第15話 ○月○日 凪の入園式!
凪、幼稚園に入園!制服姿がめちゃ可愛い(//∇//)
今日は入園式でした。奥さんと碧、父と母とみんなで行ってきました。
もう、幼稚園に入る年になっちゃったんだね。
パパはちょっと、凪が離れちゃうような気がして寂しいです(>_<)
幼稚園の入園式には、ぞろぞろと家族揃って行ってきた。碧は1歳になっていて、まだ歩きはしなかったものの、かなりやんちゃさんで、連れて行くかどうか迷ったが、なにしろ家で碧と留守番をしてくれる人がいなくて、結局碧も一緒に連れて行くことになった。
杏樹ちゃんは、高校を卒業してすぐに働き出した。近くにあるスポーツクラブ。テニスのインストラクターとして、そこに就職した。毎日張り切って行っている。
やすくんは、昨年春から、コンピューター関連の専門学校に行き、勉強に励んでいる。IT関係の仕事がしたいらしい。
専門学校は、結構忙しく大変らしいが、それでもよくお店に来たり、杏樹ちゃんとデートをしていた。杏樹ちゃんが働き出して、休みの日が違ってしまったが、多分これからも、仲良しでいるだろう。家も近いしね。
さて、凪の入園式の話に戻って。
私はひとつだけ、気がかりなことがあった。それは、周りのママさんたちの反応と、幼稚園の先生の反応だ。
案の定、みんな聖君を見て、
「うわ。若くてかっこいいパパ!」
とびっくりしていた。
担任の先生は、昨年幼稚園の先生になり、今年初めてクラスを受け持つことになった、若手の先生で、今、22歳。聖君と同じ年。とても可愛らしい、素朴な感じのする先生だ。
入園式が終わると、各クラスに別れた。聖君は碧を抱っこして、私と一緒に教室まで見に行った。お父さんとお母さんは廊下で中の様子を伺っている。
「さくら組を受け持つ、三原杏子です。杏子先生って呼んでください。みなさん、よろしくお願いします」
そう言うと、園児たちは先生の名前を早速呼んだ。凪はというと、さっきから私たちの方ばかりを見て、あまり先生の言うことには耳を傾けていなかった。
「凪、前、前」
聖君は小声でそう言っている。前を向けと言いたいんだろう。そんな聖君を、なぜか先生は見た。聖君も先生を何気に見て、目がパチっと合ったようだ。一気に先生の顔が赤くなり、ぱっと視線を外したのがわかった。
う…。なんで、赤くなっているのかなあ。嫌だなあ。
それから先生が、親御さんに説明をして、写真撮影があるというので、みんなで荷物を持って、ぞろぞろと園庭に向かった。
今日はとてもいい天気であったかい。入園式日和になった。
「天気良くてよかったね」
列に並びながら聖君にそう言った。
「うん。それにしても、父さんと母さんは写真に入らなくていいのかな」
「おばあちゃんたちが写真に入っている様子はないし、やっぱり、写ったらダメなんじゃない?」
「そうか、俺の時はじいちゃん、勝手に入って写ってたけどなあ」
あのおじいさんなら、やりかねないな。
碧はお父さんが抱っこしていてくれている。碧も、あんまり泣かない子で、誰が抱っこしようが、喜んでいる。人懐こいし、とってもやんちゃだ。まだ歩けないが、ハイハイや伝い歩きでどこにでも行こうとするので、目が離せなくて大変といえば大変なんだけどね。
聖君の横に並ぼうとすると、
「あ、お母さんで、背の低い方は前の方に来てください」
とカメラマンが私に向かって言ってきて、離れることになってしまった。仕方ない。
そして聖君の両隣には、いかつい感じのお父さんが並んだ。良かった。綺麗なお母さんが並んじゃったら嫌だって、ちょっと思っちゃった。
それから、写真を撮って、さあ、みんなで帰ろうと後ろを振り向くと、
「どの子のお父さんですか?」
「1年間よろしくお願いします。うちの子は、ほら、あそこにいる…」
と、もう何人かの若めのお母さんたちに、聖君はとっつかまっていた。
「すみません、もう帰りますので」
聖君は丁寧にそう言ってから、凪の方に行き、凪と手をつなぎ、
「じゃ、帰ろうか?」
と凪にそう言った。
「うん!」
凪は嬉しそうに聖君にひっついた。
「凪ちゃん、また明日ね」
杏子先生がそう言って、凪にニッコリと笑ったあと、聖君の方を向いて、
「あ、1年間、よろしくお願いします」
と、顔を赤くしながらお辞儀をした。
