ワガママ姫の正義論 1
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食事を終えると、一度、お互いの部屋へ戻り、身支度を済ませることにする。
食料調達に、商店に立ち寄らなければいけなかったので、
お互いに買い物を済ませたら、街の外にある、厩舎で待ち合わせることにした。
「お待たせしてすみません」
大きな背負い鞄を持って、テディが厩舎にやって来た。
「重そうねぇ。大丈夫?」
馬が潰れるんじゃないかと言うくらい大っきい。
鞄の隙間から、武器とか色んなものが飛び出している。破れないんだろうか?
「ええ、見た目程、重くはないんですよ。一個一個が大きいだけで。これでもだいぶ減った方なんです」
これで?と私は目を丸くする。
テディの後ろに回り、鞄を下からグッと持ち上げてみる。
「あれ、ほんとだ。そんなに重くない」
私の鞄と比べると流石に重いけど、多分、私でも背負えるくらいの重さだ。
ね?とテディは肩を竦める。そしてなんでも無い様に、ヒョイっと馬に跨った。
「多い時は1人で荷馬車を使いますから。全然楽なものです」
にこにこと楽しそうにテディは言った。
荷下ろしとかは、確かに大変だろうけど…荷馬車の方が楽なんじゃないかな?
ううーんと唸っていると、後ろからクロエが馬を引っ張ってきた。
「ダニエル様」と私に声を掛ける。
クロエに手伝ってもらって馬に跨ると、
不思議そうな顔で「ダニエル様?」とテディが言った。
「あー…」と私は鞄から旅行記を取り出し、
コレコレと本の著者名の所を指差して見せた。
なるほどーとテディは頷いた。
「偽名ですか。でも男性の名前ですね?」
「うん。ほら、こうすれば…ぱっと見、男の子みたいでしょ?」
と本を鞄の中にしまい、
砂塵除けのゴーグルとキャスケットを鞄から取り出し、頭から被る。
するとテディは目をキラキラ輝かせ、
「あああああ!」と大きな声を上げた。
「な、なに?!」
とびっくりしてテディに聞き返す。
「昨日、商店街の方で楽器弾いてませんでしたか?お城に行く途中で見かけまして」
ああ、なんだ、見られてたのか。と少し恥ずかしくなる。
「う、うん。ここに来る前にフェンスで吟遊詩人を見かけて、ちょっと感化されちゃっ………あああああ!」
と今度は私が声を上げる。
鳶色の髪!何処にでもある髪色と言われれば、それまでだけど、
あの時の歌声、よく聞いてみれば、テディの声に似てないだろうか?!
何事だろうと、目を大きくしているテディに、恐る恐る私は聞いてみる。
「あの、もしかして、テディって、一昨日、フェンスの、【かかとの折れたハイヒール亭】で、歌って、なかった?」
私がそう言うと、テディはますます目を見開いて、私をまじまじと見る。
「ええ、確かに。旅費が心配だったので、少し稼ごうと歌ってました…が、あの店に、居たんですか?」
テディの頭に疑問符が見える。そりゃそうか、店が店だし。
「あそこの店主と知り合いで、裏の方にいたの。やっぱりテディだったんだ!」
ほぅ…とお互いに吐息をついた。
「すごい偶然ね!」
と私が言うと、テディは心なしか頬を赤く染めて、とても嬉しそうに頷いた。
「僕はここまでくると必然を感じます。人に縁がないと思ってましたが…嬉しいですね」
一体どれだけ縁がなかったんだろう?
