表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウイニー王国のワガママ姫  作者: みすみ蓮華
2章 それぞれの事情
65/245

名も無き森 5【フィオ編】

 =====



 時刻は日の高さで見ると、おそらく既に午前10時を回っていた。

 森の中を西に進みながら、僕は先程のやり取りを思い出していた。


 ーーちょろい…あまりにもちょろ過ぎる…


 兄上があまりにも単純すぎて、別の意味で計画に支障が出るのではないか?とか、もしかして裏の裏のさらに裏をかいたとかそんな高度なテクニックを使ったのか?とか、僕は頭を悩ませていた。


 まず始めに僕は「南」に進んだのではないか?と言った。

 この時点で兄上が「南」を選ぶことはまず無くなった。


 もし仮にゲイリーが「南」と断言していたならば、兄上は裏をかいて南へ進むか、南を切り捨て東西のどちらかを選ぶ事になる。


 僕とゲイリーがハッタリで口を揃えて「南」と答えていたと想定すると、あまりにも無謀な賭けになってしまう。

 慎重な僕がそこまでのリスクを負うはずがない。と兄上の思考なら判断するだろう。


 逆に誘導するために「南」と口を揃えたと仮定すれば、あからさま過ぎてお粗末な作戦だ。

 これはこれで、腹黒い僕らしくないと兄上は思うだろう。


 つまり、僕が最初に示した方角は、まず間違いなく何も無い可能性の方が高いと判断されるはずなのだ。


 そしてゲイリーは「西」と答えた。


 こうなると方角を誘導しようとしているこちらの思考を考察すると、「東」が怪しいと言っているようなものだ。

 裏をかこうとすれば「西」が怪しくなる。


 とにかく「南」さえ消去してしまえば兄上は動きやすくなるし、僕も動かしやすくなる。


 怪しいと思わせぶりの発言をすれば、素直に進む場合は「東」を選ぶだろう。


 しかし、兄上はここでまた僕の思考を考察するはずだ。


 果たして本当に東が怪しいのだろうか?と。

 腹黒い弟があからさまに、そちらの方向に行かせない様に誘導するだろうか?

 答えは否だと判断する筈だ。


 そうなると必然的に「西」を選ぶことになる。

 仮にこのまま「西」へ進んで何もなくとも、こっそり後でキツネ(・・・)を「東」へ偵察に出すだろう。


 僕の狙いはそこにあった。

 西へ進んで、後々東を探らせれば、ダミーの第2地区と第3地区がある。

 逆に、東へそのまま進んでダミー地区を発見しても、こちらの思い通りになっただろう。


 ーー本陣のある第5地区は第1地区から遥か南西にある。

 通常(・・)の進軍では決して容易に辿り着けない場所にあるが、対策を練れば無理ではないだろう。

 まぁ、着々と順調に進んだとしても一日で着くような場所にはないのだけど。


 どちらにしても、とにかく西が怪しいとさえ思わせなければ良い。

 東で何らかの痕跡が見つかればそちらに気を取られるからだ。

 最初に選んだのが「西」で、何も発見できなかったならば尚更信じこむだろう。


 生きて帰れて、尚且つまだ東へ偵察させる気力が残っていればの話だが。



「じめっとするな…」

 先頭を行く兄上がポツリとぼやく。

 僕は我に返り、ニッコリ答える。


「それはそうですよ。森と言っても湿地帯に近いですし。兄上、進むのは良いんですが往復の時間も考えて下さいね?野宿は絶望的ですから」

「わかっている。時計は持ってきている」

 憮然として兄上は答える。


「そうですか。良かったです。僕、時計は彼女にあげちゃいましたから、今ないんですよ」

 と頬を染めて照れながら兄上に言うと、兄上はげんなりして肩を落とす。


 僕の言葉に驚いたのはゲイリーで、こっそり僕に耳打ちした。

「殿下、まさかその"彼女"…って本気で言ってるんですか?てっきりハッタリかましているのかと思っていたんですが?」


 僕はゲイリーににっこり笑う。

「夢想の懐中時計を彼女にあげました。僕は帽子を頂いて…まぁ、正確には、お互い再会出来るように預けたんですが」

 ぽりぽりと赤く染まった頬を掻いて僕が照れていると、ゲイリーは唖然として目を見開いた。


「夢想の懐中時計をあげたって!貴方は一体なにを考えているんですか!この世に二つと無い大事なものだってわかっているでしょう!」

 ゲイリーは周囲も憚らず、大きな声で怒鳴った。


 ゲイリーの言葉に兄上も目をひん剥いた。

「おまえ……よりによってあの懐中時計をあげたのか?!あれがどんな意味を持つか位、知ってるだろうが!」


 僕は顔の中央にしわを寄せ、目をギュっと瞑ると耳を塞いだ。

「あー。2人ともうるさいです。そんなに怒鳴ったらモンスターさんが出てきちゃいますよ。それに懐中時計は正確には預けたんです。そのうち返してもらいます」


「そのうちじゃいけません!」

「そのうちじゃ駄目だろ!」


「おぉ〜。息ピッタリですね」

 と僕が2人に拍手を送ると、2人同時に頭を抱えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