「はい。こちらこそ」
聖君がにっこりと営業用スマイルで微笑むと、先生はもっと顔を赤くしてしまった。
「凪ちゃん~~~!」
そこに日菜ちゃんと麻里ちゃんが来た。二人はどうやら隣のクラスで、凪とは別のクラスになってしまった。
「やあ、聖君」
麻里ちゃんパパも、日菜ちゃんパパもいた。なぜだか、聖君は、この二人といつの間にか仲良くなっていた。たまの日曜日、公園で会ったり、夏はみんなで一緒に海に行ったりして、パパ同士も仲良くなってしまったようだ。
「凪ちゃんのクラスの担任の先生、若いね。なんだかまだ、幼い感じもする」
「22歳なんだってよ?もしかして聖君とタメじゃないか?」
麻里ちゃんパパがそう言った。それ、どこで聞いてきたんだろう。あ、そうか。入園式での挨拶で、ちょろっと言っていたっけね。
でも、聖君は興味なしのようで、
「なんだか、幼稚園に昼間行っちゃっていないって、寂しいですよね」
なんて言っている。
「俺らは別に、いつも会社があるからね。でも、聖君だって、大学があるだろう」
「あ、そっか。今まで春休みだから、昼間も凪と一緒に居られたんだっけ」
聖君はそう言ってから、はあってため息をついた。
「クラスの半数は男の子なんだよなあ」
「当たり前だよ。聖君、そんなに凪ちゃんを男の子に取られるのが嫌なのかい?公園でも、極力男の子とは遊ばせていなかったよね?」
日菜ちゃんパパが笑いながらそう言った。え?そうだったんだ。知らなかった。
「だって、嫌じゃないですか?日菜ちゃんがもし、好きな子でもできちゃったら」
「別にいいけどね、俺は」
「そうなんだ!」
聖君がびっくりしていた。
「俺はちょっと妬けるかなあ」
麻里ちゃんパパがそう言うと、聖君は目を輝かせ、
「ですよね!?」
と声を大にした。
ああ、あの親ばかぶりは、いつまでたっても変わらない。それだからかどうかはわかんないけど、凪は男の子とはあまり遊ばない。パパが阻止しているからなのか、もともと苦手なのか。
和樹君ですら、最近遊びに来ても、前ほど遊ばなくなった。やたらと仲がいいのは、空君くらいだ。
お正月に伊豆に行っていた時も、空君とべったりで、そこでも聖君がやきもきしていたもんなあ。
そんな凪は、麻理ちゃんと日菜ちゃんと、きゃっきゃ言いながら、家に向かって歩いている。
「園までそんなに遠くないから、歩いて通うんでしょ?」
お母さんがそう私に聞いてきた。
「はい。あそこの幼稚園って、聖君も行ってたんですよね?」
「杏樹もよ。でも、園長先生はかわっちゃった。もうあの頃からかなりお年をめしていたから、娘さんが引き継いだみたいね」
「そうなんですか」
「いい幼稚園よ。のびのびと育ててくれる。なにしろ、あのやんちゃな聖と杏樹でも、のびのびやっていけたんだから」
お母さんはそう言うと、ふふって何か思い出し笑いをした。
「凪ちゃんは2歳くらいまで、人見知りもしないし、おてんばさんだったけど、だんだんと大人しくなってきたわよね」
「そうですね。前は外に行きたがったり、家の中でもチョロチョロしていたのに、最近は家でも落ち着いて遊ぶようになったし」
「相変わらず、碧ちゃんのお世話はしているしね」
「はい」
そうなんだよねえ。凪、今は碧のことが大好きで、よく世話を焼いているんだよね。
「日菜ちゃんは、前と変わらずおてんばさんだね。麻里ちゃんの方がおとなしくって、今は凪と気が合うみたいだ」
お父さんも話に参加してきた。
碧はベビーカーに乗せ、私が押していた。碧をずっと抱っこしているのは、さすがのお父さんでも重いだろうし、今、碧はベビーカーに乗っているのが好きみたいだから、しっかりとベビーカーを持ってきていた。
聖君はパパ友達と、話しながら先を歩いている。日菜ちゃんママと、麻里ちゃんママは、他のお母さん友達がやってきて、話しながら歩いていた。
「ね、あの真ん中にいる人、れいんどろっぷすの聖君よね?」
その一人がそう言っているのが聞こえてきた。
「噂どおり、かっこいいわね。私、よく公園で話題になっていても興味なかったの。だけど、今日初めて見てびっくりしちゃった」
う~~ん。ここにその聖君の妻がいるんですけど、わかっているのかなあ。ま、いいけど。
「隣のクラスかあ。一緒のクラスになれなくて残念だなあ」
