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とりあえず殴ればいいと言われたので  作者: 杜邪悠久
第四章 悪質ギルドと戦闘準備
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とりあえずメンバーを募集したら

 エースの無茶振りにより、私は【ギルド本部】にまで足を運ぶ事になった。場所が分からないのと、元ギルメンの様子見を兼ねて、伯爵さんが同行してくれる事になった。エースはエースでフレンドの手伝いがあるからと、私達よりも先に何処かへ行ってしまう。


「それにしても本当に女子だったとは……。てっきりロールプレイングかと思っていました」

「ロールプレイング、ですか?」


 そう言えばゲームのジャンルで見かけた事はあるが、詳しい意味は分からない。それを察した伯爵さんが答える。


「ロールプレイングとは、ある役柄を演じながらプレイする事を指します。例えば私、既に地が出てしまっていますが、『伯爵っぽい何か』を演じながらプレイしています」

「なるほど。でもそれをする意味ってあるんですか?」

「人によって理由は違うでしょうが、例えばチヤホヤされたくてアイドルを演じる。性別を意識せず対等で有りたいので男っぽく振る舞う。そんな感じで自分とは違うもう一つの一面を隠し持てます。それはストレスからだったり、その方が有利になるからだったり。要は自分じゃない自分で居られるのが楽しいのです」

「そういうものなんだ」

「まあお二人を見ていると自然体が一番いいのかも、などと思ってしまいますがね」

「あはは……」


 伯爵さんと話をしながら歩いていると、緑色の平屋根の建物が見えてくる。


「あれが【ギルド本部】です。建物自体は主要都市に点在していますが、やはり天空都市のは無駄に豪華ですね」


 そう言って建物前にある彫刻を指差し、「あれ、【ギルド対抗戦】の優勝ギルドのマスターが飾られているのですよ」と教えてくれる。


「ユイさんも、もし優勝出来れば彼処に記念碑や彫刻が飾られますよ」

「えぇ……あんまり嬉しくないかな」

「廃……ゲーマーの方々はあれが一種のステータスになっていたりしますので。おっと、それでは私はここで」


 視線を落とす伯爵さん。どうやら誰かから『通話』が来たようだ。多分元ギルドの人なのかな?


「受付の人に募集の事を話せば、あとは説明も交えて教えてくれるでしょう」

「あ、はい。ありがとうございます」

「いえいえ、では」


 それだけを言うと一瞬のうちに消える伯爵さん。皆普通にワープアイテムを使っているけれど、お金大丈夫なのかな? 単価はそこそこだけどそんなにポンポン使えるようなものじゃないと思うんだけど。


 皆のお財布事情を考えつつも、私は【ギルド本部】の中へと入る。入る直前、猫型の彫刻が見えた気がするけれど。

 中は外観とは違って意外と広くなく、コンビニ二つ分あるか無いかぐらいの広さ。カウンターが幾つかあるけど、受付ってどこだろ?


 辺りをキョロキョロと見回し、ああでも無いこうでも無いとウロウロしていると、後ろから肩をトントンと叩かれる。振り向くと長身の男の人が立っている。


「ここ、入口なので」

「あ、ご、ごめんなさい!」


 よく見れば入口を塞いでいた事に気付く。慌てて飛び退くと男は笑う。


「いや、そこまで下がる必要は──そう言えば何か用事だったのかい?」

「えっと、ギルドメンバー募集ってどこで受付れば」

「ん? それなら一番左側のカウンターに……って、もしかしてギルド初めてなのかい?」

「はい」

「その装備でここが……そうか」


 一瞬、ニヤリと笑った気がするが何事も無かったかのように受付まで案内してくれる。


「ようこそ、【ギルド本部】へ。何か御用でしょうか?」

「彼女……ユイさんがギルドメンバーを募集したいそうなんだ」

「承りました。こちらに必要事項の記入をお願いします」


 男の人、えーと名前は青薔薇さんか。青薔薇さんは受付の人と手際よく話を進めてくれる。NPCとは分かっていても、何だかこういうところは緊張しちゃうな。それをあんな堂々と……。


「そんなに見つめられても、困ってしまうな」

「あ、すみません」

「いやいや。女の子に見つめられて嫌に思う男性は居ないから。むしろもっと見てくれていいんだよ、なんてね」

「ふふ」


 見た目は少しチャラい風だけど、とても親切に教えてくれる。ちょっとお茶目なところが何とも可愛らしくて、思わず笑ってしまう。


「このスクリーンに、ギルド名、募集期間、募集内容を記入しておけば、奥の方にある掲示板から内容が閲覧出来るようになる。募集期間が過ぎれば自動的に削除されるけど、もし期間前でもここに来れば消す事が出来るよ」

