩く巻いている。前髪が切り揃えられているからだろうか、大きな瞳に目がいく。
しかしこちらに気づく様子はなく、そのくりっとした瞳は興味津々に1点を見つめている。
視線を辿ると、コウジ。下を履き替えるところだ。なるほど……。
もしかしたら黒髪の女性も、コウジの着替えを見ないために視線を落としていたのかもしれない。
そう思うとこの後、特別悪い事を言われる気がしなくなってきた。緊張する程の話でもないのかもしれない。
意外にも、終始和やかな雰囲気の話かもしれない。
少しだけ、胸から不安が取り除かれた気がした。
とりあえず、カーテンを閉めた方がいいのだろうか。逡巡した時にコウジから、待たせたな、行こう、と聞こえた。
薄い色のダメージジーンズに、Vネックの白いTシャツ、その上から赤いスカジャンを羽織っているコウジが鞄を持ち上げながら言う。
「そんで、俺たちは、どこに行けばいい?」




