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ワガママ同盟 2

 =====



 黒い軍服に沢山の勲章を胸につけ、

 儀礼用サーベルを腰に携えたリヴェル侯爵は、

 妻の腰に手を添えながら、私に笑顔で握手を求めた。


「レティアーナ嬢!いや!驚いた!いずれ是非機会があればゆっくりお話をと思っていたが、このように早く機会が得られるとは!」

 がっしりとした侯爵の手を握り返すと、侯爵は嬉しそうに目を細めた。


「先日お会いしたばかりですのに、このような格好で突然の訪問、どうかお許しくださいませ」

 と私は丁寧にキャスケットを外し胸に抱え、会釈をした。


「いやいやいや!遠路はるばる女性が、しかもソフィア姫に瓜二つの娘さんに訪ねて貰えるのであれば、男冥利に尽きるというもの!よくぞいらっしゃった」


 彫りの深い強面にも関わらず、豪快に笑うその目には、自分の娘でも見るような慈愛が浮かんでいた。


「あらあら、ちょっぴり妬けてしまうわね。でも本当にソフィア様にそっくりで可愛らしいわ」


 薄いピンクがかった金髪が美しく、若々しい夫人は、

 侯爵の賛辞に嫌な顔一つせず、暖かみのある笑顔で、目を細めて私を見つめた。

 その顔立ちはコルネリアによく似ていた。


「妻のマリアンだ」と侯爵が夫人を紹介した。

「初めましてレティアーナ様、マリアンと申します。ソフィア様とは幼馴染だったのよ」

 ふふふ。と嬉しそうに夫人は笑う。


「初めまして奥様、レティアーナ・ビセットと申します。ワタクシ母の事をあまり良く知らないので、お話が聞けると嬉しいですわ」

 ええ、ええ勿論!と夫人は思わずギュッと私を抱きしめた。

 私もそれにギュッとして返す。


「お前…初対面なのに………ズルイな」

 と侯爵が恨めしそうにボソリと呟いた。


「護衛は…2人だけかね?クロエ、久しぶりだな。舞踏会では見かけなかったが変わりないか?」


 クロエは侯爵に会釈ををすると、

「殿下によくして頂いております。閣下もお元気そうで何よりです」

 と軽く挨拶をした。


 うむ。と侯爵は頷くと、テディの方に目をやる。

「君は……?」

 侯爵は目を細め、まじまじとテディを見ると、突然驚いたような顔をした。


「初めまして閣下。私はしがない武器商人のテディと申します。レティアーナ様のご好意でこうして一緒に連れてきて頂きました」

 ニッコリとテディは侯爵に挨拶をした。


 すると侯爵は、顎に手を当て、何か思案した後、

「ふむ。そうか。武器商人か…何もないところだがゆっくりして行くといい。歓迎しよう!」

 とテディの肩を叩きながら握手を交わした。


「色々伺いたいこともあるが、まずは部屋へ案内させよう。夕食までゆっくり旅の疲れを癒すといい」



 =====



 案内された客間には、既に私の荷物が運ばれていた。

 キャスケットとゴーグルをカバンにしまうと、早速侍女に湯浴みの用意を催促した。

 準備が整うまでの時間は当てがわれた客間で、

 侍女に呼ばれるまで、持ってきた旅行記を読みふけった。


 湯浴みを終え、客間に戻ると、ベッドの上にドレスが置いてあることに気がつく、

「あの、これ…」

 と侍女に尋ねると、コルネリアが昔使っていた物らしい。


 蜜柑色のレースがついた華やかなドレスで、

 胸と腰のところにリボンが付いており、サイズが調節出来るようになっていた。

 着付けと化粧を侍女にしてもらい、

 頭にはドレスと同じ色の花飾りを付けてもらった。

 ブレスレットと首飾り、ヒールまで用意されていて、


 突然の訪問なのにここまでしてもらって、

 なんだかとても申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


 クロエに連れられて晩餐の席に着くと、既にみんな集まっていた。

 私はテディの左横に座るとナプキンを手にとった。

 クロエはテディの右隣に座った。


「あの、ドレス一式…アクセサリーや靴まで用意してもらって、ありがとうございます」

 と侯爵と夫人にお礼を言った。


「気になさらないで。思った通りよくお似合いだわ。コルネリアのお下がりで申し訳ないわ」

 夫人が本当に申し訳なさそうに言うので、そんな!と私は慌てて首を横に振る。


「連絡もなしに突然訪ねてしまったのはワタクシですから、ほんとにごめんなさい」

 ぎゅっとナプキンを抑えて顔を俯ける。

 もっとちゃんと色々用意して来るべきだったのに…


「でもレティ、本当によく似合ってますよ」

 とテディがほんのり頬を染めて言ってくれた。

 テディも侯爵のものなのか、黒い礼服を着ている。


「ありがとう。テディも王子様みたいで似合ってるわ」と笑顔で答える。

 いやぁ…と照れながら、テディは軽く手を振った。


「本当は息子と娘も呼びたかったのだが、息子は今寄宿舎に通っていて、今日はこちらにはいないのだよ。娘もまだ、王都から帰って来ていないのでね…」


「それは残念ですわ」と返事を返す。

 勿論、コルネリアが帰ってきてないのは、私がそうさせた所為なのだけど。


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