ワガママ姫の正義論 3
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昼食を終え、馬に乗り、先へ進む。
天候が崩れる事も、話題が尽きることもなく、半刻ほどが過ぎた頃、
ゾクリと背中に寒気を感じた。
「……?」
ふと、馬の足を止める。
「どうかなさいましたか?」
とクロエが私の様子に気づき、声を掛けてきた。
「なんか、寒気が…風邪かなぁ?気持ち悪いかも」
と私が言うと、クロエはテディと視線を合わせてから私を見る。
「風邪、ではないと思います。先程からずっとつけられてますから」
クロエが平然と答えた。
つけられてる?ずっと?誰に?と首を傾げる。
「襲ってくる様子はなかったので、放って置いたのですが、止まった途端殺気が増えてきましたね?」
と平然と笑顔でテディも言う。でも目は笑ってない。
増えてきたって…いっぱいいるって事?危ないんじゃないんだろうか…
「駆け抜けますか?」
とクロエがテディに聞くと、
「いえ、もう囲まれてますし、飛び道具を持っていたら厄介ですから」
とテディは馬をおりて、更に、私を抱えて馬から降ろす。
クロエもスッと馬からおり、警戒しているのが分かる。
「馬から少し離れますよ?巻き込むと危ないですから。レ…っとと、ダニエルは僕かクロエさんから離れないようにして下さい」
とテディは私に声をかけてきた。
「テディは?」
と心配になり私が声を掛けると、
「慣れてますから、大丈夫です」
とニコニコしながらこちらを見た。
クロエに比べれば、テディはかなり落ち着いているように見える。
体が緊張してるとか、強張ってるとか、そう言ったところがまるで見られないのだ。
「あー…ちょっと厄介かもしれないですよ?モンスターの気配もします」
と、のほほんとテディが言った。
「判るの!?」
と驚いて私は目を瞠る。
「ええ。まぁ、慣れてますから」
何でもないようにテディは答える。
慣れると判るようになるんだろうか?
ガサガサと奥の方で、草が動いている。
暫くすると、私たちを中心に円状に囲まれているのが、私にも判った。
クロエとテディは、私を背にするように囲んで立った。
私はぐっと、腰にあるショートソードの柄に手を掛ける。
クロエは既に剣を抜き、様子を伺っている。
テディはというと…
「えーっと、どれがいいですかね?」
と言いながら、背中に背負っていた鞄を降ろし、
屈んで中をゴソゴソと漁っている。
まるで緊張感が無いんだけど、本当に大丈夫かなこの人。
ーー草が動く距離が、徐々に近づく…!
「来るっ!!」
とクロエが声を上げると、
キシャーー!と言う声とともに、
二足歩行の、トカゲのようなモンスターが、四方からこちらに向かって走ってきた。
鋭い牙を剥き出しにして、被りつこうと、ものすごいスピードで迫ってくる。
噛みつこうとした瞬間、私は思わず目をぎゅっと瞑る。
ざくりという音が、二つの方向から聞こえてきた。
そっと目を開けると、クロエとテディがモンスターの首をはねているのが見えた。
「あぁ、一応売り物のつもりだったんですが…欠けちゃいますかね?これ」
とボヤきつつテディは、柄の長い大きな斧を、軽々と振り回している。
そのカバンは一体、どうなっているのか。
ぼとぼとと、モンスターの首が3つ地面に落ちた。
クロエの方に1つ。テディの方に2つ。…一振りで2匹?!
「サボってないで、手を動かして下さい」
とクロエがテディに向かって言いながら、
残っているモンスターと戦っている。
その剣技は軽やかで、確実にモンスターの弱点を仕留めている様だった。
「んーそうですねぇ」
とテディは何やら考えてから、
「では、レティを頼みます」
と言って、斧を草地に向かって、ぶんっと大きく振った。
すると疾風が生まれ、その方向の草が全て無くなったかと思えば、
「ぐぁっ」と誰かが声を上げ、奥の方で倒れこむのが見えた。
何事!?と思ってテディがいた方向を見たけど、既にテディの姿はなく、
変わりに草地の方から、刃が重なる音と、男の悲鳴が聞こえてくる。
「ダニエル様!」
とクロエの叫ぶ声が聞こえ、ハッとする。
振り返るとモンスターの口が目の前にあった。
「!!っ」
ザクっと、モンスターの腹にクロエの刃が刺さると、
ずしゃっと音を立てて、モンスターは崩れ落ちた。
「お怪我は?」
とクロエは警戒したまま私に背を向け、声を掛けてきた。
「だ、いじょうぶ。ありがとう。ごめんなさい」
ぼーっとしてたらダメだ。しっかりしなきゃ。とショートソードを構える。
モンスターは、今のが最後の一匹だったらしく、
今度は草陰から何人か、盗賊と思われる男達が飛出してきた。




