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ウイニー王国のワガママ姫  作者: みすみ蓮華
2章 それぞれの事情
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決意表明 6

「お前の言い分は大体判った。こちらで少し調べてやろう。が、それだけで詐欺師ではないって言い切るのもなぁ…そもそもお前は危機感が足りん。ちょっとそこに立ってみろ」


 何かしら?と訝しみながらレイに言われたとおり応接室の中央辺りに立ってみせる。

 レイは私の正面に立つと私を上から下までジロジロと観察する。


「な、なに?なんか、へ……んっ?!」


 突然ガッと肩を掴まれ抑え込まれる。

 私は訳も判らずパニックを起こしていると、あれよあれよと言う間にレイに床に押さえつけられてしまった。

 思わずガンッと床に頭を打ち付ける。


「いったっ!な、なにす…」

「いいか?よく覚えとけ!男が本気を出したらお前がどんなに足掻こうと逃げられないんだ。ちょっとこのまま抵抗してみろ」


 未だにレイの意図が掴めないまま真っ赤になりながら言われるまでもなくジタバタとレイから逃れようと暴れる。

 腕を振り上げようとしてもビクともしないし、足で蹴り上げようとしてもレイが覆い被さって体で押さえつけてくるので動かせない。

 腕の骨がミシッと軋むような感覚に襲われる。


「レイ〜〜〜!どいてーーー!重い!腕、痛い!」

「……」


 どんなに訴えてもレイは私を離さない。

 すると次の瞬間、フッとレイの力が抜けるのが分かった。


 チャンスとばかりに押しのけようとする。

 しかし今度は両腕を頭上で結ぶようにされて片手で押さえつけられてしまう。

 空いた手は私の頭を押さえ込んだ。脚は膝で抑え込まれている。


 これには流石に私も驚いて、抵抗するのを忘れてレイを凝視してしまう。


(嘘?!片手なのにビクともしないなんて!頭も全く動かせないっ)


 ゾッと、背筋に冷たい何かが走り抜ける。

 みるみる血が引いて行く私の顔色を確認すると、レイは私の拘束を解いてスッと私の手を引いて立ち上がらせた。


「今のをちゃんと覚えておけよ?言っておくが、まったく本気は出していないしあれ以上の事も出来るんだからな?」


 レイのその言葉にさらに私は目を見開く。


 …あれで本気じゃないですって?!

 あれ以上の事って、そんな事されたら死んじゃうわよ!


 思った所でブルッと震え上がる。

 もしも今のがレイじゃなくて、見知らぬ男の人とか、ダニエルだったら……?


 ギュッと自分の腕を抱きしめていると、ポンポンと優しく背中をさすられる。

 見上げれば心配そうなお兄様の顔が目に入った。


「大丈夫か?あぁ、こんなに震えて…レイ、少しやりすぎだぞ」

 そう言ってお兄様はレイをジトリと少しだけ睨んだ。

 私がすがるようにギュッとお兄様にしがみ付くと、お兄様はそっと手で髪を梳いてくれる。


 一方レイは、お前は甘やかし過ぎだと言わんばかりにふん!と鼻で息を吐き出す。

「体に叩き込まないといくら言っても解らんだろうコイツは。小さい頃は男女に差がないから気づかなかったんだろうが、今ではだいぶ違うのだと自覚をしろ。何故皆がお前を1人で旅をさせたくないのか少しは解ったか?」


 声も出さず、こくんと小さく頷いて応える。

 どんなに剣の腕を磨いても、体力をつけても、勝てない事もあるんだとこの時初めて気がついた。

 じわっと目尻に熱いものが流れ落ちそうになる。


(悔しい…人一倍努力してきたのに、私は無力だって、叩き付けられたみたい)


 顔を俯けて落ち込んでいると、頭に暖かい熱を感じた。

 レイが優しい目で私を見ながら大きな手で私の頭を覆っていた。


「判ればいいんだ。痛かったか?すまんな。怖いをさせて」


 ブンブンと首を横に振る。


 レイはいつも厳しいけど、それはちゃんと私の事を考えてくれてるからだって判ってる。

 私を甘やかさないのはレイぐらいしか居ないのだ。


「よし。この件はとりあえずこれで終わりだ。お前は部屋にーー」

「待って!私も聞きたい事があるの」


 ドクンと背筋に緊張が走る。

 あれは夢だ。

 ただの夢。それを確認する為にーー


 すーっと深呼吸をすると、震える声を抑えて掠れた声でレイに尋ねる。


「…レティアーナ?」

 青い顔で俯く私に怪訝な顔をお兄様が覗かせる。

 支えていた背中が少し震えてる事に気がついたのだろう。


「お兄様達は、どうして、ここにいるの?」


 レイとお兄様は訝しげに顔を見合わせた後、2人でもう1度私を見る。

 顔色の悪い私をレイが覗き込んで伺う様にして質問に答える。


「どうしてって、毎年兵の秋の演習はこの時期だって知ってるだろう?まぁ、場所は毎回違うが…今年はダールにある小さい村でやることになってな。丁度演習を終えて帰る所でここに世話になっていたらお前が来た訳だが?」


 ダールにある…村………?

 ううん村なんていくらでもあるし同じ場所とは限らないわ。


「その村って、ダールの西にある山脈付近の村、じゃ、無いわよね?」


 私がそう言うとお兄様もレイも目を見開いて私を見る。

 その顔を見て、私の心臓が跳ね上がる。


(いや、だ……嘘でしょ…?その先の言葉は聞きたくない………っ!)


 その願いも虚しく、残酷な程冷静なレイの声が私の耳に響き渡る。

「そう、だが…なんでお前そんな事知ってるんだ?演習場所はギリギリまで関係者しか知らなかったはずなんだが……って、レティ?お、おい!!」



 グラッと足元が崩れる。

 嘘、嘘よ!だって、あれは夢!どんなに鮮明でも夢は夢!

 信じない…しんじ、ないわ……


 レイが何かを叫んでる声が聞こえる。

 お兄様も心配そうな声を上げてる。

 でも何を言ってるのか全く耳に入ってこない。


 目の前が暗くなる。

 そのまま2人の姿が闇の中に消えて行った。

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