表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とりあえず殴ればいいと言われたので  作者: 杜邪悠久
第五章 vsゲリラ豪雨
58/87

とりあえずユイの戦いⅢ

「【召喚(サモン)・ヘルハーピー】」


 私が状況確認をしようと相手を見たら、何故か物凄く怒っていて、そしたら身体が発光しだした。何だろうと思って見てたら、身体がボコボコって変化すると共に、数体の鳥? みたいなのがスライムを突き破って出てきた。人の形をしているけれど、腕や脚は鳥みたいになっている。キモい。

 赤黒い色をしていて、特に血管が浮き出たような紋様がドクンドクンと脈打つように、明暗しているのが気持ち悪さを増している。


「うわぁ……」


 そして次の瞬間、数体居た内の一体を捕食するように飲み込む。クリオネの捕食シーンを見ているようで、若干引く。何かバリバリボキボキ言ってるし。

 そうして捕食し終わった直後、腕辺りのスライムの表面部分に羽毛のような形が浮かび上がる。集合体恐怖症には辛そうな光景だなあ。

 そして何の予備動作も無く、ふわっと浮かび上がる相手。もはや何の生物なのだろうか。しかし、悠長な事は思っていられないらしい。ひとたび腕を大きく振るうと、そこからさっきの刃が無数に飛んできたのを見て、私や周りに居た人達は全力回避をする。

 私を逃がす為に、何人かが腕や背中を掴んで無理やり明後日の方向へと押し出す。お陰で私は難を逃れたけれど、背中を押してくれた人は身体に幾つも刃が刺さっていて、それが原因で光の粒となり消えてしまった。


「ユイさん、余所見しないで! 来るわ!」


 モジュレさんから注意される。自分のギルドメンバーが死んでしまっても、表情には出さずに指示を飛ばす。本来なら私が一番最初に消えてたはずなのに、


「皆、私なんかの為に……」

「それは違うでしょ!」

「え? あ……」


 どうやら口に出していたみたいで、飛んでくる刃をモジュレさんは的確に避けながら私を抱える。お姫様抱っこのせいか、今はモジュレさんの表情がよく見える。


「皆、貴女のその強さに掛けているからこそ、自身を盾にしてまで守っているの。決して”なんか”じゃないわ」

「でも、私」

「私のギルドは本来、後衛支援に向いている。だから前線に立つ事自体が苦手なのよ。けれど今回、皆には役割を持って行動して貰っている。元々無茶してるのよ」


 苦笑いしながら、けれどギルドメンバー達はよくやってくれているわと、なんだか誇らしそうだ。


「それに……貴女が死ぬと、私がエースさんに怒られてしまうものね」

「あ……うん、そうですよね」


 舌をペロッと出して茶目っ気たっぷりに言うモジュレさんに、私は小さい事で悩んでいた自分を恥じる。

 あ〜、そうだよね。私が決めた事だったはずなのに。どうしてこう忘れっぽいんだろう。


「モジュレさん、私はもう」

「……そう。期待、しているわ」


 モジュレさんは、ある程度✝︎フォース✝︎から離れた場所に来ると私を降ろす。私の意思を読んでくれたのだろう。


「エース、私頑張るよ。隣に並ぶんだって決めたんだもんね。これぐらいの事で躓いてちゃ、きっと笑われるもんね」


 まだ迷いを吹っ切った訳じゃない。恐怖に打ち勝った訳でも無い。だけど、私は誓ったんだ。それだけは変えちゃいけない。

 だって、それを破ったらエースが悲しむもんね!


 私は駈ける。迷いも不安も恐怖も抱えて。信じてくれる人達と、心配してくれる仲間の為に。





 相手の攻撃をよく観察すると、飛んでくる刃の位置には法則があった。着弾したところを見ると、バツマークを二つ重ねたような跡が付いている。

 更に攻撃する瞬間、ほんとに一瞬の事なんだけど、腕の羽の部分が少し脈打つ感じがする。気のせいかもだけど。もしかしたらそれが核なのかな、と思っている。

 何にせよ、普通に攻撃しても再生しちゃうから、ある程度狙いを付けなきゃいけない。けれど、この攻撃の雨を避けながらっていうのも、私には出来ない。


 考え事をしていると刃が飛んでくる。私は腕をクロスさせ、【ダッシュインパクト】を放つ。腕に当たった刃はバターのように溶けて消える。けれど、他の場所に掠っただけでHPの六割は減少してしまう。うぅ……割に合わないなぁ。それに、私のユニークはどうやら全身に効果がある訳じゃないっぽい。多分攻撃箇所だけな気がする。その辺りも注意して──


 バシャッ。


「ひゃっ!?」


 死角から投げられた回復薬がHPを癒す。私のHPは少ない分、簡単に全快出来るのは利点ではある。でもいきなりは止めてほしいなあ。あ、それだ!


