第24話【カッコいい】
リズは、フェアリーがあれだけ手こずった人型ドラゴンをあっさり討伐した。
【精霊の力】がこれほどまでに人間を強化するとは。
「フェアリー! 大丈夫?」
駆け寄ってきたリズの顔は本当に心配してくれている目だった。
紅く色が変わっても優しいリズの瞳に、フェアリーは平静を装いながらドレスについた埃をはたく。
「……問題ありません」
「良かった〜本当に。あんた【憑依】を使ってしまうんじゃないかってヒヤヒヤしてたのよ。……信じて待っててくれてありがとう!」
「ち、違います! あなたのせいで使うタイミングを逃しただけです! 勘違いなさらぬように!」
「は〜い。そういうことにしておく〜」
ニヤニヤしながら言うリズは、ふとした瞬間に赤と黒の鎧が消え去り、もとの人間時の格好に戻った。
「あ、戻った。……あ」
ガクンと足が曲がり、ふらついて倒れそうになるリズ。
そんな彼女をすぐにフェアリーは支えた。
「リズさん!? 大丈夫ですか!?」
「ぁ……ごめん。なんか急に身体が重くなって……」
「【精霊の力】の負荷に身体が慣れてないみたいですね。しばらく休んだ方がいいです」
言ってフェアリーはまたリズをお姫様抱っこした。
お姫様抱っこは今回さすがにゴネて来なかった。
いや、ゴネるほどの体力が残っていないのだろう。
リズは大人しくフェアリーに抱かれて身を任せてきた。
「ありがとうフェアリー……少し……寝るね……」
「ええ。お疲れ様です」
リズは力尽きるように目を閉じて、フェアリーの腕の中で眠りにつく。
一瞬で眠ってしまった。
この速度はほぼ気絶である。
フェアリーは、そんな彼女の寝顔を見つめ、思う。
ありがとう、と。
そして同時に、また生き残ってしまったな、とも思った。
★
翌日の朝、イルセラは風通しの良くなった執務室にてブロンクソンから報告を受けていた。
「負傷者は計64人。街の被害は主戦場となった西側が酷い有り様です。しかし奇跡的に死亡者はゼロです」
「あの子たちのおかげね……」
「仰る通りですイルセラ様。あの化物を相手に、これだけの被害で済んだのは、本当にリズとフェアリーの活躍があったからこそですね」
ブロンクソンの言葉に同意しつつ、それでも、今でも信じられない。
悪夢のような時間だった。
フェアリーはあの黒い化物をドラゴンと呼んでいた。
ドラゴンとは、フェアリーが宇宙とやらで戦っている生物だと聞いた。
そしてまさか、本当に……実在して、このエタンセルに落ちてくるとは。
思い出すだけで全身が震える。
恐ろしく無敵のような敵だった。
最大火力の【エクスプロード】を優に耐え、人の目には映らないほどの速さで動き回る化物。
あの場にフェアリーがいなかったら、ここエタンセルはヤツ一匹で滅びていただろう。
そう考えれば街の被害も安いものだ。
負傷者もいるが死亡者がゼロならおつりがくる。
「……ねぇブロンクソン。今でも信じられないわ。あんな化物が実在するなんて」
「ええ……自分も同じです。フェアリーとあの化物の戦いをこの目で見ましたが、もはや人の踏み込める領域ではありませんでした。凄まじいなんてものじゃなかった……何をしているのかサッパリ分からなかった」
「そうね……フェアリーの話は本当みたいね」
「宇宙でドラゴンと戦っている、という話ですか?」
「ええ。ドラゴンなんて、最初は半信半疑だったけど……そいつに街をやられたんじゃ、もう信じるしかないじゃない」
「そうですね……。あとサラマンダー様から力を与えられたというリズ・リンドの話も……あれ本当なんですか?」
「分からないわ。運んできたフェアリーがそう言ったのよ。ドラゴンを倒したのだってリズだって言ってたわ。私は直接見たわけじゃないの。けどフェアリーが嘘をつくとは思えないし、本当なんだと思うわ」
「私的にはそっちの方が信じ難い話ですが……」
確かにサラマンダー様が人間に力を与えたというのは歴史上に例はない。
リズが史上初の【精霊の力】を与えられた人間であり、騎士であると言えよう。
【精霊の騎士】か。
またとんでもない子が自分のもとに来たなと思った。
しかし彼女のおかげでイルセラもエタンセルも命拾いしたのだ。
この縁には感謝しなくてはならない。
ただ、一つだけリズに関して気になる点がある。
それは彼女の出身だ。
騎士名簿にはサブラ出身と書かれていたが……
★
ぼやけた視界がゆっくりと広がり、見覚えのない天井が鮮明になってきた。
リズは個室にあるベッドで休まされていた。
「……あれ……アタシ……」
意識が覚醒してきた。
窓が開けられ、涼しい風が頬を撫でるのを感じる。
ゆっくりと身体を起こしたリズは周囲を見回した。
大きな鏡が置かれた個室のようで、今寝ているベッドもやたら大きい。
誰の部屋かは分からないが良い香りがする。
必要最低限の物しか置かれてない部屋だから、誰かの寝室のようだ。
自分が取ってある宿屋の個室ではない。
「……フェアリー?」
ここへ運んでくれたであろうフェアリーがどこにもいなかった。
どこへ行ったのだろう?
