第16話:ぐー。
あれからおよそ一週間が経った。
セーヴンはほぼ毎日、スライム厩舎で働いてくれている。マサクィもコマプレースのテイマーギルドに戻り、後輩を二人連れて再びやってきた。
「とりあえず二人連れてきました。他にも声かけてるのいるんで、交代でこっちくる感じっす」
「助かります。これからよろしくお願いしますね」
「よろしくおねしゃーす」
「おねしゃーす!」
それからさらに数日。ウニリィは彼らに作業内容を指導し、クレーザーも忙しく自らの仕事を終える。いよいよ王都へと出発する日がきたのである。
「じゃあスライムたちをお願いしますね」
「お任せください!」
ウニリィの言葉にマサクィは胸を叩いた。ウニリィは少し屈んで手を振る。
「いってくるわね!」
ふるふるふるふるふる。
地面には無数の色とりどりのスライムたちが並んで揺れていた。いってらっしゃいと手でも振っているかのようである。
「三日で戻る予定だから」
ふるふる。
スライムたちは頷いているようだ。実際に言葉を理解しているのかは定かではないが。
「その間の食事はちゃんと用意してあるから安心してね」
ふるふるふる。
「マサクィさんたちに迷惑をかけないようにね」
ふる……。
なぜかスライムたちはそこで動きを止めた。
マサクィは激しく不安を覚えたが、ウニリィはナンディオの手を借りてひらりと荷馬車に乗ってしまった。
クレーザーも荷馬車に積み込んだスライム製品を縄でしっかりと固定して、御者台へと乗り込む。
せっかく王都チヨディアまで行くのだ。今日はスライム製品の卸しを行ってから宿で一泊、明日は朝からシルヴァザのスリーコッシュで買い物という予定である。
「いってらっしゃいませ、クレーザー男爵、ウニリィお嬢様」
セーヴンがそう言ったので、クレーザーは苦笑する。
「そうかしこまって言われてもな。こんなぼろい荷馬車にバケツ積み込んでいて男爵もあるまいよ」
「じゃあいってきます!」
ウニリィが手を振った。
荷馬車はガラガラと車輪を軋ませて道をゆく。それにかぽかぽと足音を響かせて並走するのは騎乗したナンディオである。本当はちゃんとした馬車も用意してあったのだが、荷物が多いので今日は荷馬車で行くことにしたのだ。
陽射しはさんさんと、ぽかぽか陽気のお出かけ日和である。馬上からナンディオが尋ねる。
「スライム製品の納品はどこに向かわれるのです?」
「カッパーブリッジですな。王城の北東に位置する問屋街です」
クレーザーが答えた。ふむ、とナンディオは考える。
王都には水路が網目のように縦横に走っているが、その問屋街の入り口には立派な銅製の橋がかけられている。ゆえにカッパーブリッジという通名で呼ばれるようになったのだとナンディオは知っている。
加えて、カッパーブリッジは食品や食器関連の問屋が軒を並べているということも。
「スライム製品は食品関連なのですか」
「ふむ、そのあたりの説明をあまりしておりませんでしたかな」
クレーザーは御者台で馬を操りながら話し出す。
スライム製品とは、スライムの体組織を利用して作られた製品のことであり、二種類に大別される。
一つが粘体の体を利用したもので、もう一つは体の中心に隠れている核を利用したものだ。今回、クレーザーたちが積み込んだバケツに入っているのは、粘液を加工したものである。
「スライムゼラチンですな。動物から摂るものとそう変わりませんがね」
ゼラチン、あるいは膠である。本来は動物の肉でも食用に向かない皮とか蹄、骨なんかを煮込んで抽出されるもので、工業的には接着剤や画材として使われ、食品や医薬品にも使われるものだ。スライムの粘体も加工すると同様に使えるようになると。
クレーザーとウニリィは口々にそのようなことをナンディオに語った。
「なるほど、食品としても使われるからカッパーブリッジなのですね」
「そういうことです。ただ、スライムの体のゼラチンって、動物からとったのより値段が安いんですよねー」
ウニリィが唇をとがらせた。
「ほう、そうなのですか」
簡単にいえば、スライムの体表である粘液は汚れているのだ。スライムが地面を転がるせいでもあるし、小動物などを包み込むようにして捕食するからでもある。クレーザーやウニリィはそうならないように管理飼育しているのだ。
エバラン村から田畑の間の道を抜け、スナリヴァの宿場町の手前で街道に出る。そして今日は町には寄らずそのまま北へ。
道には行き交う人々も多く、正面には王都の城壁が見えてくる。
「スライムの核を利用した製品というのはどういうものです?」
「それは……」
ウニリィが説明しようとした時である。
ぐー。
ウニリィのお腹が元気に自己主張をしたのだった。
ナンディオは聞こえないふりをしたがクレーザーが笑う。ウニリィは顔を赤く染めた。
「昼食にしましょうか」