「モジュレさん! さっきの足が軽くなるやつ、もう一度貰えますか?」

「大丈夫よ。何か打開策でも見つかった?」

「わかんないですけど。でもやらぬ後悔よりやる後悔って思って」

「お? なになに? 足を速くしたいって?」

「翡翠、ガード崩されると、私がしんどい」


 私が話をしているのが気になったのか、攻撃を防ぎながら横移動する翡翠さんと、弓矢を放つ速度を上げるkuraraさんも近付いてきた。

 折角なので私の考えを話すと、皆から「えっ?」みたいな顔をされた。


「流石トップランカー。普通に無茶するわね」

「トップランカーってたまに発想おかしい事するよね」

「変」


 上からモジュレさん、翡翠さん、kuraraさんが順に突っ込む。あれ? やっぱり私が常識知らずって訳じゃないんだ。少し安心。


「まあでも面白そうだし、私も微力ながら手伝うよ。可愛い女の子が頑張る姿は萌える要素の一つだしね」

「……。私は陽動に回る。モジュレ、支援は頼んだ」

「勿論よkurara。さて、反撃と行きましょうか」

「行けるかな」

「行ける行ける。何事も気持ちさ」

「そうだよね、うん、頑張る!」


 そうして私達は反撃を開始した。



「作戦会議は終わったかね?」


 遥か上空から見下ろす✝︎フォース✝︎が、四人が集まって何か会話しているのをじっと待っていた。彼の性格上、話し合いをさせない事に躍起になるものだが、心酔する兄貴から「異変が起こっていないか?」という【通話】が入った。おそらく兄貴側の方で何かがあったのだろう。一応レギオンVのスキルが誤動作している事を告げると、「そうか」と一言だけ言い切られてしまった。不思議に思いつつも戦闘に戻ると、ちょうど相手も会議が終わったようだ。こちらとしても早く終らせて兄貴の方へと向かいたいところ。何を考えているかは知らないが、このままなぶり殺しにしてくれるわ!



 そんなふうに思っている✝︎フォース✝︎目掛けて、上空に弓矢を乱射し始めるkurara。大多数は当てる気の無いものが多く、数打ちゃ当たるとでも思っているかのようだ。


「【ガトリングスナイプ】」


 躱すどころか刃を飛ばし相殺させる。矢の数よりも刃の数の方が多く、kuraraの被弾は目に見えて増えていく。


「くぅぅ」

「所詮は時代遅れなのだよ。武器も、お前達も」


 皮肉たっぷりに言ったが、気にする様子も無く攻撃を続けるkuraraを見て、それ以上言う気が削がれたのか、別の者を探し始める。

 そもそも最初、四人を捕捉していたはずなのだが、いつの間にかユイとモジュレの姿が確認出来ない。群集にでも紛れているのか、それとも……。


「どこ見てるの? 【歪曲射】、【陽炎花火】」


 不意に真横から飛んでくる弓矢。それを腕で払うと実体が無く素通りする。そして別の方向から攻撃が飛んでくる。


「幻惑系か、小賢しい」


 幻惑系ならば本体を倒せばいい。より苛烈に攻める✝︎フォース✝︎。


 そんな攻防を繰り広げる二人を他所に、モジュレと翡翠はユイへとスキルを掛けていた。


「【遁走曲(フーガ)】、【転調(モジュレーション)】、【テンポアップ】」

「【限定解放リミット・リベレイション】」


 スキル【夢想夜会トロイメライアーベント】。モジュレのギルド名であり、自身の持つ切り札でもあるスキル。

 効果は一分間、中範囲に居る者のダメージを無効化するのと、敵からの視認に幻覚作用を齎すというもの。ただし発動者はこの効果の限りでは無く、攻撃を受けるとスキルが強制解除されてしまう。今、相手の弾幕攻撃を当てられれば、それこそ簡単に解除されてしまう為、モジュレとそしてユイを守るような布陣で、残りのメンバーは流れ弾を受けていた。


 モジュレの掛けたスキルの効果は、順に『身体が軽くなり、【AGI】+30、【STR】-10』、『掛けた本人の【STR】と【AGI】の十分の一を対象に付与』、『スキルの発動間隔短縮』。

 翡翠の掛けたスキルの効果は『全ステータス+20』。

 どれも高レベルプレイヤー御用達の強スキルが並ぶ。ユイにはその価値が伝わっていないが。


「いい? ユイちゃん。私達の中じゃ多分一番ダメージが与えられるのは、ユイちゃんだけだと思う。他は皆、補助系支援系ばっかだからね。だから失敗しても誰も責めたりしないから、思い切りどーんとやっちゃいな!」

