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8話

 俺が、ゴブリンに襲われてから、1月半が過ぎた。医者からも怪我が完治したとのお墨付きを得たので、今日から、正式に館の使用人として働くことになる。ただ、怪我が治ったばかりなので、まずは簡単な所から始める事になっている。


 この1ヵ月でミナお嬢様とも大分打ち解けた気がする。以前は1日に1回しか部屋に来なかったのが、あの会談以降、3,4回は部屋に来てくれるようになった。笑顔で挨拶すれば、笑顔で返してくれるし、話もする。俺の方は読んだ本の話、ミナお嬢様は自身の事やこの場所についての話。


 なんだか急速接近した気分だ。エレナさんも表情は変わらないが、以前と違いきちんと目を合わせてくれるようになった。ソフィアさんとは相変わらず、あまり話せてない。ただ、俺がミナお嬢様達と話していても邪魔するような事はないので、少しは受け入れてくれてるんじゃないかと思う。


 ミナお嬢様と話せたおかげで、色んなことが分かった、俺が今いる場所は"ゼウル村"という場所で、人口は600人、主な産業は林業、小麦の生産も少ししている。ミナお嬢様は子爵家の三女で代官見習いとして、この村に来たらしい。エレナさんはミナお嬢様の世話係兼護衛、ソフィアさんはミナお嬢様の目付兼教育係なんだとか。


 もっとも新しい疑問もできた、貴族の女子などは、政治の道具に使われるのが常なのだが、ミナお嬢様は辺境の村に代官としてやってきている。複雑な家族関係の結果なのだろう。静かな村とは言え、屋敷に女性3人で住んでいるのも不思議だ、あまり大切にされていないのかも知れない。


 困ったのは、ミナお嬢様が俺の背中を拭きたがった事だ、右腕も治ったし、貴族のお嬢様にそんなことさせられないって説明したのだが、エレナさんが拭いたのに自分が拭いてないのは納得できないって引き下がらなかった。なので、仕方なく拭いて貰うことにした。そんな楽しいものじゃないと思うんだけど。


 異世界に転生した直後は、いきなりゴブリンに襲われたり大変だったが、怪我も治り、生活の方も何とかなりそうだ、もっともきちんと仕事をしないと直ぐに叩き出されるだろう。ということで、俺は仕事を学ぶため、与えられた服に着替え、屋敷の玄関までやってきた。ちなみに、与えられた服はいわゆる執事服なのだが、どう見ても新品である。体が成長しても大丈夫なように大きめに作られており、裾も折られている。仕事をして返すといったのは俺だけど、色々負担をかけているようで申し訳ないような気分になる。


 玄関にはすでにエレナさんがいた。いつも通り、メイド服を着て、すました表情をしている為、俺の事をどう思っているかは分からない。ミナお嬢様とソフィアさんは執務室で仕事をしているはずだ。

「今日から宜しくお願いします。」

俺は、明るい声でエレナさんにそう言った。


「はい、宜しくお願いします。ユータ様、いえ、私も今日からユータと呼ばせていただきますね。」

エレナさんが続ける。

「教えを乞うものとして私の言いつけた事は絶対に守る事。いいですね?」


「はい!」

俺は、気合を入れて返事をする。なかなかスパルタなのかもしれない。ただ、ONとOFFを切り替えれる人間は嫌いではない。


「では、まずは最初に」


(最初の仕事は何だろうと思っていると)


「私の事を"お姉ちゃん"と呼びなさい!」


「へ?」

思わず変な声が出た、今、お姉ちゃんとか…聞こえたんだが気のせいか?


「どうしました?聞こえませんでしたか?」


エレナさんは相変わらず、すました表情だ。

「えっと、いま、"お姉ちゃん"とか聞こえたんですが?」

意味が分からず聞き返す。


「そう言いました。」


エレナさんの表情は動かない。

お姉ちゃんと呼ぶことに何の意味があるんだろうか?


「エレナお姉ちゃん…」

俺は理由(わけ)も分からず、小さい声で言った。


「"エレナ"は要りません。お姉ちゃんだけです。」


「お姉ちゃん…」

とりあえず、俺は従うことにした。


「ユータはなぜこんなことを言わされているか、不思議に思っていますね?」


まったくその通りです。


「私は人にものを教えるときに身内に教えるつもりでやります。そうすることで親身にもなれますし、厳しくも出来ます。」

エレナさんが続ける。

「ユータは私をお姉ちゃんと呼ぶことで親しみが持て、私はユータを弟のように思うことで、厳しく躾けることが出来ます。」


思ったよりまともな理由だった、ひょっとして、この人危ない人なんじゃないか?と一瞬疑った自分が恥ずかしい。正直、中身33歳のおっさんが18歳の女の子をお姉ちゃん呼びするとか、どんな高度なプレイだよと思ったけど、エレナさんにはエレナさんなりの考えがあるのか、それに、向こうから見たら俺はただの10歳の子供だ、慕ってほしいという意味もあるのかもしれない。


「分かりました。お姉ちゃん」

そういう理由があるなら仕方ないので、俺は素直に従うことにした。


「はうっ」


ん?いま変な声が聞こえた気が?エレナさんを見上げるが、いつもの通りすました顔をしている。ここには俺とエレナさんしかいない、気のせいか?


 ということで、最初こそビックリしたが、その後の仕事の進行はスムーズだった。俺に与えられた主な仕事は、掃除、皿洗い、洗濯。


 掃除は屋敷には部屋が結構多いので、エレナさんと一緒に掃除してたのだが、思ったより時間がかかった。裏には礼拝堂もあって、そこの掃除も仕事の範囲らしい。ただ、普段使っていない場所は、定期的に掃除するだけでいいから、今日ほどは大変じゃないそうだ。エレナさんは慣れたもので、俺の2,3倍は動いたいたんじゃないかと思うぐらいの手際だった。


 皿洗いは砂のようなものを布で掬いあげて、擦り付けるようにして洗っていた。洗うというより磨くと言った方が良いのでは?まぁ、見かけ上はきれいになったように見えるけど、これは少し改良した方が良いと俺は思った。歯磨きもそうだけど、衛生面だけはどうしても我慢できない。洗濯は力を結構使うという事で、暫くは免除してくれるらしい。


 そんな感じで、仕事1日目は終わった。久々に体を動かしたから夕食後、ベットに横たえるとすぐに寝てしまった。

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