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ウイニー王国のワガママ姫  作者: みすみ蓮華
2章 それぞれの事情
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ナンパと旅行記 3

 =====



 それから2日間、あの男と顔を度々合せる事になった。

 というのも、あの男がどういうわけか絡んでくるのである。


 甲板で景色を楽しんでいると、

「よぉ!いい天気だな!」

 と馴れ馴れしく声をかけ、


 食堂で食事をしていると、

「よぉ!随分旨そうなもん食ってんだなぁ!」

 と、勝手に何処かから椅子を持ってきて同じ席に座る。


 2日目の昼にとうとう私はブチ切れた。


「あなたねぇ!一体なんのつもりで私に声を掛けて来るの?!ほっといて欲しいんだけど!」

 私が男を見上げ怒鳴りつけると、男は目を瞠ってから豪快に笑いながら私の頭をポンポンと叩く。


 か、完全に子供扱いされてる……!

 舐められてるわ!!


「まぁまぁ、そう怒んなって!嬢ちゃんに興味があるんだよ。そんなちっこいのに、なんであんなに強いのかってな」

 男は焼けた色黒の肌に似合わない真っ白な歯をニカッと覗かせ笑って見せる。


「ちっこいって言わないで!好きで小さいわけじゃないわ!大体あなたレディに対して失礼よ!」

「お?」っと、男はますます面白そうに笑って私の背中を叩く。


「すまんすまん!嬢ちゃんもいっぱしの女の子なんだな!小さいのは気にすんな!成長期入ればデカくなるさ!あんた絶対美人になるぜ!」


 くあぁぁぁぁあああ!!!

 悪気がないのは判ってる。判っているけどいちいち腹が立つ!!


 私は真っ赤になりながら、またまた涙目になって、とうとう男の股間を蹴り上げた。


「っっっっっっ〜〜〜〜〜〜!!!」

 男は前のめりになって、声も出さずにその場に倒れこんだ。


「貴方、ほんっっっっっっとうに失礼ね!私はこれでも16よ!!」


 フンッ!と踵を返して、泣きながら部屋に帰る。

 ぼふん!とベッドにうつ伏せになりマクラを抱えて居ると船に慣れ始めたのか、だいぶ顔色が良くなってきていたメルが心配そうに私を覗き込んだ。


「お嬢様、またアイツになにか言われたんですか?やっぱりボク付いていた方がいい気がするんですが」

 少し腫れた目尻を隠すように、チラッと横目でメルを見る。


 それでもメルはソレに気がついて、濡れたタオルを用意してくれた。

 私はゆっくり起き上がって、目元を冷やす。


「メル…私ってそんなに子供に見える?そりゃぁ背は小さいけど、そこまで童顔ってわけじゃないと思うんだけど…」

 私がそう言うと、メルは難しい顔をして眉間にしわを寄せた。


「お嬢様は背さえ伸びればかなり美人だと思いますよ?」

 真剣に言うメルに思わずくすりと笑ってしまった。


「本当ですって!王子やアベル様と並べば絵になります!」

 そこでその2人を引き合いに出してくるのがメルらしいけど、それはちょっとどうなのかしら。


「信じてないとかそういうことじゃないのよ?ただ、メルの方が綺麗なのに説得力ないなって思っただけよ。少し贔屓目な気がするわ」

 私の言葉にメルはむっとする。


「……分りました。ボクが正しいと証明して見せましょう!小間使いの威信にかけて!」

 んん??どういうことかしら?

 首を傾げていると、メルはフフンと少々嫌な笑みを浮かべて私を見下ろした。


 屋敷に居る時はこんな顔した事無かったのに。

 なんかメル変わったかしら?背が伸びた所為とか?


 と考えている私の心を知ってかしらずか、メルはビシッと宣言した。


「今晩の夕飯が勝負です!お嬢様!後悔しても遅いですからね!」

 とだけ言うと、わはははははははは!と見たこともない笑い声を上げながら甲板を飛び出して行った。


「船酔いでおかしくなっちゃったのかしら…」



 =====




 すっかり毎日の楽しみとなった夕日を見た後、再び客室へ戻ってくると、腰に手を当て「ふっふっふー」と笑いながら、燕尾服を着たメルが出迎えた。


「メル?さっきっからなんだか怖いわよ?」

 私は思わず少し怯んで後ろに下がる。危うく部屋を出そうになった。


「逃がしませんよ?お嬢様。ボク、一度でいいからお嬢様をコーディネートしてみたかったんですよね。一式揃えたのでまずは着替えて下さい」


 コーディネート?と首を捻ると、メルは私にワインレッドのマーメイドドレスを渡してきた。

 ドレスグローブはドレスよりも少しだけ濃い色のものを渡された。

 訝しげに着替えると、今度はそこに座れと言わんばかりに、化粧台の前に座らせられる。


「いきます」

 と、メルは何やらいろんな化粧道具を手に構える。

 ドレスもだけど、一体どこから用意してきたのか。


 あれよあれよとメルにされるがまま、ディナーの支度が整った。

 ご丁寧にカールのかかったウィッグまで着けさせられて、私の髪は断髪する前の長さの腰丈まで伸びていた。

 それをレースのついた赤い花飾りで器用にまとめ上げて、私の肩から流すようにメルは仕上げた。


「どうです?どこからどう見ても完璧な淑女です!」

 えっへん!とメルは頬を染めながら胸を張った。

 鏡の前の私は確かに完璧なのかもしれない。が……


「メル…確かにすごいけど、これは私じゃないわ。メルの腕がいいのと化粧のせいよ。別人じゃない。う、それにやっぱり立つと…変だわ……」

 ガックリと私は肩を落とす。

 背丈の所為で、どうしてもアンバランスに見えてしまうのだ。

 洋服屋のサンプル人形ってこんな気分なのかしら。


「何言ってるんですか!全然おかしくないですよ!お綺麗です!!それにもとが良いからここまで化粧のしがいがあるんです!」

 メルがそう言って憤慨する。

 ううう。でもやっぱり背とのバランスが……


「さ、行きますよ!絶対みんな声かけてきますから!」

 別に声をかけられたい訳ではないんだけど…

 行きたくないなぁ〜と、項垂れる私の手を引いてメルは意気揚々と食堂へ向かった。

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