悩み悩んで今是昨非 4
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リヴェル侯爵からアドバイスを貰ってから更に3日が過ぎた。
王都からの返事を待つだけとなった私は、街で待っているメルとダニエルの事が気になり始めていた。
ダールに来てから既に8日が経っている。
メルはともかくあのダニエルが本当に大人しく待っていられるのか今更ながら若干…かなり不安だった。
あの説教だけで本当に効き目があったのか、それとも実はもう城に忍び込んで何処かで様子を伺っていたりするんじゃないだろうか?と、心配という言葉が通常とは異なる意味で私の頭の中を支配していた。
マリアン夫人と庭を散歩しながらそんな事を考えていると、表門の方が騒がしい事に気がついた。
(ま、まさか…恐れていた自体が…?)
ゾッと背中に緊張が走る。
「あら?誰かお客様かしら?」
うってかわって夫人はのほほんと首を傾げる。
すると程なくして、此方に向かって兵士が走り寄ってくるのが見えた。
「何かありましたか?」
夫人が声を掛けると、兵士は敬礼をしてから恭しく私に向かって手紙を差し出した。
「ッハ!王都からレティアーナ様に早馬で手紙が届けられました」
兵の言葉にホッと息をつく。
どうやらお父様から返事が来たみたいだ。
「マリアン様、失礼してここで読んでも…?」
「ええ、ええ、勿論。私の事は気になさらないで。ああ、貴方、王都からの使者は丁重にもてなしてあげて。急ぎご苦労様と」
「あ、私からもありがとう御座いますとお礼を伝えてもらえますか?それと、貴方もありがとう御座います」
手紙を届けてくれた兵に夫人が指示を出すのを聞いて、私も慌ててお礼を言う。
手紙を届けてくれた兵は「ッハ!」とまた敬礼して、その場を離れた。
私は緊張する胸に手を当ててから一度深呼吸をして、お父様の手紙を開封した。
「……」
1字1字確かめるように目を滑らせる。
最後まで読み終わる前に私の目から熱いものが流れて、ポトポトと手紙の上に落ちた。
「お父様は何て?」
夫人が心配そうに私の背中を撫でて私の顔を覗き込む。
「私の思うように、と。何かあったらいつでも帰って来なさいって」
文面からはお父様が本当に心配していたことが伺えた。
手放しで見送るのは心苦しい事、やはりレイとの婚約話をしたことを後悔してた事、本当はずっとそばにいて欲しかった事。
どれも胸を締め付ける話ばかりだった。
それでもお兄様と話し合って、お父様は背中を押して送り出す事に決めたと書いてあった。
ーーお母様ならきっとそうするから。と。
ぐしゃっと手紙が歪む。
堪えながら泣く私を元気付けるように、夫人は私の肩を抱えて優しく声を掛けてくれた。
「ビセット閣下は良いお父様ね。アベル様も。私の娘はなんて幸せ者なんでしょう。レティアーナ様も、ね」
コクコクと顔を手紙で隠しながら頷く。
相談もせずに家を飛び出した事をとても後悔した。
最初から話し合ってお互い向き合って、ちゃんと説得していればお父様にもお兄様にも必要以上の心配はかけることはなかった。
反対されるなら賛成してくれるまで説得すれば良かっただけの話なのだ。
『ーー父上の許可はきちんと取れ。それすら出来ない奴に誰かを救うことが出来るとは俺は思えん。いつも通りのワガママでないのなら、お前の本気を見せてみろ』
レイのあの時の言葉がまたズシリと深く刻み込まれた。
もう二度とこんな事がないように。
グッと歯を食いしばり、顔を上げ、涙を拭い、
「マリアン様」
と、私は夫人に向き直る。
しっかり夫人を見据え、決意を胸に深々とお辞儀をする。
「突然の訪問にも関わらず、長期に渡って今までお世話になりました。明日経とうと思います」
夫人は私の言葉と態度に一瞬目を瞠ったが、やがて寂しそうな笑顔で受け止めてくれた。
「そう、もう少しゆっくり…と引き止めたい所だけれど、何か事情があるのね。しょうがないわね…寂しくなるわ」
「ありがとうございます。絶対にまた来ます」
私はギュッと夫人に抱きつく。夫人もそれに応えて私を抱きしめてくれた。
手紙も書こう。と心の中でそっと思った。