え?一緒のクラスになったら、どうなっていたっていうの?む~~~。なんか、やっぱり複雑な気分。
「あの聖君の子供ってどの子?」
「3人の真ん中にいる、髪を結んでいる子がそうだよ。凪ちゃんって言うの」
そのお母さんに、麻里ちゃんママが答えた。
「へえ。凪ちゃんかあ。うちの子と仲良くさせようかな」
「男の子でしょ?無理かも。凪ちゃんパパ、凪ちゃんと男の子が遊ぶの嫌がるから」
「え?どうして?」
「今から、変な虫がつかないよう、ガードしているみたいだよ」
今度は日菜ちゃんママがそう答えている。
「何それ?」
ほら。やっぱりびっくりしている。でも、私も私でびっくりだ。子供をダシに使って、聖君と仲良くなろうとしたなんてさあ。
「あはは!」
あ、聖君が爽やかに笑っている。ああ、いつ見てもかっこいいよね。あんなに爽やかな素敵な笑顔なんだから、他の女性が魅了しちゃうのもしょうがないか。だけど、あんまり幼稚園には行かないでもらおうかな。若いお母さんたちにも、あの若い先生にも、あんまり会って欲しくないし。
お店に戻り、みんなで普段の服に着替えて、リビングでのんびりとお茶を飲みだした。
「は~~~。入園式も終わったなあ」
「お弁当って、まだまだ先なんだね」
聖君は、今日もらった幼稚園の行事予定のプリントを見ながら、そう寂しそうに言った。
「聖、まさかお前、お弁当作る気でいる?」
「もちろん!それもちゃんと、ブログで紹介していくつもり」
「で、園児のお弁当って本を出しちゃうとか?」
「うん。もう落合さんも、その予定組んでるよ」
「そういえば落合さんのところも、二人目生まれたんでしょう?また女の子だっけ?」
お母さんがそう聞いた。
「うん。そう言ってた。女の子ばかりで、将来自分の味方になってくれる子供がいないって、なぜかしょげてた」
「あはは。なんだ?女の子だと敵になっちゃうのか?」
それを聞いて、お父さんが笑った。
「ソーパパ、はい!」
凪は、お父さんとお買い物ごっこを楽しんでいる最中だった。お父さんに、店員をやれとバーコードを持たせ、自分が買い物かごをぶらさげて、何を買うか迷っているふりをしている。
これ、多分、あと何回もさせられるよ。聖君は、一回で飽き飽きして根をあげるけど、お父さんだったら何回も付き合ってあげるんだよね。そのへんを、凪も心得ていて、あんまりこういう遊びに聖君を付き合わせない。
聖君、前は凪と遊べたらなんでも嬉しそうだったのになあ。最近じゃ、家で遊ぶとき、若干男の子っぽい遊びになってきているし。たとえば、ブロックで飛行機を作ってみたり、たまに戦いごっこまでしてみたり。でも、凪は聖君と遊んでもらえるならなんでも嬉しそうで、一緒になって遊んでいるけどね。
そんな聖君だけど、たまに凪のご飯やおやつをお皿に盛り、トレイに乗せてお店から持ってくると、
「お待たせしました。お子様ランチのお客様」
とウエイターのままリビングにやってきて、丁寧に凪の前にお皿を乗せる。
「お客様、エプロンの方をお付けしますね」
最上級の笑顔で凪にエプロンをして、
「ごゆっくりどうぞ」
と、またにっこりと微笑んで、お店に戻っていくのだ。
凪は、レストランごっこをしてもらっていると思い、ご満悦。食べ終わるとまた聖君がやってきて、
「お客様、お味のほうはお口にあいましたか?」
なんて、凪には難しそうな質問をする。だが、
「はい。ごちそーちゃまでした」
と、凪はちゃんと答える。
「ありがとうございます」
そう言って、聖君は凪の食べ終わったお皿をトレイに乗せ、丁寧にお辞儀までしてお店に戻っていく。
凪はそのあと、エプロンを自分で外し、聖君が置いていった紙ナプキンで口を拭くと、おもちゃのお金を持って、お店に行く。そしてホールやキッチンにいる聖君をつかまえ、おもちゃのお金を渡す。すると、
「ありがとうございます。お客様、レシートです」
と、聖君はポケットから取り出したメモ用紙にサラッとお店の名前を書き、凪に渡す。
凪は嬉しそうにそれを持って、ニコニコしながらまたリビングに戻ってくる。
なんていうのは、お客さんがあまりいない、本当にすいている時だけごくたまにやる、聖君と凪の本格的ゴッコ遊び。
