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ワガママ同盟 5

「「!?」」


 前方の崖上から、野党の格好をしたリヴェル兵が飛び出す。

「おのれっ!」と前方の兵士たちがリヴェル兵にむかって抜刀する。


 テディは素早く馬車の下から、

 剣を取り出し襲いかかってくる兵に当身をして行く。

 こちらはあくまで、襲いかかってくる兵のみを相手にする事にしている。

 全て当身という制限付きで。


 それでもリヴェル兵やテディはあっという間に掌握していく。

 人数が違いすぎるせいもある。


「ダニエルッ!!」

 とテディが叫んだ。次の合図だ。


 私は後方に向かおうと馬を翻すお兄様を確認すると、

 前方の馬車の荷台に向かって矢を放つ。

 矢の先には小さな煙玉を仕込んである。

 矢が刺さった衝撃で煙が出るようになっているのだ。


「!!」

 あたりが煙に包まれると、驚いて馬が暴れ出す。兵たちは急いで馬を宥める。


「落ち着け!陣を取れ!隊形を絶対に崩すな!」

 お兄様の声が渓谷に響き渡る。視界はあっという間に見えなくなったが

 私の位置からは後方のリヴェル兵が馬車の逃げ道を無くすように立ち塞がったのが確認できた。


 弓をその場に投げ捨てて、

「行きます」と、侯爵に声をかけながら、

 クロエに視線を再び送ると、私は後方の馬車の荷台に飛び移った。


 黒いマントを翻し、頭には黒いボンブルグハット、

 顔には舞踏会用の赤い仮面を着けていて、かなり目立つ格好で着地する。

 因みに侯爵もクロエも同じ格好で仮面の色だけがちがう。

 クロエは紫の仮面、公爵は黒の仮面だ。


「おい?!上に何か…」

 兵士の1人が私に気がついたが、すかさずクロエが岩陰から飛び出し、

 兵士の鳩尾みぞおちめがけ柄を突き上げる。

 それに気がついた1人が刀を振り下ろそうとしたが、

 足を取るクロエが一歩早かった。


「どうした!?」と反対側の兵も騒然とする。

 その声を聞いて後ろからも歩兵が集まってきた。

「っぐ…」と唸るような兵の声が、私の後ろから聞こえた。

 侯爵も飛び出し、兵を相手に当身を当てているのがわかった。


 クロエが後方の兵の方へ向かったところで

 私は荷台から飛び降り、ショートソードを取り出すと、

 剣の柄を使って窓ガラスを割り、内鍵をあけた。

「きゃあぁ!!」と女性の悲鳴が響く。

 中には侍女と抱き合ったコルネリアが居た。

 間者の情報は間違っていなかった。


「抵抗するな!死にたくなければ大人しくついてこい!」

 ショートソードの切っ先をコルネリアの首に突きつけ、

 できる限り低い声を意識してお腹から声を出す。

 侍女が抵抗しないように注意をしつつ、コルネリアの手首を引いて外に連れ出した。


 煙はまだ消えていないが大分薄くなってきていた。

「お頭ァ!居ました!」

「マリー?!」

 お兄様の慌てる声が前方から聞こえる。

 だいぶ近い距離に居るようで、それらしい影も確認できた。


 コルネリアを連れて侯爵の方に駆け寄る。

 侯爵は馬車の西側前方に居た。

 そのにいたはずの兵は既に侯爵がのしていた後だった。

 私の声を聞いたクロエも、こちらに向かって走ってくるのがわかった。


「まったく、多少持ちこたえるかと思ったが…訓練メニューを変えないとダメだな。全員減俸だ」

 と私の横に駆け寄ってきたクロエが、不機嫌そうにぼそりと愚痴をこぼした。

 仮面越しでも眉間にシワが寄っているのが雰囲気で感じられ、私は思わず苦笑する。


「人質の命が惜しければ全員動くな!!」

 侯爵の咆吼が渓谷に響き渡る。


 ジリジリと私たちはコルネリアを連れて馬車の前方、

 傾いた荷馬車がある場所まで移動する。

 煙を抜けると、黒いマントの仮面を付けた怪しい3人の姿があらわになる。


「お、とうさま…?」

 とコルネリアが呆気に取られたように声を出す。

 侯爵はその問いには答えずクルリとマントを翻し、剣を馬車に向かって突きつける。


 私はクロエにコルネリアを任せると、

 侯爵の隣に並んでたち、同じようにショートソードを突きつけた。

 テディはニコニコと楽しそうに荷馬車の上に座って傍観している。


「一番偉いやつは誰だ!前に出ろ!」

 煙はもう殆ど残っていないので、

 煙の中に居た兵からも、私たちの姿ははっきり見えていた。


「私が………レティアーナ…?」

 前に進み出たお兄様が私に気がつき、目を細くして私をまじまじと凝視する。


 その横に立っている人物と、

 すぐ後ろでコルネリアを羽交い締めにしているクロエにも目を向け、

 その存在を確認すると、お兄様は口をあんぐり開けて、

 顔はみるみるうちに青くなる。


「リヴェル辺境伯に……オットマン福隊長!?何故ここに?!一体何を?!」

 兄の後ろに居た兵達もその言葉を聞いて、目を大きく見開き、驚きの表情を見せる。


 自分のところの指令補佐と、これから令嬢を送るために訪問する筈だった、

 ダール領の責任者である侯爵、そして今回の護衛の責任者の妹。

 この奇妙な組み合わせの人達が、奇妙な格好で、何故か襲撃して来たという事実に、

 誰一人頭がついていけなかった。


「違う!わた……ととっ、オレタチは!」

「仮面紳士だ!」


 ぱぱーん!とファンファーレでもなりそうなポージングを、

 私と侯爵が背中合わせに剣を掲げ、ビシッと決める。

 クロエは少し恥ずかしそうに顔を背け、

 テディは「かっこいいです!」と拍手をした。


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