33話
年が明けて少し経った日、ミナお嬢様に外食に誘われた。普段、俺達の食事はエレナさんが作っている。エレナさんの料理は味付け自体は薄いが、どれも美味しいので不満はない。昼は学院で給食が出るが、流石は貴族も通う場所とあって、こちらの料理も美味しい。
毎日の食事に不満はないが、"たまには良いだろう"と言われたので、行くことにした。ただ、その前にワイヤーを作る為の部品が揃ったので、試験がしたいと言ったら、ミナお嬢様達も付いてくることになった。
工房までは寮から10分もかからない。そこで工房のメンバーを拾う。ワイヤー作りに関わる工房のメンバーは5人だ、比較的若い人が多い。親方が新しい事をするなら若い者の方が良いだろうと言って、若手を担当にしたらしい。当然の如く全員女性だ。
今回 依頼するのに当たり、勉強会もした。そもそも、俺が図面を引いてもそれを読図できない。ということで、数字の勉強から始まり、長さや角度の説明、図面の見方、公差の事、簡単な仕上げの記号等、全5回開催で何とか頭に叩き込んでもらった。工房のメンバーは特に嫌がる事もなく、まじめに話を聞いてくれた。向こうからすれば、お金をもらえて更に勉強もできるのだからありがたいのだろう。俺としても研修費用として割り切っているから特に問題はない。
ちなみに、長さの単位は俺の身長が1m50ぐらいだから、これの3分の2を1mとして固定した。角度は定規とコンパスがあれば作れる。1周を360度としたが、なぜ、360度なの?という質問が来てビックリした、そういや、そんな事考えたこともなかったな。
10人程度の大所帯になり、川に向かう。ワイヤー作りは動力源を水車とする為、川の近くに場所を借りて小屋を作った。試験場代りに使うものなので規模は小さい。上流には小麦をひく為の小屋もいくつかあった。
小屋につくと早速セッティングを始める。大型の部品は既に運び込んでいる。ダイスや歯車を所定の位置に固定する。ダイスの材料には鋳鉄を使い、素材に使われる材料は鋼を使っている。もっとも鋳鉄、鋼という言葉はない。固い鉄、柔らかい鉄と工房の人は呼んでいた。今回やろうとしているのは、直径20mm程度の鉄の棒を、1回の引き延ばしでどれだけ減面できるかを確認する試験である。
ワイヤーは鉄の棒をダイスという工具の穴を何度も通過させることで徐々に細くして作る。直径20mmの棒なら、20mm → 19mm → 18mm → 17mmと順に細くしていく感じだな。最終的に直径2mmまで細くできれば、長さ30cm棒から、30mのワイヤーを作ることが出来る。
鉄棒を洗った後、表面に油を塗り、試験を始める。工房の人達はこんな方法でうまく行くのか不安気な表情をしている。俺はこのやり方が正しいのを知っているので構わずに進める。付けているのは直径19mmのダイスだ。減面率は10%だな。止め木を外すと動力が伝わり、鉄棒を引っ張り始める。最初こそ順調だったが途中で鉄棒が破断した。
まぁ、いきなりうまく行くとは思っていない。次は直径15mmのダイスだ。減面率は45%だ流石に無理だろうと思ったら、こちらは予想通り全く引っ張れなかった。その後、色々、試した結果、直径18mmのダイスが一番うまく行くことが分かった。減面率20%ぐらいだな、ただ、これでも若干引っ張る力に不安を覚えるから、恐らく、減面率15%ぐらいが適性値に近いのだろう。あまり細かい刻みでのダイスは作っていないから、今回の試験はこれで終わりだな。という事で、課題を次回に持ち越して帰る事にした。
帰り道、工房のメンバーに質問攻めにあった。質問してきたのは三人で、この人達は若干興奮気味だった。今回の試験が産業に革命をもたらすかも知れないと考えたのだろう。残りの二人は冷めていた。大型の機械を使って20mmの棒が少し細くなっただけだ、それなら鍛造でいくらでも作れる。そんな風に思っているのかもしれない。質問は初歩の事が多かったが、それでも技術的な話をするのは楽しかった。俺としては大満足の試験だった。
