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ウイニー王国のワガママ姫  作者: みすみ蓮華
2章 それぞれの事情
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決意表明 3

 =====



「さぁ、どういう事か説明してもらおうか?」


 私は1度客室に通され、湯浴みをしてから皆が待つ応接室へ向かった。

 ソファーに座り、給仕の出してくれた紅茶に手を付ける。

 私はホッとして、少しだけ落ち着きを取り戻すことが出来た。


 踏ん反り返っているレイの後ろには、お兄様、クロエ、ジゼルダ公の3人が控え、リヴェル侯爵とマチルダ夫人はサイドにあるソファーに座っていた。


「ええっと、何から話せばいいのかしら…?」

 まだ少しだけ頭が回らない私をレイがビシッと睨み付けてきた。

「まず、なんで出て行った!そして今までどこで何してた!」


 まぁまぁとジゼルダ公が後ろからレイを宥める。

 私は小さく溜息をして、なるべく冷静に一つ一つ確認しながらゆっくり答えた。


「出て行った理由、ね。…レイと結婚したくなかったから、お見合い候補にいい人がいなかったから、友達を助けたかったから、半獣族の問題をなんとかしたかったから、ええっと後は、と、やりたい事があったから。かしら?」


 指折り正直に話す。その返答に一同が驚いた。

 おそらく婚約の事以外は全く想定していなかったのだろう。


 レイは理由については何も言わず、出されたコーヒーを一口飲んでから、

「で、今までどこでなにしてた?」

 と返答を促す。


「うちを出てからメルに会って、一緒に船に乗って、まずはブールに行ったでしょ、で、ブールからベルンのケザスへ入って、その後はグルグネスト行って、そのまま東に進んで色々な国を経由してここまで来たわ」


 ほぅ…と感心したような溜息をついたのは、お兄様とレイ以外の人間だった。

「姫は随分冒険されたんですね」とクロエさえも少し羨ましそうに呟いた。


「そう言えばメル、あいつはどうした?俺はあいつにお前の護衛をして逐一報告しろと言ったはずだが?」

 ああ、道理であんなところにメルが居たのかと納得する。

 しかし今の私にレイに反論するだけの気力は残っていなかった。


「メルなら、今は街の宿屋にいるわ。ちょっと訳があって、ここには連れて来れないから。メルが報告出来なかったのは私と同じ理由だと思うわ。そんな暇なかった」


「訳ってなんだ?あいつ体調でも崩してんのか?」

 レイが眉間にしわを寄せる。


「違うわ。ただ、ちょっと、今ここでは言えない。どうしても聞きたいならレイとお兄様だけにしか話せないわ」


「私達は席を外しますかね?」とリヴェル侯が言った。

 レイはお兄様と目で会話すると「ああ、すまない。頼む」と返事をして他の皆を下がらせた。


「アベルも座れ。落ち着かん」

 みんなが出て行ったのを確認するとレイがお兄様を促した。

 お兄様はレイの隣に座り私の言葉を待った。


 私は1度紅茶を飲んで落ち着いてから口を開いた。

「レイはダニエル・ペペスという人物を知ってるかしら?ペペス男爵という方の長男らしいんだけど」


 んん?とレイは眉を顰める。

「ペペス男爵?…多分、知らんな。アベルは知ってるか?」

「ん〜?ダニエル・ペペス?なんか聞いたことある気がするんだが…」


 お兄様の聞いた事あるは多分、男爵家の長男としてじゃないわよね。

「お兄様、ほら、旅行記の作者です。私がよく読んでる」

「ああ!あの本の!…で?それがどうしたんだ?」


 うん。まぁ、メルには繋がらないわね。

 2人の頭の上にクエスチョンマークが見えるわ。


「船の上で、その、彼に出会って、何故か一緒に旅をする事になってしまって…今、下に居るんだけど、メルに見張ってもらってて」


 流石に惚れた発言は濁しておく。

 そんな事を言ったら流石に強制送還されてしまう気がした。

 そんな私の焦りに気づく様子もなく、お兄様は目を見開く。


「本当に?あの、旅行記の作者の?凄いな!」

「そんなに有名な人物なのか?」

「ウイニーであの旅行記を読まずに旅をするならモグリって言われるくらい売れてるぞ?各町までの日数や目印,伝承から風土に至るまで、なんでも事細かに書いてあるからあれ一冊あれば他は要らないくらいだ」

「へぇ、今度俺にも読ませろ」


 レイは基本的にあんまり本を読まない。

 まぁ、流行り物にも興味ない人だし。


「んん?だったらそのダニエルってやつも連れて来れば良かったじゃないか。有名人で男爵の息子なら話のネタとしてリヴェル侯も喜んだだろうに」

 レイがいうと、お兄様も会ってみたいとばかりに頬を赤く染めていた。


 ふぅ…と私は嘆息する。


「何も問題が無ければそうするわ。ただ、彼はちょっと………いえ、かなり非常識なところがあって。侯爵様に紹介出来るような人物じゃないのよ。それに、話を聞けば男爵家から勘当されたらしくって…まぁ、勘当された理由は私でも想像つくくらいよ。そんな人を侯爵様に紹介できないでしょう?」

 私が言うと、お兄様もレイも顔を顰めた。


「確かに、そういう人物なら紹介するのは躊躇われるな。だが、お前、なんでそんなやつと旅してんだ?」


 う……

 一番突っ込んで欲しくない所を…


 目を逸らしつつなんとなーく説明する。

「ええっと…成り行きよ。成り行き。旅は道連れって言うじゃない?そんな事もあるのよ」


 それだけ言って目を伏せて澄まして紅茶を嗜んでみせる。

 しかし今度はお兄様が黙ってなかった。


「成り行きって…非常識で親に勘当された男と旅をしてるっておかしいだろう!何処をどうやったらそんな成り行きになるんだ!ちゃんと説明しなさい!」


 ビクッと思わず肩をすぼめ、じわっと涙を浮かべてポロポロと泣き出してみせる。

「だ、だって、本当に成り行きとしか言えなくて、酷いわ、お兄様、怒鳴ることないじゃない…」


 顔を伏せるとお兄様はおろおろとして、

「あ、レティ、別に怒ってるんじゃなくって、その…」

 と、私を宥めた。


 しかし、やっぱり、と言うべきか、レイは見逃さない。

 腕を組みながらジーーーッと私を目を細くして見据える。


「アベルはそれで騙されるかもしれんがなぁ?俺はそんな事じゃ騙されないぞ?お前の嘘泣きはもうお見通しなんだよ!とっとと洗いざらい吐け!」

「えっ?嘘泣き?」

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