第56話【ノーム】
宿を取り、宿主に【土の神殿】へのルートを聞いた。
場所は王城の東にあるらしく、リズとフェアリーはそこへ向かった。
武闘大会のせいで人口密度が半端ではなく、前に進むだけでも苦労した。
「リズ。はぐれないように手をつなぎましょう」
「え!? ぃ、いいの?」
「? もちろんです。ほら」
あれだけ人間を穢らわしいと連呼していたフェアリーが、リズの手をしっかりと握ってくれた。
やはり前に言ったリズは特別という言葉に嘘はなかったようだ。
しっかり繋いで引っ張ってくれる力強いフェアリーに、なんとも言えない頼もしさとカッコ良さを感じた。
まるで恋人のようだと思いつつ、リズは冷静になる。
今まで散々お姫様抱っこされていたのだ。
フェアリーからすれば、今さら手を繋ぐくらいわけはないのかもしれない。
それにリズはやはり自分の感覚がおかしくなっていることにも気づいた。
性別が無いとはいえ、女みたいな見た目のフェアリーに恋人のようだという想いを持ってしまった。
やはり自分は、フェアリーの事が好きなのかもしれない。
ウンディーネにフェアリーの命を軽く言われた時も、あれだけ腹が立ったのは……この想いのせいなのだろうか?
フェアリーが宇宙へ帰ってしまうことを怖く感じてしまうのも、結局はフェアリーの事が好きで、離れたくないからなのではないか?
でもそれを言うとフェアリーを困らせてしまう。
嫌われたくないから黙っている。
それが今の自分なんだ。
リズはフェアリーの手をしっかりと握り返した。
この手は離したくない。
今この瞬間を、フェアリーと一緒にいられるこの瞬間を、大切にせねば。
★
神殿の構図には形式でもあるのだろうか?
エタンセルやアクアヴェールの時と同じく柱だらけの神殿がそこにあった。
神殿の入り口には重厚な扉があり、そこには土で作られた神々の顔が彫られている。
その顔は優しさと威厳を併せ持ち、訪れる者に安らぎと敬意を与えているように見えた。
扉を開けると、薄暗い内部には柔らかい土の香りが漂い、リズとフェアリーたちの心を落ち着かせてくれる。
内部は広々としており、中央には大きな祭壇が設置されていた。
祭壇の周りには土で作られた小さな像や、地域の豊穣を祈願するための供物が置かれている。
この辺はもうどこの神殿も同じだった。
ただ唯一違うのは、誰もいないことである。
「誰もいませんね」
「ね。いつもなら礼拝者が何人もいるのに。ノーム様って人気ないのかな?」
『誰が人気ないだって?』
「わっ!?」
驚くリズはフェアリーの後ろに隠れた。
現れたのは土の塊。
『みんな武闘大会を観に行ってておらんだけじゃよ』
「ノーム様。お初にお目に掛かります。フェアリーです」
「ノ……あ! は、初めまして。リズ・リンドです」
『うんうん。礼儀正しくてよかよか。お前さんか。人間にされた妖精というのは』
「はい。ノーム様のお力をお借りしたく馳せ参じました」
『うむ。そのへんの話はウンディーネから聞いとるよ。そこのお嬢ちゃんとメチャクチャ喧嘩したらしいな? あ〜見てみたかったなぁその喧嘩』
言われてリズは困惑する。
「い、いえ……喧嘩っていうか、口論……」
『あの頭でっかちを説き伏せるのは大変じゃったろ? 大したもんじゃて本当に』
「あ、ありがとう、ございます……」
ノームのノリになんとなくそう返事をするしかないリズに、隣のフェアリーが前に出た。
「ノーム様。今一度。彼女に土の精霊の力を与えください。世界樹さまとの交信に必要なのです」
『うむ。フェアリーよ。ならば先にワシの願いを聞いてくれ』
「願い?」
『お前さんちょっと今やってる武闘大会に出てくれんか?』
「は?」
『いやな? ここ最近の武闘大会はなんせつまらんくてな? 毎年毎年あの三将軍が出てくるせいで結果が同じでつまらんのよ』
「は、はぁ……」
『今やってる武闘大会もその三将軍のせいでまったく盛り上がっておらん』
そのノームの言葉にリズは驚く。
「え? でもたくさんの観光客で溢れかえってますよ?」
『観光客はな。肝心な武闘大会参加者がまったくおらんのじゃ。毎年参加者が減っていて、今年はなんと参加者ゼロ人じゃ』
「ゼ、ゼロぉ!? あんなにたくさん人がいるのに!?」
『そうなんじゃよ。なんせあの三将軍が強すぎてな。どうせ勝てないと誰も挑戦しなくなったんじゃ。じゃからワシは三将軍の参加をやめさせたかったんじゃが、ほら、言葉が届かんじゃろ? それで弱っておったんじゃ』
チラッとフェアリーに向きながらノームは言う。
「……あの、ノーム様。お気持ちはお察ししますが、そんなことをしている場合ではないんですよ。今この地球はほぼ無防備に近い状態です。ドラゴンは隕石に擬態して世界樹さまとフェアリーたちの監視網を突破して来ております。一刻も早く擬態のことを教えないと、またドラゴンが地球に降下してきます」
『わーっとる。それはよーくわーっとる。だがフェアリーよ。お前さん交信が終わったらそのまま宇宙に戻ってしまうじゃろどうせ? それともワシのために帰ってきてくれるんか?』
「え、いや、それは……」
『じゃろ? だから今回だけちょっとワシの願いを聞いてくれ。あの大陸最強とか抜かしてイキっておる三将軍をボコボコにしてくれ。そして次回から三将軍は参加させるな。挑戦者が出るまで引っ込んでろと伝えてほしい。そしたらワシの力を与えてやろう。どうじゃ?』
「ノーム様……地球の命運が掛かってるんですよ?」
『じゃから今日ちょっと戦ってパパッと終わらせてくれればいいんじゃ! 妖精のお前さんなら人間なんて楽勝じゃろう?』
ノームにグイグイ圧を掛けられ、
フェアリーは心底面倒くさそうに、
過去一デカい溜め息を吐いた。




