決意表明 5
「アベルこいつは本気だぞ。お前はどうするつもりなんだ?」
レイは難しい表情のまま決して私から視線を外さない。
私はそんなレイに応える。
お互いここまで真剣なやり取りは初めてかもしれない。
「流石に、僕だけでは決められない。父上とも話し合うべきだ」
「うむ」
レイは既に分かりきった返答だという感じで少し頷いて、ジッと目を細める。
私を図りながら次の言葉を考えている様だった。
青い瞳が小さく光った。
「レティアーナ。お前、暫くここに滞在しろ。そしてビセット公に手紙をかけ。早馬を出してやる。今すぐ帰れとは言わん。だが公の許可はきちんと取れ。それすら出来ない奴に誰かを救うことが出来るとは俺は思えん。いつも通りのワガママでないのならお前の本気を見せてみろ」
レイの言葉にハッとして、私は神妙に頷いた。
(私バカだわ…そんなことにも気づかないなんて。これじゃあダニエルに偉そうな事言えないわ)
少しだけ落ち込む私にレイはコクリと頷いた。
「よし。話はついたな。で?」
「?」
で?って何かしら?
と、私は首を傾げてきょとんとしてレイを見る。
はぁ〜…と大きな溜息。
「直前の話を忘れるな!ダニエルとかいう奴の話だ!お前曰くなんで非常識な男と旅なんかしてんだ!」
ああ!と私は相槌を打った。
今の流れですっかり忘れてた。
「話すのはいいけど約束はちゃんと本当に守ってよ?」
「ああ。いいから話せ」
「実は……」
私は今までの出来事を掻い摘んで説明した。
船の上で会った事、船酔いしたメルが女性と間違えられて襲われた事、どういうわけか私に本気で恋をしてしまったらしい事。
2人はメルが襲われたという時点で既に難しい顔をしていたんだけど、私の話になった途端みるみると顔色が変わって行くのが手に取るように判った。
1番憤怒したのは意外にもレイだった。
「なんだそいつはっ!非常識にも程が有るだろ!!その腐った性根叩っ斬てやる!!今すぐそいつをここに連れてこい!!」
真っ赤な顔で拳を握り立ち上がって怒りでふるふると震えている。
私もしょっちゅう怒られるけど、こんなレイ初めて見たかも。
お兄様はむしろ顔が青くなって絶句している。
はぁ〜と私は嘆息をする。
「無駄よ。次元が違う生き物みたいな人だもの。それに今は私が来る前に説教したから、大人しくしてるはずよ。そして言ったでしょ?彼の処遇については私に任せてって。ただ、ね…」
どうしても気になる事が一つあった。
それは"ペペス男爵"という人物だ。
直接会話をしない貴族でも、ある程度の人物は私もレイも頭に入っている。
もちろん全員ではないのだけれども。
その中の記憶に"ペペス"という人物は全くないのだ。
「話を聞いてると海外の貴族でもなさそうだし一代貴族なのかなとも思うんだけど、なんか引っかかってて。流石に詐欺師…ではないと思うんだけど…調べられないかしら?」
「なんで詐欺師じゃないって言い切れるんだ?」
今までの話の流れで彼を評価するなら、
確かに詐欺師と疑った方が楽だしスッキリする。
しかしそうじゃないと言い切れる根拠はちゃんとある。
「ひとつ目は彼が本物のダニエル・ペペスであることよ。私は船の上で彼が実際に新しい旅行記をしたためているのを見たわ。内容も確かに彼の特徴と一致してた。だから本物って言える」
認めたくはないけれど、あの文章は見様見真似だけでは説明できないところも確かにあったのだ。
普通の人が目を向けないような内容を書くのは彼くらいだったから。
「ふたつ目は彼が本物のダニエル・ペペスと断定して、お金を稼ぐ必要が無いって事よ。まぁ借金してたりしたらありえるかもしれないけど、あの本は相当売れているはずだし今現在も売れているはずよ?詐欺を働く必要は皆無ね」
「ふむ」
豪快。ではあるけど、豪遊をしている様子は無かった。
と言ってもトップル3本1日に飲み干してしまったりしてたから借金がないとは言い切れないけど。
宿代にしろ食事代にしろ彼は集る気配はなかったし、両替の時もキチンと対応していた。
お金に執着している所はまるで見られなかったのだ。
「みっつ目は、彼は相当な単純バカだわ。まず空気が読めない時点でもう詐欺師に向いてないもの。騙されることがあっても騙すのは無理よ。あれが演技ならたいしたものだわ」
悪い事を悪い事として認めるだけの良心は持っているのよね。
それは一番初めの「俺を殴れ!」で証明されてるわ。
着いて来るようになってからも、私が嫌だとか駄目って言えば渋々ではあるけどちゃんと守ろうとは努力している。
"非常識な女ったらし"意外は案外まともなのかもしれない。
まぁ、そこが問題なんだけど。




