39話
こんにちは、ユータです。俺が学院に入学してから、1年と4カ月が経ちました。時間が過ぎるのは早いものです。俺は14歳になりました。異世界に来た時は10歳のガキだったけど、最近めっきり男らしくなった気がします。もう女装はさすがに無理があるのではと個人的には思っていますが周りは特に気にしていないようです。
今日は近況報告と、いい話と悪い話をしたいと思います。
まずは近況報告、板金とワイヤー作りの話です。ワイヤー作りは量産体制が整って、量産が始まりました。2カ月ぐらい前の話ですね。板金の方も、ようやく目途が経ちました。後、3カ月ぐらいで、こちらも量産できるのでは無いでしょうか。ワイヤーはそのまま売るほか、1次加工品として、針、釘、バネとしても売り出しています。更に製品として、洗濯ばさみ、傘、ベッド、ソファーを取り合えず作りました。ダンパーはまだ試作段階なので、馬車の乗り心地改善はもう少し後になりそうです。
簡易な防御柵として、金網も作ろうと思ったのですが、工房のメンバーに止められました。そんなの設置したら、秒で盗まれるとの事です。そういや、日本でも鉄材が高騰していた時に鉄製品が盗まれる事件があったのを思い出しました。なるほど、確かに無理そうですね。
売れ行きの方は、悪くないです。特に針、釘なんかは良く出ています。というよりこちらは、元々針金細工をやっていた工房だけあって、既存の製品の取引量を増やしただけみたいな感じです。量が増えた分は値段を少し下げたみたいです。まぁ、それでも暴利になるらしいのですが、市場バランスって重要だから、仕方ないよね。
洗濯ばさみは微妙、まぁ、そこまで便利になるって感じではないし、まだまだ、値段が高いですからね。傘、ベッド、ソファーは高級品として売り出しましたが、売れ行きは悪くないです。貴族や富裕層が買っていくという感じなのでしょう。それから考案者として俺に入ってくる金が恐ろしい額になってます。もう一生働かないでいい感じですね。万歳。という事で近況報告は終わりです。
次にいい話をしたいと思います。カストー様の婚約が決まりました。先月の事ですね。相手はカストー様をいじめていた侯爵の次女。びっくりですわ。何でもいじめていた時から気になっていたそうだが、最近、段々と痩せてきて、礼儀も身について来たので、早めに手を付ける事にしたらしい。なるほど、そういう趣味の方でしたか。えっ、何で、そんなの知っているかって?カストー様に聞いたからですね。お互いに蟠りを残さない様に、きちんと話したみたいです。
既に婚前交渉もすましたらしいです。婚約が丁度、カストー様の発情期の時期だったらしく、それなら"やっちゃえ"という話になったのだとか、そんなんでいいのだろうか異世界の倫理観。まぁ、コンコード家からすれば、願ってもない話だろうし、侯爵家が責任を取るというのなら、早めに決めたいという焦りもあったのだろう。なにしろカストー様は一度、婚約を破棄されているからな。
カストー様はまだ太っているのに"干からびた昆布"みたいになっていた。侯爵家の次女様は攻めるのが好きらしく、ベッドでは"お前はブヒブヒ鳴いていれば良い"とか、"一生玩具として扱ってやる"とか言われたそうだ。それを語尾に"ぶひぃ"をつけたカストー様に報告された。もう、好きにすればいいんじゃないかな、似合のカップルですよ君達。ニッコリ。
最後は悪い話です。俺は今、王城の一室に幽閉されています。お前いつも攫われてんなというツッコみは止めてください。それに今まではトピカ領の客分 扱いだったのが、国の客分扱いとなるらしい。ちなみにこの国の名前は"アスタリア"と言うよ。要は俺はアスタリアの正式な客分という事ですね。わーい。どうしてこうなった。
理由は分かっています。活躍しすぎたみたいですね。石鹸、シャンプー、リンス、簡易ナプキン、ワイヤー、それにそこから作られる製品。発案者が俺であるというのは少し調べれば分かります。ワイヤーはそのまま針金として武器や防具の固定に使えますし。バネに加工すれば、兵器も作れますからね。
そんな知識を持っている人をトピカ領だけが独占している。危険視しますよね。まして、平民の男です。分かりやすく"取り上げろ"となったのでしょう。この世界には人権なんてものがそもそも存在しません。まして、女性優位の社会では男なんて"物"と変わらないのでしょう。多分、ミナお嬢様 陰で色々庇ってくれてたんだろうなぁ。で、庇いきれなくなった。そんなところでしょう。自分の馬鹿さ加減が恨めしい。
でもねぇ、俺にだって言い分はあるんですよ。理系でモノづくりの方面に進む人間の脳みそなんて似たり寄ったりですよ。自分が作った物が社会に出て、人々の生活を豊かにする。工夫して生み出したものが回りに認められる。苦労して課題を乗り越える。そういう事に喜びを感じる人種ですね。
現代の日本の仕事ではモノづくりは行き詰っていたと言っても良い。斬新なアイデアなんて当の昔に試されて、2番煎じ、3番煎じは当たり前、訴求の為に、作っている側すら必要か分からない機能をつける。上からは厳しいコストカットを突き付けられて性能と安さを両立させるために辻褄を合すだけのモノづくり。開発業務と言えば聞こえはいいかも知れないが、モノづくりの中間管理職みたいな仕事ばっかりさせられていれば、早晩嫌になるのは間違いないだろう。まぁ、言い訳と言われればそれまでなんだけど。
でね、この世界ではそれらのモノづくりに対する柵がない。もちろん、作っている物は地球ですでにあった物だけど、この世界の技術に合わせて加工方法や、形状を工夫したり。そうやって作るもの全てが、この世界では新雪の雪を踏むような、新しい方法なのだ。楽し過ぎた。たぶん、こうなるという未来を知っていても俺は同じ事をしたと思う。
という事で、報告は終わりなんですが、問題はこの状況をどう打破するかですね。幽閉されているとは言え、待遇は悪くない。むしろ良すぎるぐらいだろう。部屋は30畳ぐらいあるし、食事はおいしい、ソファーとベッドは最新のスプリング入りで快適だ、自分が作ったものが既にあるというのが、なにやら複雑な気持だけど。
情報を集めようにも世話をしてくれる男は何も知らないみたいだ。何を言っても。"処遇が決まるまでここに居てもらいます。"という回答しか返ってこない。NPCに話しかけている気分になる。
取り合えず、何か動きがあるまでは我慢かな、まさか処刑されるという事はないと思う。幸い時間だけは大量にあるし、図面を描く道具もある。俺は懲りずに机に向かって、描きかけの図面に手を付けた。
次の更新は2021年08月21日(土)です。




