44話
誤字報告ありがとうございます。
武闘大会2日目が終わった。今は、幽閉されていた部屋で片付けをしているところだ、結論から言うと、ミナお嬢様のチームは優勝した。ただし、勝負の後味としてはあまり良いものにならなかった。
ミナお嬢様のチームはエレナさんが怪我をしたとの事で代理を出そうとしたのだが、まず、そこで揉めた。一、二回戦で負けたチームの一部とトピカ領に好意的な派閥のチームは代理を認めたが、敵対派閥のチームは当然反対した。一、二回戦で負けたチームが代理を認めたのは少しでも恩を売ろうという事だろう。数の上でも有利であり、審判団はどちらかというとトピカ領よりな事もあり、最終的には代理を出すことが認められた。
揉めたのは規則集にある"大会中"という言葉の定義だそうだ、それが、記載されていなかったため解釈で意見が分かれたとの事。日本の法律とかだと、一条目に法制定の趣旨を書いて、二条目から数条かけて、語句の定義を記載する形になっている場合が多い。この国では、そういう風にはなっていないのだろう。
というか、なんでエレナさん怪我してたのだろう? 腕と足に布を巻いていた。昨日、会いに行った時は元気だった。あの後、何かあったのだろうか? 一瞬、ミナお嬢様達の自作自演かと思ったけど、メリットは少ないだろうし、そういえば、あの後、帰ろうと思ったら護衛官も居なかった。決まずい雰囲気にならずラッキーと思ったが・・・・・・・うん、考えるのはよそう。
で、次に代理の闘士の人選で揉めた、ミナお嬢様は代理にレナスタシア様を招聘したのだが、それにも文句が付いた。闘士の要件をみたしていないとか、貴族は配下の要件を満たさないだとか、しまいには、それが許されるなら自分たちのチームも強い闘士に変えさせろなどなど・・・結局、揉めに揉めて、大会は1時間ぐらい遅れて開始された。
ちなみに、レナスタシア様は巷では剣神という二つ名がついているらしい。敵対勢力から見れば、そんなの出てこられては困るというわけだ。ここら辺はミナお嬢様の駆け引きの上手さだろう。交代を認めさせた後に、レナスタシア様を出す。最初から交代要員としてレナスタシア様を挙げていれば、反発はもっと大きかっただろう。あれ?ということはエレナさんの怪我はやっぱり、自作自演かな? あるいは状況を利用した。そんなところかな?
ミナお嬢様のチームもリリアーナ様のチームも決勝までは、先鋒、副将だけで勝負を決めた。レナスタシア様の異次元の強さは置いといて、ソフィアさんと公爵家の2人も相当に強い。他のチームはなすすべもなく敗れていった。
決勝はミナお嬢様とリリアーナ様のチームがあたり、先鋒戦でレナスタシア様が勝ち、副将戦でソフィアさんが負け、大将はミナお嬢様が怪我を押して出て、3本目までもつれ込んだが、勝負を決めた。決勝は激戦でそれなりに見応えもあるものだったが、その勝負にもクレームはついた、やれ、公爵家の闘士が外から目に光を当てられた、やれ、ソフィアさんが外から針で攻撃を受けた、やれ、審判の判定がおかしいだの、やれ・・・、やれ、・・・。
貴族にしてみれば文句を言う事が仕事というのもあるのだろう。黙って引き下がれば、敵に舐められる。身内には文句ひとつ言えないのかと突き上げをくらう。トップダウン式の組織構造とは言え、上が頼りないと感じれば、下はついて来ない。それに、発言する事で存在を示したいというのもあるだろう。日本の職場にも全ての事に口を出さないと気が済まない一言居士は居たな。どこでも一緒ということなのか。
最後は陛下が出てきた事で漸く収まった。なんというか揉め事を起こさない為に開かれた大会と聞いていたが、結局、揉め事の種を作ったんじゃないだろうか? 勝負自体よりも場外戦の方が妙に印象に残った、そんな大会だった。まぁ、結果だけを見れば満足なのだ、もう気にするのは止めよう。
俺は明日の昼に元居た寮に戻れると聞いた。連れてこられて、帰れとは随分な話だが、嬉しいので気にならない。部屋の後片付けを進める。荷物自体は少ないが、3カ月で描いた図面や企画書が200枚近くある。自分で言うのもなんだが、よくもまぁこれだけ描いたものだ。たぶん、不安だったのだろう。その不安を頭から追い出したいから図面を描くことに逃げた。そんなところだ。
図面の内容はネジ切り治具、プレス機等の工作機械から、機械式のタイプライターや計算機、ウォーキングメジャー、クリップ、虫ピン、缶詰、伝声管、ゼンマイ式の振り子時計、楼管式蓄音機やおもちゃ等、多岐に渡る。直ぐに形に出来そうなものから、機構のアイデアが出ず、描き切れていないものもある。これはあれだな後続を何人か育てて、テーマを与えて協力して貰った方が良い感じだな。分からない所は相談に乗る。そうしないと俺が生きているうちに全てを形にするのは無理だろう。いつの時代もマンパワーは偉大だからな。
後は心配事としては学院の事だな、3カ月間は自宅学習という事になっていた。勉強の方は全然問題ない。ただ、ミナお嬢様の寮に戻るなら、学院にも元通りに通う事になる。リリアーナ様、他に武闘大会に出た生徒で顔を知っている人も何人かいる。さぞかし気まずいだろう。特にリリアーナ様とは・・・まぁ、気まずいだけで、俺と直接確執があるわけではない、変に地雷を踏まない様にすれば大丈夫だと思う。リリアーナ様も裏の顔が無ければ良い娘なんだけど。
まぁ、とにかく疲れた、俺は一旦、思考を停止して片付けに集中する事にした。
~~~~リリアーナの邸宅~~~~~
リリアーナは自宅のベットにうつ伏せになりながら、泣いていた。
大会決勝の勝負の記憶がさっきから何度もフラッシュバックする。剣の打ち合い、駆け引き、些細なミス、もう少し違う方法で攻めていたら、打ち出すタイミングが早ければ、結果は違ってたのではないか、勝者は自分だったのでないか、そんな思考がグルグルと回っていた。
勝負を決めたときのミナの嬉しそうな顔。私はその時どんな顔をしていたのか。3カ月間学院を休んで剣の訓練をした。それでも怪我をしたミナに勝てなかった。何がいけなかったのか。
「負けた・・・」
ポツリと呟く。その言葉は私を押し潰しそうになった。
母上にユータの事を気に入っていると言ったら。公爵家で預かろうという話になり、王家預かりとなり、武闘大会が開催されることになった。
母上が何を考えたのかは分からない。だが、私にとっては紛れもなく僥倖だった。
勝負が終わった後の母上の私を見る目は冷たかった。母上が色々、後ろで手を回していたのは知っていた。ここまで手をかけてやったのに負けたのか、そんな風に思われたのかもしれない。
「ユータくん」
こういう場合、ユータならどうするんだろう。あの男ならどんな壁でも、簡単に乗り越えていきそうな気がする。
まだ、諦めたくない。仮令全てを捨てる事になっても、リリアーナは仰向けになって滲んだ風景を見ていた。
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