一人で出歩いて大丈夫なのだろうか?
また問題を起こしてないだろうか?
っていうか、寝坊助なのに起きれたのだろうか?
様々な疑問が覚醒した頭の中でグルグル回ったが、まだ気だるさが残っていて、二度寝しようとする。
すると部屋の扉がノックされてリズはすぐに起きた。
「フェアリー?」
「イルセラよ」
「あ! ど、どうぞ!」
君主イルセラが入って来た。
「身体は大丈夫?」
「はい、なんとか。ご心配をお掛けしてすみません。あの、ここは?」
「私の私室よ」
「え!? まさかフェアリーが勝手にここにアタシを!?」
「違うわよ。私がここに案内したの。だから心配しなくていいわ」
「良かった……」
「リズ。ドラゴンの討伐。本当にご苦労さま。あなたとフェアリーのおかげでエタンセルは命拾いしたわ」
「いえ、そんな……ほとんどフェアリーのおかげです。あいつがずっとドラゴンを抑えてくれていたから……」
「そうね。でも倒したのはあなただってフェアリーが言ってたわ。サラマンダー様から力を授かったそうね?」
すでに知らされていたことに驚きつつ、説明が省けて安堵するリズは頷いた。
「はい。フェアリーを助けてくださいってお願いしたら、力を与えてくれて……自分で助けろって事だったんですかね? ははは……」
「ふふ、もしそうなら案外と厳しいのねサラマンダー様は。でもどんな力を与えられたの? やっぱり炎を操る力?」
「いえ、見ていてください!」
リズはベッドから降りてイルセラの前に立った。
サラマンダー様から力を授かった時に頭の中に流れ込んできた意思を思い出し、全身に力を込める。
するとリズの身体から炎が発生し、それはリズの全身を包み込む。
「リ、リズ!?」
「大丈夫です。イルセラ様」
炎が消え去り、一瞬のうちにリズは精霊の騎士へと変貌した。
赤いツインテールに紅い瞳。
赤と黒の鎧と、赤い刃の大剣。
変身したリズにイルセラは驚愕し目を丸くする。
「これがサラマンダー様から頂いた力です。この姿は【炎の騎士ナイトルージュ】って言うみたいで――」
リズはふと隣にある鏡を見た。
自分のナイトルージュとしての姿がそこに映っていた。
赤と黒の鎧のデザインに、リズは目を限界まで見開く!
「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ! なにこれええええええええええええええええ!」
イルセラ邸が揺れるほどの音声でリズが悲鳴を上げた。
「な、なに!? どうしたの!?」
いきなり悲鳴を上げてきたリズに耳の鼓膜がやられかけたイルセラが驚く。
当のリズは顔を真っ赤にして冷や汗を流し、胸と下半身を手で隠した。
「あ、あ、あ、あの! イルセラ様! 見ないでください! こんな格好だったとは知らなくて!」
「は?」
「何なんですかこれ!? こんなパンツ丸出しみたいなデザイン! おかしいですよ! 胸元もぱっくり開いてるし! なんかやたらスースーすると思ってたらこんなデザインだったなんて! サラマンダー様の変態!」
「へ、変態って……そんなに変かしら? カッコいいと思うけど……」
「どこがですかイルセラ様!? こんな露出だらけの鎧のどこが!」
「おいどうした! 何かあったのか!」っとブロンクソンが部屋に飛び込んできた。
「ひあっ! み、見ないでください騎士長!」
「ん!? なんだその格好は!? カッコいいな」
「はい!?」
リズは耳を疑った。
こんなハレンチな鎧のどこがカッコいいのか。
「そうよねブロンクソン。カッコいいわよね?」
「ちょっ! イルセラ様! いじめないでくださいよ!」
「へ!? いじめてないわよ! 本当にカッコいいってば! ねぇブロンクソン?」
「はいイルセラ様。……リズよ。なにをそんなに恥ずかしがっておる? カッコいいぞ? 本当に」
「えぇ……」
「なんの騒ぎですかな?」っと今度は執事のベネディクトが入って来た。
彼もまたリズのナイトルージュ姿を見て「おお!」と感嘆を鳴らす。
「これはまた、カッコいいですな〜」
「嘘でしょ……」
さらにゼラードも入って来て、リズの姿を見るや目を輝かせて寄って来た。
「わあああ! お姉ちゃんカッコいい! ママ見て!」
「見てるわゼラード。本当にカッコいいわよね」
「ほら見ろリズよ。ゼラード様もこう言ってるぞ?」
「ゼラード様がお気に召すなど、なかなかありませんからね。いやしかし、女性ながらカッコいいですな」
「……」
まともなのはアタシだけなの?
それともアタシがおかしいの?
どうしよう?
わけわかんなくなってきた。




