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【コミカライズ】チートなスライム職人に令嬢ライフは難しい!  作者: ただのぎょー


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第117話:スライム職人の朝は早い——(再々)

 スライム職人の朝は早い——


 午前四時前。日が昇る前に起床したウニリィは、緩慢な動きでベッドからおりて、寝巻きから作業着に着替えはじめる。

 秋もだんだんと深まってきており寒い季節なのだ。朝は辛い。闇の中、灯されたカンテラの頼りなげな光に白い裸身が浮かび上がった。

 たおやかな女性の身体である。だがその柔肌には脇腹のあたりに大きな傷痕があった。古く、薄れてはいるが、広範囲に肌の色が変わっている。かつてスライムの酸を浴びてしまい、ただれてしまったものだ。


「さむー……」


 ウニリィは肌寒さにぶるっと身を震わせると、のそのそと作業着を着込んで、その上からのろのろと対酸・腐食性能のあるエプロンを羽織り、橙色の長い髪を伸縮性のある輪でさっと後頭部に束ねるだけの簡単な身支度を済ませた。化粧などはしない。最後に分厚い革の手袋をはめるとカンテラを持って部屋の外へ。無人の工房を通って家の外に出る。

 朝靄に覆われた牧草地に、二本の線のように足跡を残してスライム厩舎に向かった。

 ウニリィは重く軋むスライム厩舎の扉を開けた。淡い緑色の瞳が倉庫を見渡す。


「異常なし」


 白い息と共に、可愛らしい女性の声が響いた。ウニリィは齢16の乙女である。

 厩舎内には木製の棚がずらりと並んでいる。扉などはなく、柱に横板が渡されただけの簡素なものだ。そしてそれの上にはこんもりと、色とりどりの丸い影が無数に載っている。

 大きさは30cm前後。縦にはつぶれていて、まるでパン種の小麦粉を練った塊か、あるいは東方のカガミモツィなる食物が並んでいるかのようである。

 スライムであった。

 ウニリィはカンテラを壁に掛け、壁に掛けられていた棒を掴むと、大きく息を吸う。


「みんなー。朝よー」


 そう言って厩舎の入り口にあった銅鑼を大きく鳴らした。ジャーンと金属の打ち鳴らされる音が響き渡り、スライムたちの表面が振動にぶるぶると波打つ。

 ウニリィは銅鑼を数度打ち鳴らしてから棒を置くと、やおら棚に駆け寄った。


「はいおはよー」


 ウニリィはスライムを脇から持ち上げるように両手で掬い上げると、空中でくるりと回転させて棚に叩きつけた。

 ぱん、と音が響く。

 スライムがもぞり、と動いて棚から降りていく。

 ウニリィは隣のスライムの前に。


「おはよう」


 ぱん。


「おはよう」


 ぱん。


「……何をしているんだ」


 ウニリィが作業を続けていると、男から声がかけられた。

 言葉には、これみよがしなため息もついてきた。


「あ、おはよ。セーヴン」


 ウニリィの幼馴染でもあり、カカオ家で雇っている村の青年、セーヴンであった。


「何をしているっていつも通り」


 ぱん。


「スライムを起こしているところよ」


 質問に答えながらもウニリィの手足が止まることはない。


 ぱん。


 だが、セーヴンはその言葉に納得することはなかった。

 つかつかとウニリィのもとに歩み寄ると、スライムを叩きつけたその手首を掴む。


「きゃっ! ……どうしたの?」


 まだ暗い厩舎に溶けるような褐色の肌、そしてカンテラの灯りを照り返す銀の髪。その下の瞳はじっとウニリィを見つめ、それはどこか悲しげな光をたたえていた。


「泣いている」

「えっ?」


 ウニリィは掴まれているのとは逆の手の甲で目を押さえる。別に革手袋が濡れたりはしない。


「何言ってるの、泣いてないよ?」


 セーヴンはゆっくりと首を横に振った。


「スライムを叩く音が泣いている。ウニリィの音はもっと元気で明るいんだ」

「えっと……」

「スライムたちも心配そうだ」


 ふるふるふるふる。


 いつもは起こされたら外に出て行くスライムたちが、今日は床の上でウニリィを見上げて揺れていた。


 大丈夫?


 彼らはそう言っているようにウニリィには感じられる。セーヴンは言う。


「ジョーの兄貴がまた出ていってしまったから」

「そ、そうだけどさ。別に子供じゃないんだし! それに泣いていたのはセーヴンでしょう?」


 セーヴンがウニリィに身を寄せた。ウニリィは思わず一歩下がり、セーヴンはさらに前に。ウニリィの背中が厩舎の壁に当たった。

 追い詰められたウニリィをセーヴンがじっと見つめる。まるで心の中を見透かすような彼の視線に、ウニリィは瞳を逸らした。


「涙を流せば思いも区切りがつくものだ。ウニリィはちゃんと泣けたか?」

「む……」


 ウニリィの頬がちょっと赤くなった。

 どうやら少しは泣いたらしい。セーヴンは笑みを浮かべて、橙色の髪に手を置いた。ウニリィの肩が跳ねる。

 セーヴンの手はウニリィの頭をぽんぽんと軽く撫でて離れていった。


「ここで抱きしめてやりたいけど、俺はそれをするわけにはいかないから」


 そうしてセーヴンはスライムを一匹掴むと、くるっと回して棚に叩きつけた。


 ぱん!


「ほら、いつものウニリィほどの元気さはないけど、それでも今日のウニリィよりはずっとマシさ。今日はやっとくから休んでな」


 というわけでウニリィは戦力外通告を受けて、とぼとぼ家に戻っていった。

ξ˚⊿˚)ξ連載再開ー。今週はもう一回更新。


来週からは週3更新に戻す予定ですー。

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― 新着の感想 ―
ほう…せーぶんやるじゃなーい。
まさかのセーヴンルートもあるのか!?(ガタッ)
ちけーよ! 妙齢の乙女に勝手に触るんじゃねー!
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