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水と油とワガママと 2

「凄い…」


 硬直したままテディはぽつりと呟くと、

 突然興奮して、私をクルッと自分に向き合わせ、私の肩をガクガクと揺らした。


「凄い!凄いよレティ!やっぱり!やっぱり君が…そうなんだね!?」

 鳶色の瞳がキラキラと朝露の様に輝いてる。


 私は訳もわからず目を白黒させながら、

 首を前後に揺らし、

「う、うん?うん?」と、訳もわからないまま、勢いにつられて返事をする。


「て、テディ、お、おち、おちつい、て、首、もげちゃう」

 私がそう言うと、今度はガシッと強く抱きしめられた。


「レティ!僕、嬉しいんだ!物凄く!嬉しいんだよ!」

 ギューっとテディの腕に力が篭る。私はその力強さにビックリしてしまう。

 というか、く、くるしい…


「テ…ディ、わ、たし、く、るし…しんじゃ……おち、つ…」

 私がそう言うと、ハッと我に返ったのか、「ご、ごめん!」と慌てて私を離した。


 テディの顔を見ると、耳まで真っ赤だった。

 いくらなんでも興奮しすぎだと思うなぁ。と、私はこっそり苦笑した。


「でも凄かったね。妖精だけでも凄いのに結婚式って!クロエも呼びに行けば良かったね」


 勿体無い。と私が言うと、

 テディはちょっとだけ眉間にシワを寄せた様に見えた。

 ん?と首を傾げて見たけど、今は至って普通で、

 一瞬そう見えただけで気のせいだったのかもしれない。


「がっかりすると可哀想なので、クロエさんには内緒にしておきましょう?」

 2人だけのヒミツです。といつものように、ニコニコとテディは言った。

 私はコクリと頷いてテディに同意した。


 2人だけの秘密かぁ…誰かと秘密を共有する事なんて無かったから、

 なんだかちょっとドキドキするかも。


 テディはスクッと立ち上がると、私の前に手を差し出して、

「そろそろクロエさんも起きてるかもしれませんね。戻りましょうか」

 と声をかけた。

「そうね」と言って私も笑顔でテディに応え、彼の手をとった。


「テディ、ありがとう!」と私が言うと、

「いえいえ、こちらこそ」とにっこり返事が返ってきた。

 小川の水も森の木々も、日の光に照らされて、辺りはすっかり明るくなっていた。



 =====



「おはようございます」

 キャンプに戻ると、クロエは既に朝食を作って待っていた。

 鍋の中には鹿肉と、

 何やら野草の入ったスープがグツグツと音を立てているのが見える。


「おはようクロエ。これクロエが作ったの?」

 クロエの頬にキスを落とすと、目の前にある鍋に目が行く。

 見たこともない、独特な香りのするスープに興味をそそった。


 朝からお肉はハードな気はするけど、変わった匂いのこのスープがすごく気になる。

 一体どんな味がするのかしら?と反射的に口の中が潤ってしまう。

「はい。近くで鹿を見つけたので捌いてスープにしました。お2人は今までどちらに?」

 クロエはスープを器に注ぐと私達に手渡す。


 手渡されたスープを受け取りながら、

「朝のお散歩だよ」とテディと目を合わせてにっこり微笑んで答えた。

 するとテディもにっこり微笑んで、美味しそうにスープを口にした。


「………なかなか、野性的なスープですね。とても、意外です」

 と表情を崩さずにテディが感想を述べる。


 野性的?どんな味なのかしら?と私もスープを口にしてみる。

「………独特な苦味と、酸味……な、なんだか健康に良さそうね」


 嘘は付いてない。け、けしてマズい訳じゃない。と思う。

 ただ、好みの問題というか、何というか。


 引きつった笑顔で感想を述べると、

 クロエが申し訳なさそうな顔をして萎縮してしまった。


「すみません。やはり、お口に合いませんでした、よね」

 テディと私は慌てて、ブンブンと首を横に振る。


「いえ、美味しいですよ?なかなか面白い料理です。ね、レティ」

 私に振らないで欲しいな。と思いつつも、ウンウンと首を縦に振る。

「クロエすごいよ!鹿を捌けるなんて!野草も、私は見分けつかないから、その、私1人だったら、ご飯食べれないで死んでたかもだし」


 何とか褒めようとして見たものの、褒めるところがそこしか思い当たらない。

 クロエはますます申し訳なさそうに

「もういいですから…」と顔を背けてしまった。


 クロエの様子に困惑してテディをチラッと見ると

 テディは何事もないようにスープをパクパク食べている。


「大丈夫ですよ。ほんとに美味しいですから」

 そういってテディはスープのお代わりを催促した。


 黙々と食べ続けるテディに、クロエは少しホッとしたようだった。

 結局、スープの殆どは、テディとクロエだけで食べてしまったのだった。

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