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ワガママ姫の正義論 4

「し、死にたくなかったら金目のもの出しやがれっ」

 震えた声で盗賊の1人が声を上げる。


 みれば顔は青ざめていて、剣を握る手はブルブルと震えている。

 容姿も普通の人間とは違い、皆、2足歩行できる犬。と言った感じだった。

 目が少し潤んでて、怖いという感情が湧かない上になんだかちょっと可愛い。


 草地からは相変わらず「ぎゃっ」とか「うわぁ」とか悲鳴が聞こえる。

 暫くすると草陰からテディが戻ってきた。


「あれ?あなた方、まだ残ってたんですか?若いから見逃してあげてたんですが」

 と不思議そうな顔でテディが首を傾げる。


「う、うるせぇ!兄者たち残して、逃げる程落ちぶれてねぇ!とっとと言う通りにしろ!」

 オレンジ色の毛がブルブルと震えている。


「困りましたねぇ?」

 と全然困った風でもないテディが、クロエに声をかける。


「放って置いてもいい事はありません」

 とクロエは殺気を込めて剣を構える。

 しょうがない…といった感じで、テディも斧を構える。

 盗賊達はビクッと方を震わせ、すくみ上がった。


「だめっ!」

 と声をあげたのは私だった。

 咄嗟にクロエの前に、両手を広げて立ち塞がる。


「ダニエル様?」

 怪訝な顔でクロエが私を見つめる。


「こんなに怯えてるのに可哀想!お金ならあげるから、殺さないであげて!」

 とクロエに預けたお金を取り出すように指示する。


 しかしクロエは首を横に振り、拒否する。

「ここで見逃せば他の犠牲者がでます。騎士として見逃すわけにはまいりません」

「でも!」

 どいて下さい。とクロエは私を押しのける。


 その様子を見ていた盗賊たちは、

「畜生!」といってクロエに飛びかかる。


 ダメだっ!と私は咄嗟にキャスケットを掴み、

 帽子の裏から小さなボールを2つ取り出し、1個をクロエの前に投げつけた。


 ピカッと強い閃光が走る。

「!!」

 その場に居た私以外の全員が膝をついた。


「うっ…くそっ…なんだっ、てんだ!?」

「ダ……ニエルさ…ま…?」


 貴重だからあまり使いたくなかったんだけど、こうなったら仕様がないよね?


「全員動くな!ただの閃光弾じゃないぞ。光を直に見たものに麻痺させる作用がある。下手に動けばそれだけ苦しむことになる」

 私はお腹に力を入れ声を出す。出来るだけ低い声が出るように心掛ける。


「ビックリしました。まだ少しチカチカします」

 と割と平気そうに、後ろからテディが歩いて来たので、私はギョッとした。


「えっ!?テディ?…へ、平気なの!?」

「平気ではないですが、動けなくなる程でもないですよ?」

 舌がビリビリしますね。アハハハハーと楽しそうに笑っている。

 この人の体って一体どうなっているんだろう…?


「それで、どうするんですか?この状況。僕はどちらでもいいんですが」

「殺生はだめ!もう勝負はついてる!…ねぇ、どうして盗賊なんてするの?」

 私はクロエに飛びかかろうとした、オレンジ色の彼の前にしゃがみ込んだ。


「ひ…め……きけん…です」

 とクロエが立ち上がろうとするが、身体を動かしたことで痺れが増し、

 地面に手をついてしまう。


 オレンジ色の彼は私を睨みつけ、苦しそうに話し始めた。

「五、月蝿い!お…ま、えたちが、おれ、たちの住処…奪った、癖に…街にも、金、無い…から、入れて、もら、えない…おれ、たち、食い物…稼げ、ない!」


「そういえば、この国で、半獣族が街に出入りしてる所はあまり見ないですね」

 とテディが顎に手を当てながら言った。


「そんな、酷い…ごめんなさい。私、知らなかった…あなた達の家族にも酷いことをしてしまった」

 と私は草地の方に目をやる。


 労わるように、ぽんぽんとテディが私の頭を撫でてきた。

「ダニエルが謝ることではないですよ。どんな理由であれ、悪行に走ったのは彼らですし。先に襲ってきたのも彼らです。それに、全員…ではないですが、何人かは生きてますよ?手加減は出来る限りはしたので。早く手当てしないと死ぬかもしれませんが」

 えっ?とテディを見上げる。

 すると、にこっとテディは私に微笑んだ。


「どうでしょう?働く場所と住む場所を探しているなら、心当たりがあります。盗賊を辞めるのを条件にお教えしますよ?」

 テディが盗賊たちに言うと、盗賊たちは訝しげにテディを見上げる。


「悪い話ではないと思うのですが…このままではみんな殺さなければいけなくなってしまいそうですし。生き残れて、仕事と住むところが出来て…まぁ、信用してくれとは言いにくいですが…とりあえず話に乗ってみませんか?」


 盗賊たちはなんとか顔を見合わせると、またテディをみて1人が口を開く、

「証拠を…みせろ……保証が…欲しい」

 オレンジ色の彼が口を開いた。


「じゃあ!私のお金!全部!クロエッ!」


 私がそう言うと、テディが慌ててそれを止めた。

「いえ、僕が言い出したことですので、流石にそれは…」

 と、テディが言うので、私は首を横に振る。


「彼らを助けるって言いだしたのは私だし、それに、彼らが受け入れてもらえないのであれば、私にもきっと何か責任があるんだと思うから。…だから、私が払う」


 公爵令嬢とはいえ、王家の血筋には違いない。

 だから私は出来うる限り、王家の血を引くものとして、出来ることをしたいと思う。


「クロエ」

 とクロエの方に向きなおり、声をかける。

「クロエ、それで許してもらえない?」

 と私はクロエの顔をじっと見る。


「甘い…と、私は、思います…です、が、ダニエル様、が、決めたので、あれば……」

 そう答えたクロエに、私はコクンと頷き、

 クロエの腰に付いていた、私の全財産が入った袋を取り上げた。


 私は立ち上がると、クルッと振り返り、またお腹から声を出す。

「双方、麻痺が解けたら、武器を納めるように。後、目、瞑らないでね?」

 そう言って私は、残りのボールを地面に叩きつけた。


 再び強い閃光が走る。

 暫くすると、麻痺が解けたのか、皆そろそろと立ち上がり、

 盗賊もクロエも言われたとおり、武器を納めたのでほっとする。


「じゃあこれ、私が小さい頃からコツコツ貯めたお金だから、大事に使ってね」

 そう言ってオレンジ色の彼にお金を渡した。


 彼はお金を受け取ると、少し離れて仲間と一緒に中を確認する。

 すると驚いた顔で皆、私をまじまじと注視した。


「んー。街に入れないなら食べ物の方が良かった?」

 と首を傾げて盗賊達に聞くと、

 皆揃えて、ぶんぶんと首を横に振った。


「ちょっと待ってくださいねー」

 とテディが後ろで、何やら鞄から取り出し、手紙をしたためている。

「地図は読めますか?」

 と問いかけると、オレンジ色の彼はこくんと頷いた。


「では、地図に印をつけておくので、ここを目指して下さい。ビックリするかもしれませんが、ちゃんとここに街があるので。あ、地図は現地で、誰かにこの手紙と一緒に渡して下さい。後はそうですね、同じような仲間がまだいるなら、誘って行くと良いでしょう」

 そう言ってテディは手紙と地図を彼に渡した。


 盗賊達は少し唖然としていたが、

 ぺこりと頭を下げて、草地に置き去りになっている仲間の手当てに消えて行った。

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