「結局は貴女に得てして頼る事になってしまったわね。大役になるでしょうけれど、気負いせずに。大丈夫、貴女なら出来るわ」


 真っ直ぐに見つめる二人に、握り拳を作り「行ってきます」と頷く。

 そして私は【ハイジャンプ】をその場で発動。着地する瞬間、私の足の裏に翡翠さんの手が重なる。


「行っくよ〜! 【もう貴方なんて大嫌い(ブレーキン・ハート)】」


 私の足の裏に、ビリビリとした感覚が流れる。そう思った瞬間、人間大砲のように上空へと吹っ飛ぶ。あまりの風圧に顔がブルブル震える。

 そうして吹っ飛んだ私は、空に居た相手をも上回る高度に到達した。


 そこへ、kuraraさんの放ったわざと外して撃たれた矢が足元付近へと飛んでくる。ちょうど失速して止まったそれを、私は足場のようにして勢いよく踏み込んだ。


「Kuraraさん、凄いタイミング……ありがとうございます。【ダッシュインパクト】!!」


 私は空中にてそれを発動すると、ほぼ真下に居る✝︎フォース✝︎に向かって高速落下を開始した。





 おかしい、何かがおかしい。

 地上からはkuraraが絶えず攻撃を行っている。殆ど当てる気すら無い矢まである始末。弾幕形成の為と思っていたが、威力の低い攻撃では核まで届く事は無い。それなのに、だ。何か策があるのは明白。

 そう思っているとモジュレと翡翠が姿を現す。モジュレの方は変化は見られないが、翡翠は何やらデバフが掛かったような印象を受ける。何かのスキルを使っているのは間違いない。

 しかし、肝心のユイが見付からない。近くに居るはずなのだが、姿形がまるで見えない。【突爆刃(とっぱじん)】によって倒せているならそれが最善だが、最悪を想定出来ない者に未来は無い。避けられていると仮定するならば、奴は今どこに……。


 その時、✝︎フォース✝︎の身体にズシリとした重みと衝撃が走る。弓矢とは違う、重すぎる一撃。思わず体勢を崩し、地面へと落下する最中、困惑する✝︎フォース✝︎が見たのは紛れもなくユイが攻撃を加える姿だった。


「どうして上から!?」

「死角からなら、咄嗟には避けられないよね! 【トリプルアタック】!」


 落下しながらスライムの身体にボスンボスンと、空振りの攻撃が続く。幾ら奇策で攻撃しようとも、核さえ破壊出来なければどうと言う事は……。


「あれ? うーん、この辺!」


 バキッと音が鳴る。今まで聞いた事の無い音だ。それにはちゃんとした感覚があって、しかも相手の顔が驚愕に染まっている。


「核がっ!? どうして……」

「なるほど、これがそうなんだ。じゃあここかな? えいっ」


 バキンッ。


 再び割れたような音がする。三つ目の核が破壊された時、✝︎フォース✝︎の思いは驚愕から恐怖に変わる。


(何故だ、何故分かる!? 見た目では探索スキルを使ったとしても判別不可能なんだぞ!? それをどうしてここまで正確に)


 核の場所は勿論常に変えている。ただそれはユイの攻撃速度でも破壊出来るぐらい、移動速度は遅い。だがそれにしても、攻撃をピンポイントで当てるのは熟練者でも難しい。


「お前は、一体……ぐふっ」


 言いかけて、自分が未だ空中に居たのを忘れ、地面に激突した事でそれを思い出す✝︎フォース✝︎。衝撃のせいか、身体が上手く動かせない。そこへ──


 ✝︎フォース✝︎の目の前には、飛来してくる黒炎が五発。度重なる攻撃の末、遂に【黒炎招来】が発動したのだ。威力は大した事は無い。しかしそれに気を取られたせいで、✝︎フォース✝︎は一瞬ユイの姿を見失う。そして響く最悪の衝撃。


 バキッ、バキンッ。


 最後の核が割れる音。これにより【憑装】そのものが解け、元の人間の姿へと戻る。そこへ黒炎が当たり、


「ぐふっ、ゲホッ、ぐあっ!」


 黒炎の全てが命中し、防具のほぼ全てが破壊されるという最悪の事態。しかも【憑装】の再使用可能時間(リキャストタイム)を待つほどの猶予はおそらく無い。だが最後の悪足掻きとばかりに、【召喚(サモン)】で反撃を試みるも──


「【ドレインショット】」


 Kuraraから放たれる、MP吸収の矢。取られるMPは微々たるものだが、今の✝︎フォース✝︎には無慈悲とすら感じる。地面に這い蹲る✝︎フォース✝︎に影が掛かる。それは無情にも振り上げられたユイの拳。ゆっくりだが確実に近づくその拳を前に、✝︎フォース✝︎はそっと目をつぶった。


 衝撃と共に地面が揺れる。一瞬の沈黙。そして光の粒となる✝︎フォース✝︎を眺め、自然と私は拳を掲げていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