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ワガママ姫の正義論 5

 =====



 盗賊達と別れたあとは何事もなく森に到着した。


 平原で途切れる事なく続いていた街道は、

 森をしばらく進むと獣道へと変わっていった。


 左前でクロエが先導し、

 右後ろからテディが付いてくる陣を取りつつ、森の中を進む。


「道がなくなっちゃった、ね?」

 あれからなんとなく会話が途切れてしまい、居心地の悪い空気が漂っていた。


「大丈夫ですよ。道はなくともこちらの方向で合ってますから」

 安穏とテディが答える。


 ずっと口を開かないのはクロエだった。

 元々そんなに話す人では無い印象はあるけど…

 あれから本当に何もしゃべらないのだ。


「あの、クロエ…ごめんなさい」

 と私がいうと、

 クロエは振り向きもせずに私に答えた。


「何に対して謝っておられるのでしょうか?訳もなく謝られても、私も困ります」

「だって、クロエ、怒ってる…でしょ?」

 泣きそうになる私は、グッと堪えて、クロエの背中を見つめる。


「…確かに、怒っているかもしれません。ですが、意味もわからず謝られるのは、好きではありません」

 ごめんなさい…と再び呟くと、目頭が熱くなる。


 すると、はぁー…とクロエは溜息を吐き、

「もういいです」とだけ答えて、再び黙ってしまった。


「クロエさんはレティが心配なだけですよ」

 とテディがこっそり私に耳打ちしてくれた。

「そう…かな?」

「そうですよ。そうじゃなきゃ怒ったりしませんよ」

 じっとまたクロエの背中を見つめる。


「大丈夫です。また何かあれば守れば良いんですから、ね?クロエさん」

 にこにことテディはクロエに話し掛ける。


「皆がみな、貴方の様に強いとは限りません。今日うまく行ったとしても、明日は私は負けるかもしれない。…姫の予想外の行動は命取りになりかねません。もう少し慎重にお願いします」

 ごめんなさい。とまた私は謝る。


「そうですね。慎重に行動するのは確かに重要です。しかし…僕はあの時のレティの判断は、間違ったものでもないと思いますよ?」

 にこっと、テディは私を見ながらそう言った。


「…それでも、味方を巻き込むのは危険過ぎます。もし馬が暴れて戻ってこなかったら?もし盗賊が貴方の様に耐性があって、動ける輩だったら?どうするんですか」


 んー。とテディは宙を見て考えると、

「僕が居るから良いんじゃないですか?居なかったら困りますが、何にしても、『もし』を考えていたら身動きが取れなくなって、それこそ命取りになる事もあると僕は思います」


「…屁理屈です」

 とクロエは溜息をついた。

「そうかもしれません」

 とテディは肩を竦め、それ以上は何も言わなかった。


 私はというと、2人のやりとりをオロオロと、ただ見てることしか出来なかった。



 =====



 日が長い季節とはいえ、

 森の中では日が傾いただけでだいぶ暗くなってきていた。


「日が落ちてからでは遅いので、この辺でキャンプにした方が宜しいかと思うのですが」

 クロエは馬を降り、地図を見ながら現在地を確認している。


「ふむ。少し地図をお借りしても良いですか?」

 とテディも馬から降りると、クロエから地図を受け取り、

 同じように現在地を確認する。


「この場所ですか…もう小半刻ほど東へ進めば、街道から外れてはしまいますが川があるはずです。その辺りでキャンプにしませんか?血だらけで休むのもどうかと思いますので」


 確かに、クロエもテディも返り血を浴びたままだった。

 私も拭いてはいるけど、それでも所々残ってる。

 私もクロエも異存なく、川辺まで進んで、キャンプを張ることにした。



 川に到着した頃には、だいぶ辺りも暗くなって来ていたので、

 急いで火を焚き、キャンプを張った。


 川はそこまで大きな川でもなく、小川と言った感じだった。

 火の番をテディに任せ、先にクロエと私が、水浴びをする事になった。

 私たちが終えて戻ると、既に夕食が準備されていた。


「これテディが作ったの?凄いね」

 鍋の中にはベーコンとカボチャをコンソメで煮たスープが、

 グツグツと音を立てて煮込まれている。

 野外でコンソメって…テディの謎がまた増えてしまった。


「いつも1人なので量が足りてるか自信ないですが…あ、先食べててください。僕も身体洗ってきますので」

「えっ?テディが作ったのに。ちゃんと待ってるよ」


「食べてて下さ〜い」

 と、川辺に向かって歩き、手を振りながらテディは答えた。

「食べましょう。このままでは野菜なくなってしまいますし」

 と、クロエが器にスープをよそい始めた。いいのかなぁ?


「どうぞ」

 とクロエからスープを受け取った。

「いただきます」

 とスープを口に頬張ると、

 ベーコンとカボチャの甘みが口いっぱいに広がった。


「おいし〜い♪」とニンマリしながら頬っぺたを押さえると、

 クロエがくすりと笑ったので、もう怒ってないんだ。とほっとする。


「クロエもお料理出来るの?」

 ライ麦パンをスープにつけて、もぐもぐと食べながらクロエに問いかける。


「ある程度は。ただ、私の場合、野外料理しか作れないので、こういった手の込んでいる物は無理です」

 そもそもコンソメの食材は、野外に向いてない生肉や卵を使うはずだから、

 テディは比較対象にならないと思うんだけど…


 と、そこへテディが帰ってきた。

「暑い季節とはいえ、川の水は流石に冷たいですね。スープお口に合いました?」

「先食べてごめんなさい。でもすごく美味しいよ!」

 と私が言うと、


 クロエも「短時間で作ったとは思えません」と頷く。

 むしろ普通は短時間で作れないよ!

 と、私は心の中でこっそり突っ込んだのはここだけの秘密。


 私たちの反応にテディは少し照れながら、

「それは良かったです」と頭をぽりぽり掻きながら答えた。


 その後はテディも一緒に食事をして、

 いっぱいあったスープは、あっという間に無くなってしまった。

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