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Coffee Break : if

 眠虎(みんこ)が見る夢は過去から未来まで実に様々である。

 ユニコーンの力よりも遥かに強いその力は時として、ありそうであり得なかった過去へも飛んでしまうのだった。



 =====



 昔々のウイニー城ーー

 13歳になるレイはその日久しぶりの友人の訪れを今か今かと待ち構えていた。

 なにぶん剣の試合で彼に勝った事は無かったので、今回こそはと意気込んでいた。


「アベル!フィオはもう来たか!?今回は剣だけじゃなく狩りにも行くぞ!」

 意気揚々としてレイが言えば、アベルは苦笑しながら答える。


「今日はそればっかりだな。もう間もなくだと思うから少し落ち着いたらどうだ?」

「落ち着いてなんかられるかっ!今回こそは絶対に勝ってやる!」


 レイが腰につけた剣を抜きブンブンと素振りをしていれば、お待たせしましたとばかりにドアを叩く音がした。

「殿下、リン・プ・リエンよりフィオディール様がお越しになりました」

「!そうか!来たかっ!!アベル!行くぞ!」

 スキップでもするんじゃないかというくらい浮き足立ったレイをやれやれとアベルもどこか楽しそうに見ながら後を追う。


 フィオを出迎えれば、呆れたような顔で肩を落として溜息をつかれてしまった。

「レイはそれしか考える事ねぇのかよ。俺お前の相手すんのいい加減飽きてきた」

「そう言うなよ。お前以上に骨のある奴なんてこの国には居ないんだからさ」

 レイがそう言えばフィオははぁ〜…とまた大きな溜息を吐き出した。


 温室育ちのレイと幼いながらも実践経験のあるフィオでは実力の差は歴然だった。

 それでもフィオは言われるがまま剣をふるえば、喜々として剣を振るう友人の笑顔に呆れながらも実の所そこまで嫌ではなかった。

 結果はどう足掻いても毎回同じなのだが。


 剣の相手が終われば、3人で街へと繰り出すのが毎回恒例となっているのだが、今回は思いもよらぬ来客が3人の前に訪れてしまった。

 フィオが来る時はレイは何時も邪魔だと母である王妃に押し付けるのだが、今回はその王妃にも来客があった所為か、小さなその客人はレイの元を訪れたのだった。


 街へ行く算段を3人で行っていると、コンコンと部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。

 アベルが扉を開ければ、可愛い妹がひょっこりと顔を出してにこにこと笑っていた。

「あのね、お兄様、あのね、伯母様忙しそうだったから、レイに本を借りにきたの」


 兄に会えて嬉しいのか頬を染めながらレティが言えば、アベルはでれーっと鼻の下を伸ばし笑顔で頭を撫でてやった。

 しかし、思わぬ来客でレイの機嫌は一気に悪くなってしまった。


「お前っ!ここには顔を出すなって言っただろうが!本なんて図書館行けばいくらでもあるじゃねぇか!とっとと俺の部屋から出て行け!!」

 レイが怒鳴りつければレティはくしゃりと顔を歪める。


「酷いわ!本を借りっぱなしにするのいつもレイじゃない!対して読みもしないくせに!!」

「ッハ!大体お前に俺が読む本の内容が理解できるわけねぇだろう?俺達は今忙しいんだ!男同士の大事な話があるんだから諦めてとっとと出て行け!」

「なによっ!どうしていつも私をのけ者にするの?レイばっかりお兄様を独り占めにしてズルイわっ!私のお兄様なのに!!」


 じわりと涙目でレティが訴えれば、フン!とレイはそっぽを向く。

 溜息をついてアベルが2人を宥めようとした矢先、ずっと黙って始終のやり取りを見ていたフィオが困惑した様子で目の前の小さな女の子に声をかけた。


「あの……君は?」

「ああ、わるい…こいつの妹で俺の従兄妹のレティアーナだ。今追い出すから。すまないなフィオ」

「………いえ、良いんです」

「「良いん………"です"!?」」


 フラフラと近づいてくるフィオの言動にレイとアベルが驚愕した。

