第123話:確保ぉ!
マグニヴェラーレは魔力が回復するまでカカオ家でゆっくりさせて貰うこととした。
「ウニリィも一緒に休んでなさい」
「私、元気よ?」
「いいから」
今日は休みとクレーザーに改めて言われたウニリィと、マグニヴェラーレは牧草地に椅子を並べてだらだらとする。
目の前ではスライムたちが並んでうにょうにょしては列から外れ、また別のスライムがふるふると揺れる。
「休んでると何か罪悪感が……」
「働き過ぎの症状ですね」
「うー……」
「私と休んでるのはお嫌ですか?」
「その聞き方はずるいです」
ふっ、とマグニヴェラーレは笑う。
ふるふる。
「……ところでこのスライムたちは何を?」
「お、お見舞いですかね」
元気になってねー。
とか思念が送られてくる。マサクィの言によれば、きっと何らかの活力も送られているのだろう。
あるじをよろしくねー。
つがい! つがい!
なかにはこんなことをマグニヴェラーレに言っているスライムもいる。
が、まあそれはマグニヴェラーレに翻訳しなくてもいいだろうと、ウニリィは口にはしなかった。
結局昼過ぎまで雑談に興じ、昼食まで食べてからマグニヴェラーレは城に戻ることにした。
牧草地の脇、転移で来たあたりのところに立つ。皆が見送りに立っていた。
「じゃあこの辺には物を置かない方がいいんだな?」
「お願いします」
転移先が物で埋まっていると失敗するためだ。
「スライムたちもこの辺は踏まないでねー」
ふるふる。
ウホウホ。
スライムやニャッポさんも頷いた。
「ではまた来ます」
「はい、いってらっしゃい」
何気なくかけられた、ウニリィの言葉を聞いてマグニヴェラーレの胸にこみ上げるものがあった。
マグニヴェラーレはウニリィを見つめてしっかり頷く。
「行ってきます」
ウニリィたちは手を振る。
マグニヴェラーレの身体から魔力が放たれ、彼女たちの目の前でその姿が突如消失した。
「行っちゃった」
ウニリィは少し寂しげに呟くのだった。
一方のマグニヴェラーレである。
転移先は当然、彼が朝に出発した場所、彼の執務室である。
転移は無事成功し、見慣れた部屋の光景が視界に映る。
「来たぞ!」
「確保ぉ!」
だが、マグニヴェラーレが戻ってくるなり、副官シークラーの号令とともに、魔力遮断の付与された網がマグニヴェラーレ覆い被さった。魔術を使用できなくするものだ。そして衛兵たちが彼の腕を掴む。
「……何をする」
「閣下、こうしないと一瞬で逃げられる可能性が発生してしまったので」
シークラーは肩を竦めて言った。
熟達の転移術使いは拘束そのものが極めて難しいのである。なんなら殺すことよりもずっと。
「網のことを聞いてるのではない。なぜ私は拘束されているのだ」
「この時間に戻るというのは、遠見の師に見て貰いました」
遠見の師は現役の宮廷魔術師での最高齢で、第四席の魔術師である。彼にマグニヴェラーレが帰還する時間をわざわざ予知して貰い、兵を準備したということである。
「そういうことではなく」
「なぜ捕まえたかと言えば、仕事サボって逃げたからですね」
「今日の分の仕事は終えてあったろう」
「ええ、そちらは完璧でした」
「なら」
「その辺は陛下に仰ってください」
というわけでマグニヴェラーレはファミンアーリ王の前に連行された。前にウニリィを連れていった私室である。
「ヴェラーレよ。ずいぶん面白い格好をしているな」
連れてこられたマグニヴェラーレは網がかけられたままである。彼はため息をついて言った。
「陛下の御前で逃げたりはせぬ」
「放してやれ。そして下がるが良い」
衛兵たちはマグニヴェラーレから網を外すと、一礼して退室した。
「ひどい目にあいました」
「職務放棄して出て行くからよ」
「新魔術の実証実験でしたから」
マグニヴェラーレはどこ吹く風で答える。
まあ、魔術師なぞいくら宮仕えしていようと自己中心的な者ばかりである。彼が職務時間に抜け出したのはもちろん悪いことではあるが、よくあることでもあった。
「それよ」
王は言う。
「お前、個人転移とかいう偉業を成し遂げて報告も後回しに勝手に出るんじゃない」
「はぁ」
「転移に失敗して汝が身を損じたらどうするというのか」
どうやら王は弟分を心配してくれているらしい。
マグニヴェラーレには自信があっても、万が一の事故は常に存在するのだ。新術式ならなおのことだ。
「申し訳ありません」
マグニヴェラーレは素直に頭を下げた。ファミンアーリ王は身を乗り出す。
「それで、結果はどうだったのだ」
「成功です。王城からエバラン村まで跳び、魔力の回復を待って再度王城に転移しました」
ふむ。と王は顎を撫でる。
「あれか、ウニリィなる娘と会ってきたのか」
「彼女にも会いました」
「なるほど」
マグニヴェラーレは王の目を見据えて尋ねる。
「今回の改良術式は、私個人のものとせず、王家に献上いたします。その功績をもって、宮廷魔術師を退職しても良いでしょうか」
「バカを申すな。ダメに決まっておろう」
にべもなかった。







