表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/245

ワガママ姫の正義論 1

 =====



 食事を終えると、一度、お互いの部屋へ戻り、身支度を済ませることにする。

 食料調達に、商店に立ち寄らなければいけなかったので、

 お互いに買い物を済ませたら、街の外にある、厩舎で待ち合わせることにした。


「お待たせしてすみません」

 大きな背負い鞄を持って、テディが厩舎にやって来た。


「重そうねぇ。大丈夫?」


 馬が潰れるんじゃないかと言うくらい大っきい。

 鞄の隙間から、武器とか色んなものが飛び出している。破れないんだろうか?


「ええ、見た目程、重くはないんですよ。一個一個が大きいだけで。これでもだいぶ減った方なんです」

 これで?と私は目を丸くする。


 テディの後ろに回り、鞄を下からグッと持ち上げてみる。

「あれ、ほんとだ。そんなに重くない」


 私の鞄と比べると流石に重いけど、多分、私でも背負えるくらいの重さだ。

 ね?とテディは肩を竦める。そしてなんでも無い様に、ヒョイっと馬に跨った。


「多い時は1人で荷馬車を使いますから。全然楽なものです」

 にこにこと楽しそうにテディは言った。


 荷下ろしとかは、確かに大変だろうけど…荷馬車の方が楽なんじゃないかな?

 ううーんと唸っていると、後ろからクロエが馬を引っ張ってきた。


「ダニエル様」と私に声を掛ける。

 クロエに手伝ってもらって馬に跨ると、

 不思議そうな顔で「ダニエル様?」とテディが言った。


「あー…」と私は鞄から旅行記を取り出し、

 コレコレと本の著者名の所を指差して見せた。

 なるほどーとテディは頷いた。


「偽名ですか。でも男性の名前ですね?」

「うん。ほら、こうすれば…ぱっと見、男の子みたいでしょ?」


 と本を鞄の中にしまい、

 砂塵除けのゴーグルとキャスケットを鞄から取り出し、頭から被る。


 するとテディは目をキラキラ輝かせ、

「あああああ!」と大きな声を上げた。


「な、なに?!」

 とびっくりしてテディに聞き返す。


「昨日、商店街の方で楽器弾いてませんでしたか?お城に行く途中で見かけまして」

 ああ、なんだ、見られてたのか。と少し恥ずかしくなる。


「う、うん。ここに来る前にフェンスで吟遊詩人を見かけて、ちょっと感化されちゃっ………あああああ!」

 と今度は私が声を上げる。


 とび色の髪!何処にでもある髪色と言われれば、それまでだけど、

 あの時の歌声、よく聞いてみれば、テディの声に似てないだろうか?!

 何事だろうと、目を大きくしているテディに、恐る恐る私は聞いてみる。


「あの、もしかして、テディって、一昨日、フェンスの、【かかとの折れたハイヒール亭】で、歌って、なかった?」

 私がそう言うと、テディはますます目を見開いて、私をまじまじと見る。


「ええ、確かに。旅費が心配だったので、少し稼ごうと歌ってました…が、あの店に、居たんですか?」

 テディの頭に疑問符が見える。そりゃそうか、店が店だし。


「あそこの店主と知り合いで、裏の方にいたの。やっぱりテディだったんだ!」


 ほぅ…とお互いに吐息をついた。

「すごい偶然ね!」

 と私が言うと、テディは心なしか頬を赤く染めて、とても嬉しそうに頷いた。


「僕はここまでくると必然を感じます。人に縁がないと思ってましたが…嬉しいですね」


 一体どれだけ縁がなかったんだろう?

