第121話:ちちち、違うんです!
ぴぇっ!? と悲鳴を上げてウニリィは飛び起きた。枕にしていたスライムがぽてんと転がる。
ベッドに座り込んで、そのまま倒れて寝てしまったので、脚はベッドの外に投げ出されているし、ひどい寝相のようである。
手袋やエプロンも適当に放り投げるわスライムは転がっているわ、これじゃ超だらしない女みたいじゃない! とウニリィは慌てる。
「ち、ちちち、違うんですこれは!」
「ええ」
マグニヴェラーレは紳士らしく、ウニリィの姿から視線を逸らした。
だが逸らした先、可愛らしいピンクのカバーがかけられた枕の上には、肌色の面積の多い男女が描かれたカバーのかけられた本が投げ出されていた。
ヌラ・ノースサイ先生が表紙を描いた春本である。
マグニヴェラーレの動きが固まり、ウニリィは彼の視線の先を追って悲鳴を上げる。
「ぴええぇぇっ!」
ウニリィは本に飛びついて、身体で覆い隠すように抱きかかえて叫ぶ。
「こ、こここ、これは違うんです!」
何が違うというのか。
「えっと、えーと。これは兄ので!」
「ほう、ジョーシュトラウム卿にはそういったご趣味が」
どちらかというと隠した本の絵柄は女性向けであった。
「や、嘘です。えーと、そうニャッポさんの!」
「言うに事欠いてゴリラ」
「……私のですぅ」
ウニリィは項垂れた。マグニヴェラーレは笑いを堪えて言う。
「人間誰しもそういうの持っているものですよ。恥ずかしがることはありません」
「……ヴェラーレさんも?」
「いえ、家にはありませんが」
「もう!」
ウニリィは枕を投げつける。マグニヴェラーレは顔面に飛んできたそれを手で受け止めると、机の上に置いた。
「リビングの方にいますので、落ち着いたらいらしてください。お食事ですよ」
そう言って部屋から退散した。
リビングに戻ってしばらくすると、ウニリィがやってくる。落ち着きはしたのであろうがまだ顔が少し赤い。
皆は食事を済ませてしまったので、食事はまだと言ったマグニヴェラーレとウニリィの二人が卓につく。なぜかサレキッシモもお茶を飲んでいる。面白い話がありそうだと聞きに来たのだ。
もちろん、スライムもいる。ウニリィのソーセージを狙っているようだ。
「うう、もうお嫁に行けない……」
「ウニリィさんはお婿をとられるのでは」
「そういうことじゃないんです!」
ばんばんとウニリィは卓を叩く。
ふふ、とマグニヴェラーレは笑う。からかわれたと気づいたウニリィはもー、と口を尖らせる。
サレキッシモが口を挟む。
「なんですか、面白そうな反応ですが、ちょっと恋愛的に進みましたか」
「そういうのじゃありません!」
そう言いながらウニリィはソーセージにフォークを力強く刺した。マグニヴェラーレは再度笑う。
「そういうのではないが、乙女の秘密の話だ」
「ああ、ベッドの下の」
「なんで知ってるの!?」
サレキッシモがケラケラ笑い、マグニヴェラーレは額を叩く。
「ウニリィさん、カマをかけられたんですよ」
「……あっ」
ウニリィは顔を押さえる。
「……お嫁に行けない」
男たちは笑い、ウニリィが再び食事を再開するまでは黙っていた。
「ともあれ、あまり調子が良くない様子と聞きましたが、お元気そうでよかった」
「え、ひょっとしてお見舞いとかでした?」
「いえいえ、たまたま来ただけで」
ん? とウニリィは首を傾げる。
見舞いというのは自分の勘違いだ。そもそも今朝、調子を崩しているとセーヴンに言われたのであって、マグニヴェラーレがそれを知っているはずがない。
とは言え、『たまたま』来るのも変な話である。王都からエバラン村はそれなりに離れているし、仮に王都の南西方向に用事があったとしても、ここはスナリヴァのような街道沿いの街ではない。つまり、理由なく来るような場所ではないのだ。
「ヴェラーレさん、何か隠してますね?」
マグニヴェラーレは肩を竦めた。ウニリィはカマ掛けには引っかかるし、緊張すると変な行動も出るが、基本的には頭の回転が早いのである。
「実は転移術を改良しましてね」
「てんいじゅつ」
「王都からここまで転移できるようになったので、やってみたのですよ」
「へー」
ウニリィは感心した。
「ぶほっ! ……げほっげほっ」
サレキッシモは茶を噴き出し、むせて咳き込んだ。
「やだ、もー。大丈夫?」
ウニリィが卓上にいたスライムでこぼしたお茶を拭いた。
「転移術を改良した!?」
「ええ」
「え、何人がかりでですか?」
「無論、一人で」
マグニヴェラーレ、渾身のドヤ顔である。
魔術の知識のないウニリィは、へーすごいんだー程度に考えている。
だが、元貴族として、あるいは吟遊詩人として、魔術を使えなくともその知識は結構なものであるサレキッシモからすれば、それは紛れもない歴史的偉業である。
「そいつはヤバいですね」
「わかるかね」
「そりゃそうですよ。え、そんなのいつできたんですか」
「今朝だ」
おぉぉ、とサレキッシモは感心の声をあげて、ニヤリと笑った。
「新魔術開発してウニリィさんに会いにくるなんて、愛じゃないですか」
今度はマグニヴェラーレが視線を逸らす番だった。
ξ˚⊿˚)ξはい、明日の15日、月曜日!
時間はちょっとわからないんですが、コミカライズ版『スライム職人』の第二話が公開されます!
超面白いんで、みなさまぜひそちらもご高覧いただけるようよろしくお願いします!
そちらにもいいねとブクマしてくれると良きよ!
よろしくお願いしますー。







