第139話:貴族すげー。
私のドレスがあるってどういうこと? とウニリィは困惑した。
ちょっと裕福なくらいの平民や、逆に貴族や騎士であってもあまり裕福でない者は、礼服やドレスを借りたり着回したりということはある。
ウニリィだって新興の男爵家の令嬢なので、本来ならそうしたって良いのだが、シルヴァザのスリーコッシュでドレスを仕立ててもらったのだ。そのドレスであれば公爵家に招かれても問題ないだろう。
ただ、今日はそもそもその用意をしていない。当然である。今日は夜会に出席したりお城に行くわけではないのだから。
今着ているのは宿場町のスナリヴァで買った1着である。これだってちょっと前のウニリィから考えればとてもおしゃれなのだが、公爵家で着るようなものではない。それはリンギェやトリュフィーヌの服装と比べれば容易にわかることだ。
「私の服があるとはどういうことでしょうか」
「ウニリィさんの服があるとは、この屋敷にはウニリィさんのために仕立てた服が準備されているということです」
情報が増えていない……! いや、自分の聞き方が悪かったとウニリィは思う。
「なぜ、私の服があるのでしょうか。えっと、そのサイズとか」
リンギェはウニリィより小柄だし、トリュフィーヌは身長は同じくらいだが胸など豊かで、ウニリィとは服のサイズが違う。使用人ならたくさんいるはずだし、同じサイズの者もいるだろうが、そもそもそういう話ではないないのだ。
『公爵家に相応しい』ドレスなら当然オーダーメイドになるのだから、それが初めてきたミドー公爵家にあるはずがない。
「スリーコッシュで服を仕立てたでしょう」
「はい」
トリュフィーヌは突然そんなことを言いだした。
ナンディオに連れられてシルヴァザのスリーコッシュで服を仕立てて貰ったのは貴族になるという話を受けてすぐのことである。
その話をトリュフィーヌはおろかマグニヴェラーレにすらした覚えもないが、どうやってその情報を入手したのであろう。
ウニリィがむむ、とうなっていると、リンギェが笑って言う。
「服を見ればどこで買ったのか、どこで仕立てたのかくらいわかりますのよ」
貴族すげー! ウニリィの目がくわっと開く。
「既製品を手直しされていたけど、装飾品との組み合わせも含めて非常に素敵でした。調べたらマダム・ミレイがその日にスリーコッシュにいたと」
マダム・ミレイとして知られるカカ・ミレイワなる高名な服飾師が、ウニリィの服を選び、調整してくれたのであった。
探偵ばりの情報収集である。貴族すごい。
「それで、マダム・ミレイからお話を聞いたら、キーシュのアレクサンドラ姫の依頼でウニリィお義姉さまのドレスを調整したというではありませんか。だからサイズはわかってますのよ」
「そういえばあの日、マダム・ミレイは入念にサイズを測っていました……」
そうでしょうと、リンギェは頷く。トリュフィーヌが話を継いだ。
「ですのでミレイワの仕立屋に、何着かあなたの服を用意させてますの」
「あ、ありがとうございます!」
マダム・ミレイ本人は予約もいっぱいであるし、手ずから作製するのはそれこそちゃんとした夜会用のドレスである。弟子たちにウニリィのデイドレスを仕立てさせたといったところであった。
「ああ、そうそう」
思い出したようにトリフィーヌは言う。
「カカ・ミレイワを見出したのはキーシュ家ではなくて、わたくしですからね。覚えておくといいでしょう」
マダムは上流階級で引っ張りだこの人気職人である。それを最初に評価したというのは名誉なことであり、きっと貴族の婦人たちでは常識なのかもしれないとウニリィは考えた。
「は、はいっ」
「さ、着替えていらっしゃいな。そうしたらお茶でもしましょう」
そう言って、使用人たちにウニリィの着替えを手伝うよう言付け、トリュフィーヌは先に館へと向かった。
ふぇー、とウニリィが感心していると、リンギェが話しかける。
「ウニリィお義姉さま、着替えましょう。その前にスライムさんを移動させなきゃかしら」
「そうですね、着替えちゃう前にお庭に」
ウニリィはスライムを見た。緑のスライムは身を揺らす。
ふにょん。
――さっきの人。
「うん、ヴェラーレさんやリンギェさんのお母さん。偉い人だからね。失礼しちゃだめよ」
はーいと思念が返ってきて、スライムは再びふにょんと身を揺する。
――にんげんはおもしろいマウントのとりかたをするね。
マダム・ミレイの件である。なるほど、動物や魔獣たちの上下関係を決めるマウントとはまるで違うだろう。
スライムの言葉ににウニリィは思わず吹き出した。
「どうしました?」
「いえいえいえいえ。な、ナンデモありませんよ。お庭どんなところかナーって気になってるみたいで」
「ウニリィお義姉さま、誤魔化すの下手ですよね。気になりますわー」
リンギェが尋ねるが、それこそとても失礼な話で口にはできなかった。