試験が終わり外食の身支度をするため、一旦、寮に戻ってきた。時間は夕方になっていた。食事をするには良い頃合いだろう。汚れてしまった体を洗い、服を着替える。ミナお嬢様と外食するのに、女装はまずいのできちんととした服装だ。ワイシャツに濃い色のタキシード、これは王都に来てから購入したものだ、成長しても着れるように裾上げしている。髪もしっかりと整える。
準備が出来て玄関に向かうと既にミナお嬢様が居た。ミナお嬢様は淡い色の服を着ている。濃い色の服を着た俺と並べば、映えるだろう。俺がこの服を着る事を見越して、服を選んだのかも知れない。髪はアップにしている。たぶん"シニヨン"と呼ばれる髪型だ、頬には紅が入っており、いつも強気な瞳も今日ばかりは柔らかく見える。
「・・・では、行くか。」
暫くお互い見つめ合っていたが、思い出したようにミナお嬢様が言いながら、手を差し出した。この世界では女性が男性をエスコートする。
馬車に乗り、王都の中心地に近い料理店に行く。到着した店は見た感じから、品の良さが伝わってくるような建物だった。恐らく、俺が日本に居たままなら一生縁の無かったような場所に違いない。大理石の階段を上がり店に入ると、グリートレスに挨拶をされ、個室に通された。ミナお嬢様が事前に調整していたのだろう。
店の料理は言うまでもなく美味しかった。壁に掛けられた調度品はどれも高級そうだったし、店の中には音楽が流れていた。録音装置などないから当然、生演奏だ。目で見て、耳で楽しませ、味で喜ばす。そんな演出なのだろう。庶民的な俺としては、1回の食事でいくらかかったのか聞くのが怖いぐらいだ。普通の人の月収ではまず足りないだろう。
ミナお嬢様と会話をしながら食事を楽しむ。会話の内容は今日の試験の事から始まり、学院の事、この国の事、将来の事、たまに会話が途切れて目が合うが、それが何ともむず痒かった。ちなみにエレナさん達も護衛としてきているが、食事は別の場所でしている。もっとも出てくる料理は同じものだそうだ。
という事で、夢のような食事の時間が終わり、馬車で寮に戻ってきた。正直に言うと、行く前は、少し面倒くさいと思っていた。でも、今は行って良かったと思っている。あんな世界もあるのかそんな感じだな。
寮に戻った後、ミナお嬢様の私室に誘われた。まだ話したりなかったので、二つ返事で受けた。後に思えばこれがまずかった。
今、二人でベッドの上に腰を掛けている。非常にいい雰囲気だ、かわす言葉は途切れ途切れになるが、決して嫌な雰囲気ではない、むしろ甘酸っぱい雰囲気だろう。
俺としてはこの状況は非常にまずいと思っている。なんか雰囲気に流されていないだろうか?でも心地よい。そこが更にまずいと思う。その繰返しだな。
暫くしてお互いに無言になり、どちらからともなく見つめ合う形になる。チークを塗った顔はいつもより色っぽく見える。
ミナお嬢様が愛を語り、それに俺が答える。唇が近づいてきたので、目を閉じた。
ミナお嬢様キスがしたかっただけなのか、何だかホッとしたような、残念なような。考えてみれば、内々の話とは言え、結婚を約束した仲だ、今までそういう機会がなかったのが不思議なくらいだろう。
目を閉じて暫くして柔らかい物が唇に触れる。1秒、2秒、3秒・・・長い。と思っていたら舌が入ってきた。何考えてんのこの娘、流石にまずいと思って離れようとしたらがっちり腕がホールドされていた。
「我慢できんのだ、ユータいいだろう。」
暫くして、唇を離したミナお嬢様が言った。
「ミナお嬢様?」
良いか、ダメか、で言ったらダメだろう。
「それにユータのここも反応しておる。」
ミナお嬢様が"トロン"とした表情で言う。すごくエロい。
見ると俺のあれも膨らんでいた。何で?今まで夢精の時ぐらいしかまともに反応しなかったのに?それに部屋に充満する濃い花の匂い、俺の匂いか?ひょっとして隠蔽が解けてるのだろうか?
「なぁ、いいだろう。それにユータもすごいいやらしい顔をしているぞ。」
ミナお嬢様が再度問いかける。
えっ、俺もそんな顔してるの?
まずい、まずいと思いつつ、そう思うほど、盛り上がるわけで、それにミナお嬢様も止まりそうにない。
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そんなわけで、"グダグダ"な感じで俺たちは一線を超えてしまったのでした。