なんかメルみたいに可愛らしい人だなぁ。と思わずつられて笑みがこぼれる。
でも、流石に私もこう言った経験は無いから、必然と感じるのも頷けるかも。
「お話がお済みでしたら、そろそろ出発しませんか?」
とクロエがいつの間に騎乗していたのか、後ろから声を掛けて来た。
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街道を少し戻り、南下しつつテディと会話を弾ませる。
よほど人と話したかったのか、
閑散とした景色から、徐々に緑が深くなるまで、会話が途切れることはなかった。
終始笑顔で、顔の筋肉痛くならないのかな?と妙な心配をしてしまう。
「ところで、僕も、人が多いところでは、ダニエル様と呼んだ方がいいですか?」
「んー。そう呼んでくれるのはありがたいんだけど、様はなくていいよ。レティアーナでも様いらない。レティでいいよ」
「そうですか?」とテディは首を傾げた。
「だって、テディはもうお友達でしょ?」
お友達…と呟いて、テディは眉間にシワを寄せ、少し考え込んだ。
あれ?こういうのをお友達って言わないのかな?
「ちがうの?私、お友達は居ないから…間違ってた?」
ちょっとだけガッカリして私が言うと、
「いえ、僕も友達と言っていい友達は居ないので…多分、友達…です?」
と腑に落ちない顔で首を傾げた。
そう言われてしまうと…私にも分からないかも?
うーん?と2人で悩み始めると、呆れたようにクロエが溜息をつく。
「そういうのは自分自身の気持ち次第ではないのですか?」
クロエがそう言うと、私とテディは顔を見合わせる。
「私はテディが友達だと嬉しいな?」
とテディに言うと、
テディはますます困ったような顔をする。
「僕は……嫌…うーん?」
嫌?!
まさか嫌がられるとは思ってなかったので、結構ショックかも。
シュンと顔を俯け、
「ごめんなさい」
とテディにあやまると、
テディは慌てて首を振った。
「あ、いや、ちがっ!そういう意味じゃなくて……ちょっと、深く考えすぎたみたいです。僕もレティと友達だと嬉しいです」
ニコッと笑ってテディが言ったので、私はホッとして、へへっと笑顔で返した。
気がつくと、日もだいぶ高くなっていた。
先導していたクロエが、馬の歩みを止めて地図を確認する。
「思っていたより早く森に入れそうです。今、丁度街道の半分くらいの位置にいます」
んー。とテディが思案する。
「少し早いですが昼食にしますか?もう少し先でも構いませんが、森の入り口付近まで進んでしまうと、野党やモンスターが気になりますし」
「テディは野党とかあった事あるの?」
「ええ。僕は1人で武器や防具を荷馬車に積んでウロウロしますからね。しょっちゅう彼らに出会いますよ。特に彼らは、町や村よりも離れた場所を好みますから、この先が一番危ないでしょうね。もっとも、ここも安全とは言えませんが」
へぇー。と感心してみたけど、
荷馬車に1人でウロウロしてて、しょっちゅうって、
生きてるのが不思議なレベルのような気もする。
「クロエは?」
と聞くと、クロエは既に馬をおりて、黙々と昼食の準備をしていた。
「私はそこまでありませんね。全くないわけではないですが、滅多にないです」
いっぱい武者修行してるクロエでもそんなにないのか…行商って大変だなぁ。
「レティ、お手伝い入りますか?」
と、いつの間に馬を降りたのか、テディが手を差し伸べていた。
「大丈夫。1人で降りれるわ」
と右足を鐙から外し、
降りようとしたところでバランスを崩してしまった。
後ろから倒れてしまったので、頭ぶつけるかも!と目をギュッと瞑ると、
ぽすっと軽い衝撃を受けただけで、そこまでの痛みは感じなかった。
「無理しないで?」
と左耳のすぐ横から、テディの声がした。
背中には体温を感じる。どうやら助けてもらったようだ。
私はというと、手綱は持ったままで左足は鐙に掛かったままだった。
このまま落ちて、馬に引きづられでもしたら大惨事になっていた。
フワッとそのまま体が浮き上がり、そっと地面に着地した。
テディが抱えて降ろしてくれた。という事に気がつくまでに、少し時間がかかった。
「あ…りがとう。ごめんなさい」
ドジを踏んだのと、抱えられたのとで恥ずかしくなり、
私は真っ赤になってテディにお礼を言った。




