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ウイニー王国のワガママ姫  作者: みすみ蓮華
2章 それぞれの事情
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ベルンで見る夢 3

 =====



 結局この男に見つかる羽目になった上に、メルも私も助けられてしまった。

 両替もダニエルが居なければきっと出来なかっただろう。


「ハニーは本当に素直じゃないなぁ。俺が着いて行くって言ってんだから、遠慮せずにこき使えばいいだろう?女は男を利用するもんだぜ?」


 ダニエルはぐいっと大きなジョッキに入ったビアを飲む。

 あれから市場で買い物をして街で宿をとると、夕食を取る事にしたのだ。


 …全てダニエルと一緒で。


 まだ少し顔色の悪い私は軽めの食事を頼んで、ノロノロと食事をしていた。

「助けてくれたのは感謝するけど、私はあなたと一緒に居たくないの。もっと穏やかに旅をしたいのよ」

 今までの素行から言っても無駄だとは思ったけど、駄目元で彼を説得してみる。


 その真剣さが伝わったのか、ダニエルも真顔で私に答えた。

「ふむ…でも俺はハニーと一緒に居たいんだ。なぁ、どうしたら俺を認めてくれるんだ?」


 その目があまりにも真剣で、私は少しだけドキッとした。


(この人、本気で私に惚れたとか言ってるのかしら…?いいえ、ダメよレティ。騙されないで。コイツは一番初め病人のメルを襲っていたし、着飾って私と気づかないで口説いていた様な不埒ものよ。それにとても野蛮人だわ)


「そう言われても、私と貴方じゃ身分が違いすぎるわ。それに、はっきり言ってタイプどころか敬遠したいタイプだわ」


「っぐ…」と、ダニエルは仰け反りながら顔を顰める。

 もっとズケズケと押してくるかと思ったら意外にも押し黙ってしまった。

 …もしかして、傷ついてる?


「じゃぁ、ハニーはどんなタイプが好きなんだ?」

 じーーーっと穴があくんじゃないかと思うくらい、私はダニエルに凝視される。

 それは何故かメルも同じで、眉を寄せながらじぃ〜っと見つめていた。


 なんて答えたものかしら…


「そう、ね…あまり考えたこと無いかも。好きになった人が好きなタイプなんじゃないかしら?」

 私がそう言うと、2人揃ってガクッと肩を落とした。


「いや、なんかあるだろ?理想のタイプとか、こんな男が旦那だったらいいわとか」


 ううん。ダニエルがタイプで無いのは確かなんだけど。

 ……ああ、真逆を答えればいいのかしら?


「えーと…すらっとしてて、色白で、優しくて、紳士で、穏やかで、お酒はあまり飲まなくて、私の嫌なことをしなくって…………滅多に叱らないんだけど、間違ってたら叱ってくれて……あっ、一見、弱くて頼りなさそうなんだけど、本当は凄く強くって、笑顔が素敵で、黒髪で……」

 言ってる途中で気がつけば1人の人物を想像していた。


 そこまで言うと、メルがはぁ〜っと嘆息した。

「お嬢様、それは、無理です。諦めてください」

 メルの言葉に私はちょっとむっとする。


「わかってるもんっ」

 と、私は頬を染めてぷくっと子供のように拗ねて顔を背けた。


 そのやりとりにダニエルは怪訝そうな顔をして、おそるおそる私に聞いてきた。

「なんだ、今の?やたら具体的じゃ無かったか?ハニーは好きなヤツが居るのか……?」


 ッハ!その手があったか!

 私は心の中でほくそ笑む。


 小さく照れた様にコクリと頷いて見せると、ダニエルは口をパクパクと言葉を失う。


 これで、これできっと諦めてくれるわ!



 しかし予想に反して、ダニエルは諦めなかった。

 ぶんぶんと首を振ると反撃に出た。


「い、いや!俺は諦めないぞ!今メルが、そいつの事は諦めろと言ったのを俺は聞いた!つまりそいつには相手がいるか、身分が釣り合わないかの2択だな?!」


 〜〜〜〜〜〜!!

 なんでこういう時に限ってそんなに勘が良いのよ!!


 ムッと唇を噛み締めて真っ赤になって下を向いていると、追い打ちのようにメルがサラッと暴露した。


「いえ、そもそも兄妹で結婚は無理ですから」

「メルッ!!」

 ガタッと思わず私は立ち上がった。


「兄妹?」

 と目を見開いたのはダニエル。


 暫くすると、くっくっくっくと堪える様に正面から笑いが漏れてくる。

「兄妹……ぶ、ぶらこん………ぶふっ!」


 くあぁああぁぁ!!

 この男のこういう所が嫌なのよ!!


「メルのバカッ!黙ってれば諦めたかも知れないのに!!」

 と、半ば八つ当たりでメルに怒鳴りつける。


「あっ!!」と顔を青くして「す、すみませぇん」と泣きそうな顔でメルは謝ってきた。


「いやっいやっ!俺それくらいで諦めねぇから!気にすんなメル。しかしそうかアニキが理想か!よしわかった。俺はこれからそれを目指すぞ!取りあえず髪を黒く染める所からはじめっか!」


 がははははと笑うダニエルを見て、再び私とメルは頭を抱えた。



 =====



 翌日。

 再びバザーへ赴くと、魔法関連のお店へ足を運んだ。

 驚いたことにイスクリスに限らず、ベルンでは割と魔法が盛んだということが判明した。


 イスクリスの商品か?と聞けば、

「いいや、これは隣の国のー」とか

「こっちは西の方のーー」とか

 いろんな地名が返ってきた。


 地域ごとによっても特化した魔法があるらしいんだけど、それでもイスクリスは全ての魔法の研究が非常に盛んで、魔法を学びたいならイスクリスに行ってまず間違いは無いらしい。


 問題はその旅程だった。

 話を聞けば、イスクリスまではほぼひと月かかるそうだ。

 安全なルートは直ぐに南東へ進まずに、一度東か南へ下るのが良いらしい。


 というのも、ケザスから直接南東へ行くと、忘却の砂漠と呼ばれる広大な砂漠に突き当たってしまうらしい。


 素人では越えるのが至難の砂漠を通って行くより、迂回するルートの方が安全だと現地に人に勧められた。


 旅程もほぼ確定し、店を出た途端

「ハニー、あまり離れないで、この辺は人が多いからすぐに逸れてしまうよ」

 と、どさくさに紛れてダニエルが私の腰を引く。

 私はその手をバシッと叩いて振り払い、

「メルがちゃんと付いてるから大丈夫よ」

 とニッコリ笑って返した。


 一体どこまで本気なのかサッパリ判らないけど、今朝起きてメルと一緒に朝食をとっていると、少し遅れて頭を黒に染め、無精髭を全部剃って身なりを整えた状態で、昨日の宣言通り、紳士風にダニエルはやって来たのだ。


 私とメルはあんぐりと口を開けて彼を見上げていると、席についた彼の開口一番は「おはようハニー。今日の服とても似合ってるね」だった。


 穏やかに微笑みながらさも優雅に朝食を取ろうとする様は、一見立派な紳士だったのだけどやはりと言うべきか、付け焼き刃では所々ボロが出ていた。



 まぁ、当人が努力しようとしているなら止める必要も無いんだけど。

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