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ワガママ姫とイジワル殿下 6

 そんな兄の動揺を知ってか知らずか、

 コルネリアは「私で宜しければ是非」と、恥ずかしそうに応えた。

 お兄様の目尻に感動の色が見える。


 私は、その空気をブチ破るように、パンッ!と両手を叩き、

「結構!」と喝を入れた。


 レイが呆れた顔で、

「お前、少しは空気読めよ…」と、言ってきたが無視する。


「コルネリア様」

 と、私はコルネリアに向き直り声を掛ける。

 すると彼女は、慌てて「はいっ」と応えた。


「お父様は今日ご一緒に?」

「あ、はい。父も一緒に来ています」


 その答えを聞いて、顎に手を当て思案していると、

 3人が不安そうに此方の様子を観察してくるのが判った。

 暫くして、多分大丈夫だろう。と自問自答に小さく頷き、

 にっこり微笑んでコルネリアに問いかける。


「お父様は今どちらにおいでか、お判りになります?」

「えっと…ビュッフェの方に…右手前のテーブルでお酒を飲んでいる、あの赤茶けた髪の体格がいい人が父です」


 ダンス会場の手前の部屋は、立食式の安易食堂になっている。

 バルコニーと食堂は離れているものの、

 食事と歓談を楽しむ人の姿はここからも見て取れる。


 コルネリアが指差した方向をみると、確かにコルネリアによく似た、

 白髪交じりで赤銅色の髪をした中年と思しき紳士が確認出来た。


「おい…何を考えている?」

 レイが訝しんで聞いてくるが、やはり無視する。


「3人とも、暫く此方で待っていて貰えます?」

 これまたにっこり笑顔で告げると、

 返事も聞かずにリヴェル侯爵の方へツカツカと向う。


 私の予想が正しければ、侯爵の方から声を掛けてくるはずだ。

 素知らぬ振りをして、侯爵の横にあるテーブルの上からオードブルを適当に選ぶ。

 食事を口に運び、給仕に声を掛け適当にドリンクを頼むと、

 案の定、驚いた顔をしたリヴェル侯爵が私に声を掛けてきた。


 暫く歓談し、一曲だけダンスを踊ると挨拶をしてその場を離れる。

 侯爵に気づかれない様に遠回りをしてバルコニーに戻ると、

 ぽかーんとした顔で3人が出迎えた。


「レティ?一体、閣下と何を話して…」

 恐る恐るお兄様が尋ねてきたので、

「別に?他愛もない世間話ですわ。」

 ふふんっと意地悪く微笑を浮かべて答えた。


「お父様が女性とダンスをなさるなんて…始めて見ました」

 信じられないものを見たといった感じで、コルネリアは呟いた。


「コルネリア様」

 再びコルネリアに向き直り、

「こんな頼りない兄ですが、私にとってはただ1人の兄です。どうか兄のことをよろしくお願いします」

 と言い、私は頭を深々と下げる。


 そんな私を見て、3人はますます目を見開き驚いてみせた。

 特に男2人は普段の私を知っている分、空耳では無いかと疑っているのが判る。


 コルネリアは慌てて、

「私の方こそ、田舎育ちで至らない処が多いと思いますが、よろしくお願いします」

 と、挨拶をした。


「明日は槍が降ってくるぞ…」なんてレイがポツリと言うと、

 ウンウンとお兄様が思いきり同意した。

 何と言われようと今は構わない。


「そうそう、レイ。暫くコルネリア様に滞在して貰うよう引き止めてもらえないかしら?あ、侯爵様には帰ってもらって。そうねぇ…1週間は無理でも、2〜3日位なら可能なんじゃないかしら?」


 その言葉に「はぁ!?」とお兄様とレイがいうのは勿論想定済み。


「私の事をカワイイなんてお世辞が言える位なんだから、女性に気があるフリをするのは得意でしょう?城や城下を案内したいとか何とか言って侯爵に取り次いで下さいな」

 満面の笑みでレイに言う。


「お前は俺の事を一体何だと思ってるんだ?」

「便利屋」

 即答するとピクっと眉尻が反応したのが判った。


「お断りだ。親友の恋人ナンパする馬鹿が何処にいる?下手に話が進んだら取り返しがつかないじゃないか」

 それはない。とレイに首を振って見せる。

「あら?そんな事言って、後悔するんじゃないかしら?」

 自信たっぷりに私がいうと、レイは怪訝な顔を私にむける。


「だって、お兄様に協力した理由って、親友の恋愛を応援したい何ていう単純なものじゃないよね?自分の恋愛にも無頓着なレイが興味本位だけで、人の恋路に首を突っ込むとは到底思えないもの」

 ニヤリとレイを見据える。


「そうなのか?」とお兄様は解っていない風にレイと私を交互に見る。

 お兄様のこういう所は微笑ましいなと思う反面、

 国王にも外交官にも向いてないなぁと内心苦笑する。


「お兄様、レイは例えお兄様がコルネリア様にフラれたとしても、次は自分が口説けば良いと考える筈よ」

 視線はレイに向けたままお兄様に語りかける。

 目は笑わずに口元だけ笑って見せる。


 その意図を理解したレイは、

「なにを…」と絶句する。

 よくみると首筋につぅーっと汗が垂れるのが見える。


 私の推測が正しければ、レイはこれを機に、

 お母様の件で生まれた、

 リヴェル侯爵と父王,ビセット家の遺恨をなんとかしたいと考えている筈だ。


 という事は、レイにしてみればお兄様とコルネリアがうまく行かなくても、

 最悪自分と結婚出来れば、それで丸く収まる事になる。

 …当人が本当にそこまで考えているかは別として。


「お前は俺とアベルの仲を破滅させる気か!?」

 頭を抱え、レイが青い顔で悲鳴を上げる。

 対して私は涼しい顔で答えた。


「あら?間違った事は言ってない筈ですわ。まぁ、今の時点で貴方がそこまで考えているとは思えませんが…レイにとっても協力した方が良いと思いますの」

 それを聞いて、ただでさえ青かったレイの顔がますます青くなる。


「恐い……お前の妹恐いよ!!」

 もうなんだか正気でいられないと言った感じの悲鳴を上げる。

 少し脅かしすぎたかしら。


 未だに私とレイのやり取りの意図が見えていないお兄様は怪訝そうな顔で、

「まさか…殿下もマリーの事が…?」

 なんて的外れな事を言い出す。


「違うっ!断じてないっ!判った!わかったから!協力すればいいんだろ?!」

 だからこいつに言いたくなかったんだ…

 と言いながら、バルコニーにへなへなとうな垂れてしまった。


「結構。コルネリア様が滞在中はお兄様がお相手なさるといいと思うわ。レイと噂になってもしょうがないし」


 私の中で作戦は固まりつつある。後は3人に気取られない様に進めるだけだ。


「大丈夫大丈夫。悪い様にはしないわ。す・べ・て!上手く行くって」

 ふふんっと笑う私の前で、お兄様とレイは頭を抱えて大きな溜息を吐き出した。

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