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【短編】シリーズじゃないシリーズ

傘、雨宿り、雫、触れる

作者: 千東風子

 すごい雨だった。

 ポツリの後、すぐにどしゃ降りになり、ドゴォーンと雷も落ちて、ヒッと息をのんだ。


 家まではあと少しだが、折り畳み傘の防御力の低さよ。たまらず閉店した本屋の日除けの下に駆け込んだ。

 日除けに雨がダダダと当たっている。所々破けた生地から雨が(したた)り、傘をポタポタと鳴らした。


 少しすると、バシャバシャという足音とともに日除けに一人避難してきた。

 スマホを見たままソロリと一歩横にずれると、その人も「すみません」と一歩横に来た。


 その声にギクリとした。


 まさかまさかと、心臓がドッドッドッと鼓動を主張して汗がブワッと噴き出した。口を開けていたらハッハッハッと息がもれてしまっていたかもしれない。きっと瞳孔もバッキバキに開いている気がする。


 ずっと片思いしていた人。

 同じ塾に通う、違う学校の人。目を細めて笑う姿と彼の声は、クラクラするほど私の脳を揺らした。私的(わたしてき)クリティカルヒットな一重(ひとえ)と節くれだった指も良き。

 でも、彼にとって私はただの同じ塾にいる人でしかない。


 彼らの雑談が聞こえてきたのは先週のこと。思い悩んで告白しようとしていた矢先だった。


「おまえ、ずっと好きな子がいるもんな」


 彼は友人の言葉を否定しなかった。

 三十八回書き直した彼への手紙をぐしゃりと握りつぶし、私の恋はパリンと砕け散った。


 カラカラなのかふにゃふにゃなのか分からない干し芋のようになるまで泣いて、私は熱を出して寝込んだ。

 やっと回復して、散歩に出た先の雨宿りで、彼が今横にいる。

 意味が分からん。

 なんでここにいるの?


 ざあざあ、ダダダダ、ぽっぽっぽ。


 彼と二人、雨の音を聞いている不思議な時間だった。


 ふと、私の傘から垂れた雫が彼の腕を濡らしているのに気が付いた。

 握る手元(ハンドル)、そこから伸びる骨の露先からポタリと落ちた雫。

 その雫が彼の二の腕から肘、肘から手首、手首から指先にツーと伝わり地面に落ちた。


 それはまるで、雫が私の指の代わりに彼に触れているかのようで。


 ボッと顔から火が出そうだった。

 何を考えているのか。痴女(変態)か。

 俯いていると、彼が私の指先をそっと掴んだ。


 ヒュン、と心臓が跳ねた。


 え、夢?

 だけど、指先から伝わる熱が確かにあって。

 思わず顔を上げたら、タコのように()()()な彼と目が合った。


「塾休んでて心配で、最寄り駅だけ知ってて、会えないかとうろうろしてたら見つけて、ごめん、引かないで」


 彼は一気に(まく)し立て、そして目を細めて言った。


「ずっと、好きだった」




この後、二人は真っ赤っ赤のまま雨が上がるまで指先を繋いで、照れ笑いをし合います。

そしてこれからも、二人は雨が降ると寄り添って雨音を聞く時間を共にすることでしょう。


甘酸っぺぇトキメキを詰め込んだつもりですが、いかがでしたでしょうか。


読んでくださり、ありがとうございました。m(_ _)m


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