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ウイニー王国のワガママ姫  作者: みすみ蓮華
2章 それぞれの事情
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名も無き森 2【フィオ編】

「…貴方の事ですから、どうせいっそ監禁でもしておいた方いいんじゃないかとか思ったんでしょうが、雪狐せっこが黙っていませんよ」

 冷ややかな目でゲイリーは僕を見た。


 雪狐とはリオネスが管理している『雪狐せっこ騎士団』の事だ。

 兄王の『鯨波騎士団』僕の『夢想騎士団』に比べて白兵戦を得意とする騎士団だ。

 兵士の数も3騎士団の中では雪狐が1番多い。


「だが、計画に兄上(・・)は必要不可欠だ。流石に今の段階で監禁までは考えていないが、兄上(・・)が何か行動を起こしてからでは遅い」


 僕は苛立たしげに手を組むと、顔を顰めて部屋の扉を見据える。

 開拓自体は最終段階に差し掛かろうとしている。

 5年の歳月で奇跡的な速度だと言える。

 このまま話を進めても良いのだが、どうしても"兄上の真意"で引っかかってしまうのだ。


「やはり監禁は考えておられるのですね。私は賛同しかねます。下手に手を出せばこちらの計画が台無しになる。かと言ってこちらから切り捨てるにしても時期尚早です。焦る気持ちも解りますが、もう少し慎重に対処なさって下さい」

 ゲイリーはズケズケと悪びれもせずハッキリ言った。


 この男のこういう所は信頼に値すると思う。

 ゲイリーが僕を信頼してくれているかは判らないけど。


 ふーっと僕は嘆息すると、諦めてゲイリーに言った。

「もういいです。僕も少し思慮に欠けていました。貴方の意見は心に留めておきます」



 =====



 それから半刻、城から呼び出した宰相がやってきた。

「殿下。遅れましてすみません」


 宰相ホルガー・ヤネスはリン・プ・リエンの南西部に住んでいた没落貴族の子孫だ。

 青みがかった灰色の髪に赤い瞳、歳は23で、

 開拓地には一般公募でやって来てまだ2年しかたっていないが、飲み込みが早く数字に関する頭の回転がとても早いので宰相に任命した。

 信頼も十分における人物の1人だ。


「いえ、僕の方こそ忙しいのにここまで呼び出してしまって。早速ですが時間が無いのでサッサと話を進めましょう」

 僕は机の上に、各地区の記してある地図を広げると指を指しながら説明を始めた。


「呼び出した理由は2つあります。1つは僕が拾ってきた犬型の半獣族の件です。彼らは今現在、第22地区にいるとの事ですが、ある程度分散して、ダミー地区を除く各地区に数名は在中するように配置したいです。それと第5地区付近に、彼ら中心の集落を作っても問題ないか調べて下さい」

 ホルガーは神妙に頷いてみたものの、ゲイリー同様新参者の優遇に首を捻っている。


「殿下、そろそろ理由を教えて頂けませんか?」

 ゲイリーが痺れを切らして質問を投げかける。


「ゲイリーはせっかちですね。僕が言えた義理では無いですが、そんな事では女性に逃げられてしまいますよ?」

 さっきの仕返しとばかりに僕はニッコリとゲイリーに言葉を返す。


 しかしそこは流石ゲイリーと言うべきか、

「殿下は遠回し過ぎて女性に気付かれませんよ?」

 としれっと返されてしまった。


 僕が今一番痛い所なのに…。

 ゲイリーは騎士団長より宰相の方が天職なんじゃないか?


 恨めしい目でゲイリーを一瞥すると、気を取り直して話を進める。


「……理由は2つあります。1つは彼らの能力です。キチンと確認を取っていないので確定ではありませんが、彼らはおそらくモンスターを操ることが出来ます。それが特定の種なのか全てのモンスターなのかは判りません。2つ目は彼らは非常に義理堅い所がある。彼らの信頼を得ることが出来れば、間違いなく強力な戦力になるでしょう」


 盗賊だった彼らに出会った時、彼らはまず初めにモンスターを仕掛けてきた。

 茂みにモンスターがたまたま彼らと別で居合わせたとは、状況から言って考えにくい。

 彼らが命令を出していたと断定する。


 2つめの理由の根拠は、絶望的な状況でも仲間を見捨てずに、立ち向かう勇気を持っていた所だ。

 彼らをキチンと育て上げれば、間違いなく優秀な兵士になるだろう。


「モンスターを操る能力、ですか。もしそれが本当ならば、他の半獣族も、なにかしらの能力があるかもしれませんね。義理堅いたちならばこれ程の戦力はありませんね。少数でも行けるかもしれない」

 ゲイリーは育て甲斐のありそうな人材に、心なしか目を輝かせているように見えた。


「確認はちゃんと取って下さいね。後、彼らにはキチンと説明した上で地区を移動してもらって下さい。あらぬ誤解を受けてしまっては、協力は見込まれないでしょう。彼らはウイニーで差別を受けていたらしいですから」


 僕がそう言うと、

「判りました。彼らの待遇には少し気を使いましょう」

 と、今度はホルガーが神妙に頷き返事をした。


 うむ。と僕はホルガーに頷いて見せる。

 彼も故郷では苦労したらしいので、半獣族を無碍に扱う事はないだろう。


「彼らの件はホルガーとゲイリーに一任します。では次に移りましょう」

 僕はそう言うと命令書を1枚取り出し、ゲイリーに渡す。


「今の件にも関わることです。くだんの半獣族のように虐げられている民族が他にも居ないか調べてください。国内、国外問いません。受け入れるかどうかはまだ決めずに、情報収集を騎士団で行って下さい」

「承知しました」

 ゲイリーが頷くのを確認すると、僕はニッコリ微笑んでパシッと両手を叩いた。


「忙しくなりますね。当分は僕もこちらに居ますから、何かあれば報告を。以上です。あ、ホルガーは兄上に見つからないうちに、寄り道せずにとっとと帰って下さいね?」


 僕がそう言うとホルガーは苦笑して頷き、ゲイリーは「人使いの荒い主人だ」とボヤきながら二人は退出したのだった。

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