不安的中
プールサイドに辿り着くと、バッシャーンと大きな水の音がした。
何事かと思えば、亜耶が背中からプールの中に落ちていた。
「あんたなんかに悠磨くんは、似合わない!!」
何て叫び声が聞こえてきた。
オレ?
って言うか、今の声泉だよなぁ。なんで、泉が亜耶を?
「ねぇ、似合う似合わないって何?」
亜耶が、ゆっくりと立ち上がり、何時もより低い声で言う。
「恋愛って、そういう風にするもの?違うよね。お互いが想い合ってするのが恋愛じゃないの。人に言われてする"恋"なんて、"恋"じゃない。今の小林さん。ただ憧れてるだけだって思うよ」
亜耶が、堂々と語る。
一体、何が起きてるんだ?
「あんたにわかるって言うの!」
泉が、凄い剣幕で捲し立てる。
泉って、あんなヤツだったか?オレの前だけ、猫を被ってた?
「わかるようになったのは最近だよ。あの人の優しさに触れる度に愛しくなるし、たまの我が儘も聞いてあげたいって想うのもあの人だけ。私だけにしか見せない表情。良いところも悪いところも全て曝して見せ合えることこそが、信頼できる相手なんだって、ついこの間知らされた。あの人が頑張ってるんだから、自分も頑張ろって、支えてもらってるから、支えてあげようって想えるんだって・・・」
ピンと張り詰めて居る空気の中、一気に言いきった亜耶は、意識を手放したのか、その場に崩れ落ちるように倒れた。
オレは、濡れるのも構わず亜耶のところに行き抱き抱えた。
亜耶の息が上がってる。相当辛い筈なのに・・・。
「泉。何を亜耶に言われたのか、オレは聞いてなかったから知らない。だけど、体調を崩してる人を突き落とすのは、どうかと思うぞ」
オレは、泉を睨み付けた。
泉は、オレを見て萎縮し、言葉の意味に気付くと。
「えっ・・・」
小さな驚きの声を上げた。
やっぱり、気付いてなかったか・・・。
「気付いてたのって、透だけだろうな」
オレの言葉に透は、頷く。
「亜耶。今日、体調崩してて、本来なら欠席してる。だけど、自分の所為で迷惑かけたくないって思ってるヤツなんだ。そうやって、自分を守ってきた亜耶の何処に落ち度がある。自分の事を棚に上げて、亜耶を責める事に何があるんだ。人に振り向いてもらいたければ、自分を磨くことが先だろうが。それをしないで、人を傷つけるのは、お門違いだ!」
オレの言葉が、相当ショックだったのか、顔が青ざめていく泉。
「透。亜耶を保健室に連れて行くから」
他の男に触らせるわけにはいかない。
「あ、うん。わかった」
突然振られて、戸惑い気味に返事をする透。
オレは、亜耶を抱きその場を離れた。
保健室に着くと先生が居なくて、このままでは余計にこじらせると思い、オレは自分の鞄に入れていたスポーツタオルを取り出し、亜耶の体に巻く。
本当は、着替えた方がいいんだけど・・・、流石にまずいし・・・。
ここまで来る間に熱も上がってきてた。
オレでは、どうにも出来ないと思ってたところに。
ガラッ。
入り口が開いた。
「あら、どうしたの?」
そんなオレに気付き声を掛けてきたのは、養護教諭だった。
「こいつ。熱でぶっ倒れてしまって・・・」
オレが言うと視線を亜耶に向け。
「ずぶ濡れじゃない。着替えは私がするから、外で待ってて」
先生に彼女を預けて一度外に出たのだった。




