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ワガママの精算 3

 =====


 武器屋を出ると、そのままアルダに別れを告げる。

 アルダは最後にもう一度、私をギューと抱きしめて、名残惜しそうにしていた。


「またおいで。なんて言えやしないけど、元気でやるんだよ。メルの事もよろしく頼むね」


 私の立場を考えると、今生の別れになるかもしれない。

 そう思うと自然と目頭が熱くなった。


「また、くるもん、お屋敷抜け出してでも。会いにくるもん」

 幼い子供に戻ったように、私もぎゅーっとアルダを抱き返した。


「…ありがとよ。気持ちだけ受け取っとく」

 さあ行ってきな!と私を離した。見ればアルダも目を赤くしていた。


 私は、クロエの裾をぎゅっと握りながら、名残惜しげに厩舎に向った。

「帰りに寄れたら寄りましょうか」

 とクロエが、頭をぽんぽんと叩きながら言ってくれた。


 予約した馬に跨がり、街道を西へ進む。

 フェンスを出た時には、だいぶ日が高くなっていた。


 王都からフェンスまでの道のりとは、また違う景色が見えてくる。

 農地は無く、荒れた草地が続き、

 所々に木が生えていたり、岩山があったりと、閑散とした大地が続いていた。

 街道から少し離れた場所に、チラホラとネズミに似たモンスターの姿も見て取れたが、

 こちらに向かってくる事もなく、

 お昼頃を過ぎた頃には、海の見える海岸線まで出てこれた。

 安全そうな場所を見つけて食事休憩をとる。


「王都の港とは全く違う景色ね。同じ海なのに不思議」


 パンを頬張りながら潮風を感じる。

 王都の港のように賑わいはないけど、自然そのものを肌で感じることが出来た。


「イオドランはここから海岸沿いを更に西へ。何もなければ日が傾く前には着きそうですね」

 地図を確認しながらクロエが言った。


 確認を終え、地図を仕舞うと、

「ところで、幾つかお聞きしたいことがあるのですが…」

 と少々遠慮がちにクロエが問いかけてきた。


「なあに?」

 と、海を見たまま答える。


 何から聞いたものか…とクロエは迷った後、口を開く。

「ええと…そうですね、姫…いえ、ダニエル様は何処からお金を?」


 貴族は基本お金を持ち歩かない。

 支払いなどは、執事が管理するものだし、

 硬貨自体を手にする機会は、まずないと言っていい。


「んーと。城下町で要らないものを売ったり、後は呼び込み手伝ったり?小さい頃からお屋敷抜け出して色々やってコツコツ貯めたよ」


 その返答に、クロエは大きく目を見開いた。

 その心情は、労働をする貴族…ましてや公爵家の令嬢が…と言った所だろうか。


「ですが、その、かなりの額をお持ちですよね?それだけでは、とてもアダマン硬貨までは貯まらないかと…」

 そうなの?とキョトンとしてクロエに聞き返した。

 クロエは困惑したように、そうです。と答える。


「んー?でも、わりと銀貨とか金貨をくれる人が多かったし、すぐ貯まったよ?」

 と言うと、クロエは、ううーんと唸りながら、それ以上は追求しなかった。


「とりあえず。ですね、値段を聞く前に、お金を出すのはやめた方がいいかと…目敏めざとい商人や盗人に目を付けられますし」


 ふんふんと頷き、

「じゃあ、ダールに着くまで、クロエに少し間預けるわ」

 といって、コインの入った袋をクロエに渡す。


「責任を持ってお預かりします」

 とクロエは深く頷いた。


「後は何が聞きたいの?」

 クロエはまたもや逡巡しゅんじゅんする。

 そんなにいっぱいあるんだろうか?


「後は…急ぐ理由とか、武器はどの程度お使いになられるのか、とか、その辺りが一番気になりますかね」

 一番って事はまだあるのね。と苦笑する。


「急ぐ理由は、コルネリア様の帰還よりも速くにダールに着くのが目的よ。出来れば、コルネリア様が森を抜ける前に、到着したいのだけど、イオドランの領主がデメリンド侯爵では、足止めも頼めないし…まぁ、あの一家はお話好きだから、自然と足止めしてくれそうかなとは思ってるんだけど、運に任せるしかないかなって」

 そうクロエに説明して、肩を竦める。


 そもそもコルネリアが、イオドランに立ち寄るとは限らないので、

 森に到達するしないに関わらず、こちらが急ぐしかないのだけど、

 情報収集の為にも、私はイオドランに一泊する事を決めたのだった。


 なるほど…とクロエは頷いた。


「後は、武器だっけ?ショートソードはレイとよく小さい頃遊んでたのと、屋敷を抜け出して、丘でよくモンスター叩いてたのと……うん。剣はそんなもんかな?弓は動いてないければ、大体当たる」


 若干濁して、おおまかに説明する。

 娼館の常連客に、こっそりあって教えてもらっていたなんて、流石に言えない。


「後は?」

 クロエに質問を促す。しかしクロエはそこで立ち上がって、

「そうですね、聞きたいことがあり過ぎて、日が暮れてしまいそうなので、街に着いてからにします」

 と荷物をまとめ始めたので、私もそれに続き馬に乗る。


 ゆっくりと街道を下りながら、海沿いを歩く。

 閑散とした大地から、木々が徐々に増えてくる。

 海鳥の鳴き声が響き渡り、海岸に生息する、特有のモンスターも姿を現し始めた。


 それでもやはり、街道まで出てくるモンスターはいないようで、

 いつもだったらお茶の時間だという頃には、

 海岸線に山のような建物の影が見えてきていた。


「あの街ですね」

 とクロエは指を指した。


 徐々に山のような影から、強固な石壁が見えてくる。

 岬に飛び出した街はまるで、戦艦の船首ような形をしていた。

 街の先端には、建物よりも大きな戦艦も見える。

 街の入り口には兵士が立っていたが、通行料さえ払えば誰でも通れるみたいで、

 身分証を見せなくても、すんなり通る事ができた。

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