 なんかメルみたいに可愛らしい人だなぁ。と思わずつられて笑みがこぼれる。

 でも、流石に私もこう言った経験は無いから、必然と感じるのも頷けるかも。


「お話がお済みでしたら、そろそろ出発しませんか?」

 とクロエがいつの間に騎乗していたのか、後ろから声を掛けて来た。




 =====



 街道を少し戻り、南下しつつテディと会話を弾ませる。


 よほど人と話したかったのか、

 閑散とした景色から、徐々に緑が深くなるまで、会話が途切れることはなかった。

 終始笑顔で、顔の筋肉痛くならないのかな?と妙な心配をしてしまう。


「ところで、僕も、人が多いところでは、ダニエル様と呼んだ方がいいですか?」

「んー。そう呼んでくれるのはありがたいんだけど、様はなくていいよ。レティアーナでも様いらない。レティでいいよ」

「そうですか?」とテディは首を傾げた。


「だって、テディはもうお友達でしょ?」


 お友達…と呟いて、テディは眉間にシワを寄せ、少し考え込んだ。

 あれ?こういうのをお友達って言わないのかな?


「ちがうの?私、お友達は居ないから…間違ってた?」

 ちょっとだけガッカリして私が言うと、


「いえ、僕も友達と言っていい友達は居ないので…多分、友達…です?」

 と腑に落ちない顔で首を傾げた。

 そう言われてしまうと…私にも分からないかも?


 うーん?と2人で悩み始めると、呆れたようにクロエが溜息をつく。


「そういうのは自分自身の気持ち次第ではないのですか?」

 クロエがそう言うと、私とテディは顔を見合わせる。


「私はテディが友達だと嬉しいな?」

 とテディに言うと、

 テディはますます困ったような顔をする。


「僕は……嫌…うーん?」


 嫌?!

 まさか嫌がられるとは思ってなかったので、結構ショックかも。


 シュンと顔を俯け、

「ごめんなさい」

 とテディにあやまると、

 テディは慌てて首を振った。


「あ、いや、ちがっ!そういう意味じゃなくて……ちょっと、深く考えすぎたみたいです。僕もレティと友達だと嬉しいです」

 ニコッと笑ってテディが言ったので、私はホッとして、へへっと笑顔で返した。


 気がつくと、日もだいぶ高くなっていた。


 先導していたクロエが、馬の歩みを止めて地図を確認する。

「思っていたより早く森に入れそうです。今、丁度街道の半分くらいの位置にいます」


 んー。とテディが思案する。

「少し早いですが昼食にしますか?もう少し先でも構いませんが、森の入り口付近まで進んでしまうと、野党やモンスターが気になりますし」


「テディは野党とかあった事あるの?」

「ええ。僕は1人で武器や防具を荷馬車に積んでウロウロしますからね。しょっちゅう彼らに出会いますよ。特に彼らは、町や村よりも離れた場所を好みますから、この先が一番危ないでしょうね。もっとも、ここも安全とは言えませんが」


 へぇー。と感心してみたけど、

 荷馬車に1人でウロウロしてて、しょっちゅうって、

 生きてるのが不思議なレベルのような気もする。


「クロエは?」

  と聞くと、クロエは既に馬をおりて、黙々と昼食の準備をしていた。


「私はそこまでありませんね。全くないわけではないですが、滅多にないです」

 いっぱい武者修行してるクロエでもそんなにないのか…行商って大変だなぁ。


「レティ、お手伝い入りますか?」

 と、いつの間に馬を降りたのか、テディが手を差し伸べていた。


「大丈夫。1人で降りれるわ」

 と右足をあぶみから外し、

 降りようとしたところでバランスを崩してしまった。


 後ろから倒れてしまったので、頭ぶつけるかも!と目をギュッと瞑ると、

 ぽすっと軽い衝撃を受けただけで、そこまでの痛みは感じなかった。


「無理しないで?」

 と左耳のすぐ横から、テディの声がした。


 背中には体温を感じる。どうやら助けてもらったようだ。

 私はというと、手綱は持ったままで左足は鐙に掛かったままだった。

 このまま落ちて、馬に引きづられでもしたら大惨事になっていた。


 フワッとそのまま体が浮き上がり、そっと地面に着地した。

 テディが抱えて降ろしてくれた。という事に気がつくまでに、少し時間がかかった。


「あ…りがとう。ごめんなさい」

 ドジを踏んだのと、抱えられたのとで恥ずかしくなり、

 私は真っ赤になってテディにお礼を言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