 何分2人の知るフィオディールは敬語どころかその態度は何処のならず者だと言わんばかりの少年なのだ。

 それが今はどうだろうか?見たこともないような満面の笑みを浮かべ、王子然とした立ち居振る舞いでレティの前に歩み寄って来ているではないか。

 何が起こった?!と、レイもアベルもただただ目の前の少年の態度に唖然とするしかなかった。


「僕はリン・プ・リエンの第3王子フィオディール・バルフ・ラスキンです。以後お見知り置きをプリンセス」

「僕!?ぷ、ぷりんせっ…いてえ!」

 粛々とお辞儀をし、レティの手の甲にキスを落とせば、隣から驚愕の声をレイが上げ、それを更に遮るようにフィオが思い切りレイの足を踏んづけた。


 その様子をレティはキョトンとして見ていたが、挨拶をされた事に気がついてにっこり笑ってスカートの裾をつまんで丁寧にお辞儀をした。


「初めましてフィオディール様、レティアーナ・ビセットと申します。お邪魔してごめんなさい。兄と殿下がお世話になっております」

「うっ……い、いいんですっ!全然邪魔なんかじゃありませんっ!!僕の事はフィオって呼んで下さい!むさ苦しいところですがどうぞ中へ!!」

「…おいっ!」


 真っ赤になってフィオが言えば、いいのかしら?と恐る恐るレティはレイをジッと見つめた。

 レイは憮然とした顔をして、顎で入れとレティに合図をすれば、レティもおずおずと部屋の中へと入って来た。

 妙な事になったな…と、レイとアベルは冷や汗をかいていたが、無論レティは気付くことなく、フィオは2人などどうでもいいと言った様子でキラキラと目を輝かせてレティをじーっと見つめていた。

 終始無言で3人から見つめられ、流石のレティも居心地が悪くなった。


「あの…?私、やっぱり邪魔……ごめんなさい。図書館で別の本を探しますわ」

「邪魔じゃないです!居て下さい!!見てるだけで飽きません!!あ、いやっ……そ、そうだ!これから僕達街へ行く予定だったんです!僕はこの国についてあまり知りませんから良かったら案内してもらえませんか?」

「街に?私も行っていいの?」

「勿論です!!ね!?レイ!!」

「…あ、ああ………」


 パッと花が咲いた様に目を輝かせるレティを見れば、慌ててフィオはレティに応え、有無を言わさ無いと言わんばかりにレイを凄みのある笑顔で睨みつけた。


 街の中の案内など本当はフィオには不要だったが、目の前の可愛らしい姫君から嬉しそうにお礼を言われれば、ギュッと心臓を掴まれたような不思議な感覚がフィオを支配した。


(なんだこれ…苦しいのにまだもっとこの子を見ていたい…)


 街へ連れ出せば更にレティは活き活きと無邪気に笑い、フィオは釣られるように満面の笑みを終始浮かべていた。

 隣でレイは友人をジトリと睨みつけ、とても不満そうに口を開いた。


「お前…なんて顔してるんだよ!さっきっから気持ち悪いぞ!?あいつと居ても楽しい事なんて何もないだろうが…適当に巻いて港の方にでも行こうぜ…」

「馬鹿言ってんじゃねぇ!あんな可愛い姫君をその辺放ってどっかになんて行けるわけねぇだろ!アベルもレイもなんで隠してやがった!可愛すぎるからか!?」

「…何行ってんだお前……」

「僕の妹が可愛いのは認めますが……あげませんよ?」

「…僕、障害は高い方が燃えるんです」


 ニッコリと殺気を含みながらフィオが言えば、アベルは少々顔を青くし生唾を呑んだ。レイはこんな筈ではと頭を抱え、露店に夢中だったレティは3人の不穏な空気に気がついてキョトンとして声をかけてきた。

「どうかしたの?」

「いえ、なんでもありません。何か欲しいものでもありましたか?僕が買ってあげますよ」


 鼻歌でも歌いそうな勢いでフィオがレティに近づけば、背後から友人2人がはぁ…と大きな溜息をついた。




 終始笑顔のレティとフィオのあどけない様子は大きなシャボンに乗って、やがてラハテスナの謁見室の天井でパチリと弾けて消えたのだった。

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