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黒蟻女王、黒翼魔姫?に強襲される

「そろそろあの子達がやっちゃってる頃かしらね」


 キャリアアントの上に腰掛けたらイヴォンヌがこちらに飛んできて妾の肩に寄りかかってきた。彼女が発するフェロモンはクロアリの真女王である妾が嗅いでも気持ちいいんだよなぁ。とか考えてたら向こうも妾の髪と頭を嗅いできたし。


「だと思うんだが、どんだけ砦の中で騒ぎが起こってもこっちは分からんってのはいずれ改善したいよなぁ」

「独り立ちさせた子らの巣作りなんて大方針に従ってくれれば任せきりだものね」

「しかし懲りないねー人間どもも。城塞都市と同じ手口でいけちゃうじゃん」

「ええ。本軍の私達が囮だなんて向こうは考えもしないでしょうね」


 魔導王国首都を攻めるにあたって一番厄介なのがこの砦だろう想定してた。なので近くの森に若い羽アリのつがいを独り立ちさせて巣を作らせ、兵隊となる子を産ませて、巣穴を砦の内側まで掘り進めて侵入、食い破る策を取った。


 こちらの開戦に合わせて若い衆には地上に出るようあらかじめ伝えてあるので、今頃砦の中は「アリだー!」みたいな絶叫が響きまくる大騒ぎに違いない。とても妾らの相手まで手が回らないだろうて。


「それで、私達はいつ攻め込む?」

「もう少し様子を見ようか。城壁上の守備部隊がこっちを睨んだままだし」


 とか想定してたんだが、それにしては魔導王国兵共の注意が妾らに向けられっぱなしなので気に食わない。とはいえ妾らデモンアントを退治出来るほどの実力を持つ人間はそう多くあるまい。十賢者とやらも残すところ二名だけだし……。


 少し焦り始めた時、城壁の上に何やら女が立つ。それと示し合わせるように守備隊がカタパルト発射の準備に取り掛かった。あんな遠距離から岩石飛ばしたって簡単に避けられるんだが、と呆れたものの、連中の作業を観察した。


 二基のカタパルトから発射された二つの塊は、やはり妾の軍勢に当たることはなかった。着弾予測地点から速やかに退避したからだ。ごろごろと転がるものの特に毒を散布したり爆発したりもしない。ただ何かの塊を射出しただけだ。


「……っ!?」


 しかし、妾らにとってはそれだけで充分だった。

 いや、むしろ魔王様に傅くために魔人形態となって知性を得た妾やイヴォンヌへ特化した精神攻撃とも言えよう。


 飛ばされてきた肉の塊は女王だ。デモンアントとナイトメアターマイトの。

 なぜ彼奴らがこんなものを、そんなことは分かっている。

 魔導王国めは砦に現れた妾達の子らを返り討ちにし、女王を討ち果たしたのだ。


「馬鹿な……。出来立てとはいえ巣を丸ごと葬り去るなど……」

「ロザリー。来るわよ」


 城壁の上に立っていた女が身を投げだした、と思ったら緩やかに減速して地面に着地する。飛行魔法か反重力魔法だか原理は分からんが、卓越した魔法技術を持っていることは分かった。彼女はそのまま一人で妾らの方へと歩いてくる。


 奴は手にした杖を一振りし、砦の城壁ほどの高さまで燃え上がる炎の壁を形成、それをこちらに放ってきた。まさか炎波魔法フレイムウェーブか! それも相当の熱量と範囲、初めからこちらに大打撃を与えに来たか!


 炎の波に飲み込まれ、我が子らが悲鳴をあげる。鉄をも凌ぐ耐久性を誇るソルジャーアントも耐えきれずに次々と倒れていった。ウィザードアントが土の壁で防御した幾ばくかが難を逃れただけで、その他はひとたまりもなかった。


「お、おのれぇぇ! よくも我が子らを!」

「困った。アイツ……すごく強いじゃん」


 さっきのフレイムウェーブだけでも明らかに魔導王国が誇る十賢者共より強い。これでは物量作戦で押し切ろうにも我が子等に多大な犠牲を強いてしまう。ガーディアンアントでもあの女には敵うまい。やはり妾らで相手する他無いだろう。


 焔の波を耐えきった妾らに女が間を詰めてくる。奴は他の十賢者共と同じような凝った作りの魔導師の衣をまとい、いかにも強力な魔法効果が付与されたって感じの両手杖を持ち、茨の冠を被りながらトゲが刺さって血を流していた。


 何より、肌の色や背中から生えた漆黒の翼からも奴が人間ではないのは明らかだ。


「イヴォンヌ。あやつもどうやら魔導王国に洗脳されている魔族のようだけれど、見覚えは?」

「……無いわね」

「ん? 魔導王国めが捕らえた魔王様の御息女を洗脳した挙げ句に妾達に差し向けてきたかと思ったんが?」

「少なくとも雷撃勇者が言ってたマリエットじゃあないわ。彼女のことはこの私がよぉく知っているもの」


 だとしたら魔王様の御息女以外にも捕らえていた魔族の強者か。イヴォンヌの知らない魔王様の系譜か他の軍団の幹部なのか知らんが、とんでもない奴を差し向けてきたものだ。


「彼女の相手は私がするから、その間軍団長はあの砦を攻略しておいて」

「いや、二人がかりで叩きのめすべきだ。一対一に興じれる余裕は無いだろ」

「どっちかが軍を指揮していないとあの砦は攻略出来ないわ」

「……分かった。目処が立ったらすぐに加勢する」


 妾は大きく迂回してあの洗脳された魔導師の女を通り過ぎる。彼女は妾には目もくれずに対峙するイヴォンヌに集中している。どうやら一対一に専念して確実に妾達アリの真女王を討伐していくつもりらしい。


 待ってろよイヴォンヌ。すぐに砦を攻略して助けるからな。

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