レディとプリンセスの狭間で 2
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ザックは私の部屋に入ると、物珍しそうにキョロキョロと部屋を見渡した。
暫くするとメルがお茶とお菓子を持ってきたので、3人でお茶にする事にした。
お茶もお菓子も初めてだったのか、ザックは目を輝かせながら豪快にお茶とお菓子を平らげた。
「美味しい?」
と私が聞くと、ザックは千切れそうになるくらい大きく尻尾をブンブン振った。
「うまい!兄者や弟たちに食べさせてやりたいぞ!」
「じゃあ、お土産に幾つか持って行くといいわ。メル。お願い」
メルはこっくり頷くと、部屋から出て行き厨房の方へ向かった。
「いいのか?!悪いな!おま…っとと、ひ、姫には世話になり通しだ!」
姫って…と私は苦笑する。
クロエがそう呼んでたのを覚えてたのかしら?
「レティでいいわよ。無理に慣れない言葉は使わなくていいわ。それより、どうしてここに?私に何かご用があるのよね?」
ザックは慌てて「そ、そうだそうだ!」と、ズボンのポケットから1通の手紙を取り出した。
「アイツ…じゃない、アノカタから手紙を預かって来たぞ」
ザックから受け取った手紙には、表面に【親愛なるレティへ】と書かれていた。
ひっくり返してみると、差出人の名前は書かれていなかった。
訝しんで封を開けると、深緑の様な香りがする変わった香料が付いた便箋が出てきた。
文面を読まずに手紙をペラペラとめくり、一番最後のページに差出人の名前を確認した。
「テディ!」
嬉しくなってもう一度ザックに顔を向けると、ザックは居心地が悪そうにポリポリと頬を掻いて宙を仰いだ。
「ありがとうザック!テディは貴方の所に居るのね?」
「う、どちらかと言うと、俺達がアイツの所で世話になってるぞ。お前がくれた金のおかげで、俺達の村も作れたんだ」
「村?!」
あのお金がそこまでの役に立っているとは思っていなかった。
まさか村を作れるなんて。
じわっと思わず目頭が熱くなる。
思わずポロリと涙を流すと、ザックがギョッと慌てた。
「お、おい?!何で泣くんだ?!俺様、なんかしたか?」
オロオロとザックが右往左往し始めたので、「違うよ」と私は首を横に振りながら小さく呟いた。
「嬉しいの。私でも役に立つことが出来たかしら?」
目尻を赤くしてザックに問うと、ザックはホッとした様子で真面目に答えてくれた。
「お前が、レティが居なかったら、俺達は死んでた、道、踏み外したままだった。俺達を救ってくれたのはレティだぞ。今度は俺様がお前に恩返ししてやる」
ありがとう。と私が言うと、ザックはまた落ち着かない様子でそわそわしながら「お、おう」と返事をした。
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テディの手紙の内容はこうだった。
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親愛なるレティへ
お元気ですか?僕は今、故郷のリン・プ・リエンでこの間出会った盗賊さん達と一緒に村を作っています。
あの後故郷に戻ると、盗賊達さん以外にも国を追われた半獣人族さん達がいっぱい集まって来て、僕は彼らを受け入れる仕事で当分の間、この地を離れられなくなってしまいました。
近いうちにと思っていたのですが、暫くはレティとの約束を果たすことが出来なさそうでとても残念です。
レティは今、何をしていますか?
お返事待ってます。
ーー再会を願って テディ
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テディの故郷って…多分、自分の領地に難民が溢れちゃったって事かしら?
ザックもテディにお世話になってるって言ってたしそういうことよね?
なんだかとんでもない事になっちゃったみたいね。
私に出来ることがあればいいのだけど…
お土産用のお菓子を包んで用意してきたメルが部屋に戻ってくると、
私は暫く、ジッと2人を見つめながら思案した。
「お嬢様?どうかしたんですか?」
メルがキョトンとお茶を飲みながら私を見つめる。
ザックもクッキーを頬張りながら、私をジーッと見つめていた。
「私のお友達が、今凄くお仕事大変なんですって。何か手伝える事ないのかしら?」
「はぁ、お仕事の内容にもよるかと思いますが…」
「そう言えばアイツ、薬が足りない、医者が足りない、言ってたな」
ザックはもぐもぐと口いっぱいに頬張ったまま話しかけてきた。
「ザック、お行儀悪いわ。食べ終わってからお話しして。…でも、お医者様か、うーん」
ウイニーでもお医者様はそんなに一杯居る訳では無い。
ましてや他国に派遣するとなると私の力ではどうしよもない気がする。
そもそもテディがリン・プ・リエンの何処に住んでてどの爵位なのかもわからない。
クロエかお兄様に聞けば判るのだろうけど、2人とも教えてくれる気はなさそうだったし…
「お医者様はきっと流石に無理だわ。薬…も無理ね。買い付けようにも許可がいるもの。…役に立てなくてごめんなさい」
シュンとしてうな垂れると、ザックは慌てて、
「いやっ!お前は良くやってくれてる!気にすんな!俺達の問題だ!それよりアイツに返事書いてやれ?アイツ、きっと喜ぶぞ!」
と身振り手振りで励ましてくれた。
「そう…そうね!お返事書くわ。ただ、今日はもう遅いから明日渡すわ。メル。ザックを客室に案内してあげて」
私がそう言うと、ザックもメルもギョッとする。
「お、お嬢様!流石にそれは…」
「お、オレサマは、その辺の原っぱで寝るからいいぞ!」
2人の静止を無視し、もう一度メルに命令する。
「ダメよ。手紙を届けた時点でザックは使者よ。丁重に扱いなさい。相手への無礼になるわ。客室に案内を」
メルは狼狽えながらも、
「わかりました」と返事をし、客室の準備を始めた。
ザックは今までに受けたことのない待遇に、只々戸惑うばかりだった。