こんなことしていていいのかなあと、たまに私は疑問に思う。ほかのお客さんに迷惑かけないかしらって。気になって、お店屋さんごっこをずうっと付き合わされているお父さんに、聖君がいない時にこっそりと聞いてみた。
すると、
「聖がああやって、凪ちゃんのことお客さんとして扱っているから、凪ちゃん、いろいろとマナーとか覚えるよね。一緒にファミレスに行くと、上手に食べるし、おとなしく座っているし、ちゃんと食べ終わるとナプキンで口も拭いているし。聖なりの躾かも」
とお父さんはそんなことを言った。
え?そうだったの?聖君、そんなこと考えてやっていたの?すごいなあ。
そういえば、ナプキンで口を拭くのとか、教えていたこともあったし、フォークやナイフの使い方まで、凪にウエイターモードで教えていたことがあったっけ。
「お客様、ナイフは右手、フォークは左手でお持ちください。そして、ハンバーグを口にいれられる大きさに切って、上品に召し上がれ」
なんて言いながら。
あれも、レストランごっこの延長だと私は思って見ていたけど、躾だったのかあ。
なんて感心しちゃって、夜、もう凪も、碧も、ぐっすりと眠ってから、聖君の隣に寝転がり、聞いてみた。
「え?躾?俺が?」
「うん。すごいね。遊び感覚で教えていたんだね。凪、レストランごっこでもしている感覚で、きっと覚えたんだねえ」
「別に、そんなつもりなかったけど」
「へ?」
「どうせなら、本格的なレストランごっこ楽しみたいじゃん?店の定休日だったら、店でやりたいくらいだ。あ、今度の休み、碧も交えてやってみる?」
「は?」
「だって、せっかくうちには店があるんだもん。使わない手はないよ」
「…。あ、そう?」
その発想が変わっている。お店で遊ぶなんて冗談じゃないと、普通なら怒りそうなものなのに。
「でも、そうだな。本格的だからこそ、勝手に身に付くかもね」
聖君はそう言って笑った。
「聖君はいつごろからお店の手伝いしているの?」
「小学生の頃から。やっぱり父さんが、遊び感覚で教えてくれたりした。母さんは、邪魔しちゃダメって怒っていたけどね」
さすがだ。お父さん。
「杏樹もよく手伝ってた。なんだか楽しかったんだよねえ。その頃は今ほど客も来ていなかったし、常連さんがほとんどだったし、みんなで俺と杏樹を可愛がってくれてたよ。あ、ばあちゃんがまだ店にいる頃。ばあちゃんも優しくてさ」
聖君は懐かしそうな目をしてそう言った。
それから、ギュって私を抱きしめてきて、
「凪も碧も早くに寝たね?だから、ね?」
と言うと、甘い長いキスをした。
とろけた…。
「聖君」
「ん?」
私は聖君に耳や首にキスをされながら、話しかけた。
「杏子先生、若くて可愛いね」
「そう?」
「綺麗な若いお母さんも、いっぱいいたね」
「いたっけ?」
「全然目に入ってなかった?」
「俺の奥さんが一番可愛いって、思っていたよ?」
そう言って、聖君は私の胸に顔をうずめ、
「ねえ、碧ってさ、ご飯もたくさん食うくせに、なのになんでまだ、桃子ちゃんのおっぱいも吸ってるの?」
と聞いてきた。
「寝るときとか、落ち着くみたい」
「なんだよ。甘えてるだけ?」
「うん。そんなところ、パパに似てるね」
「え?」
「聖君もよく、私の胸に顔くっつけて甘えてくるじゃん。ああ、癒されるって言って」
「そ、それは、その…」
あ、聖君、焦ってる?
「なんだよ、意地悪」
聖君はそう言うと、また胸に顔をうずめ、
「早くに俺だけの桃子ちゃんに、戻ってくれないかなあ。碧、いつになったら、ママ離れするんだろう」
とつぶやいた。
でも私には、そんな碧もめちゃくちゃ可愛い。だって、ますます聖君に似てきて、聖君が甘えてきている気がしちゃって。
でも、やっぱり、本物の聖君だと、いまだに胸キュンしちゃうんだけどね。
「聖君」
「ん?なあに?」
「ちょっと今ね」
「うん?」
「うずってしてるんだけど」
「え?うそ!桃子ちゃんのスケベ!もう、しょうがないなあ」
そう言うと、聖君は、私のパジャマのボタンを、片手で簡単に外し始めた。器用だなあって、毎回思う。
「桃子ちゃん」
「え?」
「愛してるよ」
「私も」
大大大好きだよ。聖君。
さすがに、いつ夜中に凪や碧が起きるかわからないので、裸のまま朝まで抱き合うことはなくなった。でも、聖君の布団に潜り込み、私は聖君の胸に顔をうずめ、安心しながら眠りについた。




