水と油とワガママと 3
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キャンプを片付けると、西へ戻り、再び南の街道を目指す。
陣形は昨日と同じように、左前にクロエが、右後ろにテディが歩く形で進んだ。
地図を頻繁に確認し、目印を頼りに慎重に先に進む。
どこを見渡しても同じような木が生えるばかりで、
ちゃんとここから出れるのか。という不安が、徐々に大きくなってくる。
グッと手綱を握る手に力を入れると、
後ろからテディの声がメロディーを奏でている事に気がついた。
振り返ると、楽しそうに童歌を歌っている。
目が合うとにこっと笑顔を向けてくれた。
うっとりと、その歌声に耳を傾けながら前へ進むと、
私は自然と心に落ち着きを取り戻事が出来た。
もしかして、励ましてくれてるのかな?
昼食は馬上で軽くパンを食べる程度に済ませ、ひたすら先へ進む。
その甲斐あってか、夕方頃には森を抜け、街道へ出ることができた。
ここはもうリヴェル侯爵領土だ。
森の北側と違って、なだらかな丘が続いていた。遠くを見ると背の高い山が見える。
「東の一番奥にある山脈には、ドラゴンが住んでいるんですよ」
とテディが教えてくれた。
「じゃあ、あの先に竜の国があるのね?」
私が目を輝かせて聞くと、テディはにっこり頷いた。
竜の国はハイニア大陸で1番大きな国で、
難攻不落の山脈に囲まれていて竜の加護を受けた王国だ。
人の起源は全て竜の国にあって、あの国から人々は各地に冒険にでて、
様々な国を建国したと言われている。
ただ、どの国も国交はほとんど皆無で、
その実態を詳しく知る人は、殆どいないと言っていい。
その理由が、あの山脈とドラゴンという訳なんだけど…
「いつか行ってみたいわねぇ…ドラゴンを操る国王陛下に、是非お会いしてみたいわ」
思わずポツリと言葉をついた。
するとテディとクロエは驚いた顔で私を見た。
「「ドラゴンを操る?!」」
あれ、これ、国家秘密だったりするのかな……?
皆知ってることだと思って、ごく自然に言ってしまったんだけど…
2人の反応に内心とても狼狽えた。
「うっ…ええと…そういう物語の、本を読んで…た、たぶん伝説?」
とだけ言って目を逸らす。
本当は陛下…つまり叔父様に聞いた話なんだけど、
そういうことにしておいた方がいいよね?
伝説でもなんでもなくて、ホントの話なんだけど、言っていいものかわからないし。
「わ、忘れてっ!そんな話があったような、なかったような?気がするだけだしっ」
顔を赤くしたり青くしたりしながら私が言うと、
2人はクスクス笑いながら頷いてくれた。
「あの国はいろいろな伝説がありますからね。機会があれば私も是非行ってみたいですが、ドラゴンと対峙出来る程強くはないので、残念です」
肩を竦めてクロエは言う。
「テディは?…テディはなんかドラゴン1人でいっぱい倒しちゃいそうだよね」
ふふふ。とちょっと想像して笑ってしまう。
「そんなこと、流石に無理ですよ。それに、あの国は竜に護られている国ですから、1匹でも倒してしまったら、きっと国に入った時に処刑されてしまいますよ」
珍しく真面目な顔でテディは首を振った。
"流石に無理"の"無理"は、倒すのが無理なのか、倒せるけど無理なのか
…後者のような気がしてならない。
「ですが、僕も興味はありますね。もし、一緒に行けたら…レティは一緒に行ってくれますか?」
ジッと真面目な顔でテディは私を見つめて言った。
真顔で言われて、チョットだけドキッとしたものの、
特に深く考えることなく、迷わずにテディに笑顔で答えた。
「勿論!その時は、クロエとテディと3人で行きましょう!約束!」
何故かテディは「さ、さんにん…」と言って、ガックリ肩を落とした。
その様子を見てクロエが苦笑したのが見えた。
ーー私がその時のテディの言葉の意味を知るのは、大分先の話になる。




