28話~ミナスタシア視点~
領都の与えられた別邸の食堂で、いつもの3人が集まり話をしていた。
「まぁまぁまぁ、ミナお嬢様とユータが婚約ですか?なんとおめでたいことでしょう。」
事情を聞いたエレナは笑みを浮かべながら言った。
「婚約ではないぞ、母上から結婚しても良いと許可が出ただけだ」
ミナが釘を刺す。
「同じようなものではありませんか。イザベラ様が許可を出したという事は、誰も文句をつけようが無いでしょう。私も頑張った甲斐がありました。」
「はぁ…、本当に分かっているのか?あくまでも内々の話だぞ、外に漏れれば結婚の話など直ぐに飛んでしまう。特に向こうの男爵家に知られれば、顔に泥を塗られたと思うだろう。今でさえ関係は微妙なのだ、余計な事をしてくれるなよ。」
「そこら辺はキッチリ理解しているから大丈夫ですよ。」
エレナが続ける。
「ところで男爵家との婚姻の話はどうなるのですか?ドナスタシア様は既にご結婚されていますし、レナお嬢様もミナお嬢様もダメとなると、こちらにはもう相手がおりませんが?」
「分からん。母上には私達3人しか子供が居ないが、父上には他に10人の子供が居たはずだ、その内の一人を養子として迎えるという手もあるだろう。だがなぁ・・・」
「何か問題があるのですか?」
「一つ目はこちら側の問題だな、今回、縁を結ぼうとしたのは、昔から付き合いがある、コンコード男爵家というのだが、最近は評判がいいとは言えんのだ。
視察の時に居た"グスタ"という大女を覚えているか?」
「もちろんです、ユータとワンナに絡んでいた女ですよね?」
「あの大女がコンコード家の出身だ、今回、婚約しようとしてたのは、あれを男にした感じだな。貴族の男は我儘になりがちだが、コンコード家の長男は特に酷い。普通は貴族の男子と結婚できるなんて、めったにない事だ、嬉しい事の筈なんだが、あれが相手では、自分の娘と結婚させたくないから、養子に押し付けたと思われる可能性すらある。」
「イザベラ様はどうしてそんなところと繋がりを持とうとしたのでしょう?」
「それが貴族の務めだからな、色々あるんだろう。」
ミナお嬢様が続ける。
「二つ目は、向こう側の問題だな。養子を取って、婚姻関係を結ぼうとしても納得しない可能性がある。母上の直接の子供ではないから繋がりも薄くなる。向こうからすれば大事な長男だ、それなら"別の家に"となる可能性はある。」
「なかなか複雑なのですね」
「まぁ、その辺りは母上がうまく調整してくれるだろう。私が考えるべき事としては、学院を卒業することだな。」
「そうでした、結婚は学院卒業後でした。この上、3年以上待たないといけないのはきついです。」
エレナが"グデー"と食堂の机に身を投げ出したと思ったら、顔を上げて言った。
「あれっ?良く考えたら、我慢する必要があるのはミナお嬢様だけでは?」
「お前まさか、私より先にユータに手を出す気ではあるまいな?」
「ダメなのですか?」
「ダメに決まっておろう。」
「いいじゃありませんか、悋気臭い女は嫌われますよ。」
「ダメだ!」
「私はユータとエロい事がしたいんです!」
「そこまで正直だと、逆に清々しいな。だが、ダメだ。大体、いきなりエレナがユータの寝室に行ったら、戸惑うだけだろう。それでは逆効果だぞ。」
「ううう、ミナお嬢様の意地悪、3年以上も私の精神と下半身は耐えれるのでしょうか?」
「精神の方はもうあきらめているが、せめて下半身は耐えろよ。」
ミナお嬢様がジト目でツッコむ。
「仕方ないですね。3年経てば、結婚は確約されているのです。焦らず待つしかありませんね。ところで、学院とはどんなものなんですか?全く分からないのですが?」
「学院の事まではさすがに知らん。その辺はソフィアが詳しいのではないか?」
ミナがソフィアの方を向いて言った。
「そうでした。ソフィアさんは王都の学院を出たのでしたね。どんな感じなのでしょう?」
「基本的には貴族の子供が集まって勉強する場所と考えてもらっていいです。平民の子供もいますが、数は少ないですね。」
話を振られたソフィアが答えた。
「フムフム、勉強するだけなら家でやればいいと思うのですが、何故、わざわざ集まるのですか?」
「専門的な勉強なんかは、やはり家庭教師だと限界がありますからね。学院に行くことで貴族はコネクションを作る事も出来ますし、王都で騎士号を取る事で、自分の領地に帰ってから跡を継ぐ際にスムーズに行く場合が多いです。」
「なるほど、意外に合理的な気がして来ました。しかし、ユータにはあんまり意味がないような気もしますが」
「いえ、学院には様々な"科"があるので、それぞれの身分や適性にあった場所に通うのです。ミナお嬢様なら騎士号が取れる"騎士科"に、ユータさんは私と同じ"執務科"に通う事になるでしょう。これは、領主の政治に助言し、補佐する人間を育てるところです。他には"神学科"、"医学科"、"法学科"がありますね。」
「ほー、という事は、同じ学院に居ても、ミナお嬢さまとユータは"イチャラブ"出来ないという事ですか、残念でしたね。」
エレナがミナの方を向いて言った。
「別にそんなの期待しておらん、大体、変な噂が立ったら困るだろう。」
「そういえば、聞きそびれてましたが、私達はミナお嬢様達と一緒に王都へ行くという事でいいんですよね?」
「エレナとワンナはそうだが、ソフィアはゼウル村の代官を引き継ぐという事で残ると聞いている。」
「その話なら断りました。私もミナお嬢様と王都へ行くことを許されましたので、ついていく予定です。正確にはユータさんの護衛として行くことを許されました。」
「なんだそうなのか?良く母上が許してくれたな。」
「はっ、私ピンと来ました。ズバリ、ソフィアさんもユータとエロい事をしようと狙っていますね。だからついて来ようとしてるのでしょう。」
エレナがビシッとソフィアを指差しながら言った。
「そうなのか?」
「いけませんか?」
ソフィアが顔を背けて、頬を掻きながら言った。
「かーっ、これですよ。ソフィアさんはユータに興味が無い振りをしながら、虎視眈々と"腰ニャンニャン"する機会を狙っていたというわけです。」
「私だって女だ、エロい事はしたい。」
ソフィアが照れながら言った。
「別に構わんがソフィアにも結婚までは待ってもらうぞ。それにユータの気持ちもある。」
「ユータさんの気持なら大丈夫です。嫌いじゃないと言われましたから、それは即ち好きという事でしょう。」
「ソフィアさんお言葉ですが、それは無理があると思いますよ。"嫌いじゃない"と"好き"との間には竜神の谷より深い溝がありますからね。」
「ユータの気持に関しては、エレナも同じようなものだろう?大体、お前さっき私にケチ臭い女は嫌われると言ってたのにソフィアに文句をつけるのか?」
「いや、私は回数が減るとかそういうことを言ってるんじゃないですよ。」
「言ってるじゃないか。」
「まぁ、ユータの護衛については私もどうしようか悩んでいたところだ、その点、ソフィアなら適任だろう。」
「それは、そうですが」
エレナが同意する。
「学院の入学は9月からだ、まだ、5ヶ月近くあるとは言え、ミズゴケと石鹸の事業やゼウル村の代官業の引き継ぎもある。勝負が終わったので、暫くはゆっくりするつもりだが、その後はまた忙しくなる。引き続きよろしく頼む。」
ミナがそういうと、エレナとソフィアが一礼した。




