25話
ソフィアさんと話した日の夜。俺は一人部屋の中で作戦を立てていた。勝負終了まで残り4ヶ月と少し、出来る事は全てやろうと思う。まずはシャンプーとリンスの販売だ、屋敷で今 使用しているものと同じものを売る。これは俺が作った物をミナお嬢様に直接手売りしてもらう。幸いな事に4ヶ月の間で石鹸作りの方は大分形になってきた。俺が作業場にいかなくても特に問題はない。寧ろ俺が作業場に行くと、集中できないので来ないで欲しいと言われているくらいだ。時間は結構空いている。
シャンプーとリンスは一人で作る為、販売量は少なくなるが、多く売る事が目的ではない。ミナお嬢様がこれを直接売るという事が重要なのだ、直接売ってもらう理由は2つある。一つ目はモンスターの討伐に参加してほしくないからだ、ミナお嬢様の場合、怪我が完治していないのに、情報が入ればモンスターの討伐に参加する可能性がある。それを止めさせたい。二つ目は政治的影響力を強める為だ、シャンプーとリンスは当然ながら高級品として売り出す。そして、ミナお嬢様と伝手が無いと手に入らない。
シャンプーもリンスも一度使えば、手放すのが惜しくなる物だ。使用感という意味でも注目を浴びるという意味でも、特に"目立つ"と言うのは、自己を肯定してくれて、一種の快楽を得る事が出来る行為だろう。シャンプーとリンスがミナお嬢様を通してしか入らないのであれば、積極的に敵に回ろうと思う人は減るはずだ。
次にミズゴケを販売しようと思う。こないだピクニックに行った際、大量に群生しているのを見かけた。これを刈って売る。園芸をやる人なら分かるかもしれないが、乾燥ミズゴケは吸水性が良く特にランの生育には欠かせないものだ、吸水性が良いという事はつまり、"生理用品"や"オムツ"の素材にも使えるという事だ。実際、地球では同様の用途で使っている地域もある。ということで、乾燥ミズゴケを利用した簡易ナプキンを作ることを思いついた。開発期間は短く済むし、大量に作れる。日用品だから常に需要がある。それにこの世界は女性が多い。勝負には打って付けだと考えた。
この国の女性は普段は、生理用品としてリネンを折りたたんだものを使用している。リネンは吸水性は良いが、通気性と肌触りはそれ程 良くない。それに吸水性という面でもミズゴケには遠く及ばない。乾燥ミズゴケはその重量の20倍の水を吸水・保持することができる。10gあればコップ一杯分ぐらいの水を吸ってくれる計算だ。
早速、サンプルを作って屋敷の女性達に試してもらった。渡す時に微妙に、というか、かなり恥ずかしかったのは内緒だ。逆に渡された方は普通にしていた。う~ん、この世界の女性が特別なのだろうか?自分でも従来のリネン式と簡易ナプキンを着け比べてみた。快適性はかなり簡易ナプキンの方が勝ってる気がする。固定方法とかはもう少し工夫が必要だがかなり良い出来だと思う。臨時で雇われた屋敷の警備の2人の評判も良かったし、いつも冷静なエレナさんが"これは革命が起きます。"と興奮気味に話していた。珍しい。
女性ならではの視点での改良もあったので、最終的に、それを盛り込んだ形で商品にした。手ごたえはある。後は、あまり俺が前に出すぎてもまずいので、ミナお嬢様の手腕に期待するしかない。手紙では要点だけを伝えた。
手紙とサンプルを受け取ったミナお嬢様から、直ぐに返事が来た。簡易ナプキンはミズゴケを川で輸送して領都の方で作る事が出来ないか?と質問が来た。なるほど、川を使って輸送するか…、俺は輸送については、商人を使う事を考えていた。ミズゴケは乾燥させれば重くはないが、容積的にはかさばるかもしれない。ゼウル村は林業の村だから丸太を川で輸送している。それに便乗しようという事だろう。ミズゴケ自体はズタ袋に入れれて丸太に括り付ければいい。試してみたけど特に問題はなさそうだった。但し、川を使う場合は細菌とかが怖いから、煮沸消毒する必要があるな。その辺りの事を書いて返信した。内容は仕事の話だけど、文通しているみたいで楽しい。余計なこと書いたら怒られるかなと思ったけど、一言"怪我の事が心配です。"と書き添えた。
また、返事が来た。簡易ナプキンは最初は石鹸とセットで売る事にしたらしい。ミズゴケを包む素材には綿を使うそうだ、綿はリネンよりも高価だが、ミズゴケを包むぐらいならそれ程 大量には使わない。使い心地を重視したのだろう。それに洗えば何回も使える。そこら辺の事を考えてのセット販売なのだろう。後は模倣対策にブランド化する事にしたらしい。要はゼウル村のミズゴケは品質が良いと宣伝しながら売るという事だな、併せて模倣品を売る業者に圧力を掛けていくというような話も書いていた。手紙の末尾には"怪我の方は大丈夫だ、心配するな"と文が付け加えられていた。
ミズゴケなんてそこら辺に生えているものだから真似するのも簡単だ。それを阻止しようとしているのだろう。ただあまりやり過ぎると闇市みたいに裏で取引されるようになる。実際、塩なんかは専売にして高額の税金をかけたりしたら、裏で取引されるようになるのは割とよく聞く話だ。簡易ナプキンは必需品ではないし、安く売るつもりだから、そんな事にならないかもしれないが、一応 やりすぎに注意するようやんわり書いた。特に石鹸については問題はないが、簡易ナプキンについては、既得権益の一部に食い込むものだ、ミナお嬢様が貴族なので表立っての反発はないかも知れない、政治的影響力も強める。しかし、注意は必要だろう。
手紙のやり取りをするうちに、販売できる体制が整ったのでそろそろ売り始めるとの事。簡易ナプキンについては、領外や国外での販売も考えているらしい。領内での販売がどうなるかも分からないのに、外に目を向けても仕方がないと思ったが、ミナお嬢様なりの考えがあるのだろう。それに、他領との交易や外貨獲得と言う意味を考えた場合 功績として悪くない。そう判断したのかもしれない。
シャンプーとリンスもある程度まとまった量が出来たので、カインさんの商隊に領都まで持っていってもらう。商人の女性達は自分たちで取り扱いたいみたいな事を言っていたが、暫くは輸送だけ担当してもらう事で合意した。将来的には販売を任せてもいいかも知れないが、今は勝負に集中したい。
勝負期間終了まで、残り3か月半 後は、ひたすらシャンプーとリンスを作り、ミズゴケを刈りまくるだけだな。