「なるほど」


 ちょこちょことアドバイスを貰いながら記入していく。ギルド名は『唯一無二』。募集期間は無期限もあったけれど、最初のうちは一ヶ月程度で様子見するのがいいらしい。募集内容は『一緒に冒険しましょう』にした。青薔薇さん曰く、『誰でも』とか入れると変なのが来やすいので、出来るだけ内容を細かくするのがいい、とは言ってくれたのだが、そもそも何を書いていいか分からない。なので定型文をそのまま使った。伯爵さん的には次回の【ギルド対抗戦】は是が非でも回避したいらしい。青薔薇さんにはちょっと悪い事したかなって思うけど。

 記入し終わり『完了』を押すと、受付の人が「確認致しました。これにて記入は終わりです。またのお越しを」とお辞儀される。そうして私はそのままギルドの方へ帰ろうと、青薔薇さんに声を掛ける。


「あの、色々ありがとうございました」

「いえいえ、役に立てて何より。それよりも」


 少し溜めた後、イタズラっぽい微笑みを向ける青薔薇さん。


「僕も実はギルドを探していてね。良ければギルドを見せてもらう事って可能なのかな?」

「え。あ、はい! 勿論!」


 思わず驚いてしまったが、自分達の仲間が増えるのは単純にいい事だ。まだ相手がどんな人かは分からないけれど、先程の対応を見るに優しい人に思える。

 私は意気揚々と自分達のギルドへと案内する。道中、自分がギルドマスターにさせられた事やまだレベルが10にも満たない初心者だと明かすと、それはもう大変に驚いていた。


「ハハハ。今まで色々な人と会ってきたけど、まさかそのレベルでギルマスとは」

「そうなんです。本当に無茶苦茶で」

「まあ、君が低レベル帯というのは装備を見れば大体予想出来るけれどね」

「あ、やっぱりそういうものなんですか?」

「まあ……。初心者を装ってわざと、なんて人も居ない訳じゃないけど。高レベルになるほどデザインが凝ったものが多くなるからね」


 確かに。そう思わせるように、青薔薇さんの装備はまるで忍者のような黒装束を着ている。観察しているとまた目が合ってしまい、彼が微笑むとつい目を逸らしてしまう。顔はゲームキャラだからか、皆イケメンで微笑まれるとちょっと顔が熱くなってしまう。バレないように隠しながら歩いていると、ちょうどギルドがある滝の道にまで来ていた。


「この道を真っ直ぐ進んだところが私達のギルドです」


 青薔薇さんは滝を見ながら「まさか最上ランクとは……」と言って固まるも、直ぐに慣れたように滝の中を潜る。滝の勢いに反して圧力とかは感じない。伯爵さんは何故かこの道を通る時だけ顔を強ばらせているけど。


「どうぞ、って言ってもまだ何も無いんですけれど」


 そう言って中に入れると、青薔薇さんは辺りを見回す。


「凄いですね。普通は段階を上げていくので、ここまで殺風景な最上ランクのギルドを見るのは」

「やっぱりそういうものなんですね」

「いえいえ、逆に新鮮です。あなたの言う親友さんは、きっと凄いプレイヤーなんでしょうね」

「はい! ちょっと変なところはあるけど、自慢の親友なんです!」


 胸を張って答える私に、「幸せそうで何よりです」と微笑む青薔薇さん。エースは変人鯖とか言ってたけど、こういう普通の人もやっぱり居るんだなあ。


「気に入りました。是非私もこのギルドに入れて頂きたいんです」

「本当ですか! 私からも是非! あ、勧誘申請飛ばしますね」


 そう言って慣れない手付きで申請を飛ばし、青薔薇さんは承諾する。名前の縁が緑色になるのがギルドメンバーの証であり、無事に成功した事に私は安堵する。


「そうだ。僕のフレンドにもギルドに参加したい人が居てね。良ければどうかな?」


 提案されて少し考える。まあでも、青薔薇さんの紹介なら大丈夫かな? そう思い、私は「いいですよ」と言うと青薔薇さんは文字を打つ動作をする。多分『手紙』を書いているのだろう。

 書き終わり、改めて「ありがとう」と礼を言う青薔薇さん。そのまま私の方に近付いて──


「【毒玉】!」


 私と青薔薇さんの間に、紫色の何かが飛んでくる。近付こうとした青薔薇さんは、寸でのところで後ろに下がり躱す。紫色の何かは壁にベチャッと粘つくような音を立て、ペンキを落としたように広がる。私は入口の方を見て、それがエースが撃ったスキルだと理解すると、何をするのと怒ろうとした。しかし、その言葉はエースが青薔薇さんに向けての放った一言でかき消される。



「”ギルド荒らし”の飼い犬がどうしてここに居るッ!」


 その言葉に私は動く事が出来なくなった。

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