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Coffee Break : ユニコーン

Coffee Breakは本編ではありませんが、

その時々の物語の背景となる為、若干ネタバレ要素が含まれる場合があります。

気になる方は飛ばして読んで下さい。

 ゼイルは雲の上でぼんやりと遠い昔の事を思い出していた。

 目を閉じればレギと呼ばれた天神族が瞼の裏に今でもハッキリと思い浮かぶ。


 ゼイルは誰よりもレギが大好きだった。

 彼女が笑ってくれるなら天を追い出されようと、呪いをかけられようと苦ではなかった。


 フィオとレティアーナを見ているとそんな昔の自分とレギと重なった。

 レティアーナはレギに性格がそっくりだし、フィオは信じられない位自分に似ている。


 フィオに引き摺り込まれたあの時程恐ろしいと思った事はなかった。

 似過ぎているが故に、自分が誰なのか判らなくなってしまった。


(あれは、神の怒りに近かったな…)


 と、ゼイルは思う。

 今でこそだいぶ落ち着いているものの、レギと古の王子がウイニーを作って暫く経つまで、ゼイルは神の呪いに苦しめられ、リン・プ・リエンの南の森を走り回っていた。

 我に返ったのは山脈に暮らすドラゴンを角で突き刺しその血を浴びた後だった。


 怒りは未だ消えては居ない。けれど、自制する事が出来るようになっていた。

 沢山の人に会い、フィオと巡り合って今が一番幸せなのかもしれないとゼイルは嘲笑する。


(癪だから絶対言わねぇけど)


 相性はいいのだろう。だが、相性が良すぎるのも問題だなと眉を顰める。

 またあの様な事があるのは困る。ライリの様な人間がいつまでもこの世に存在しているとは限らないのだ。

 神が滅びてしまった様に。


 そんなことを考えていると、誰かがやってくる気配がした。

 起き上がれば、霧の中からフィオの姿が現れる。

 何処か落ち込んだ様子で何も言わずにゼイルの隣に座った。


「「……」」


 何か言わなくてはと思ったものの気の利いた事は思い浮かばなかった。

 そもそもフィオがああなった原因は自分にあるのだ。

 人間と契約を結ぶようになって初めての失態だった。


(やはり改めて謝るべきだろうか)


 逡巡していると、フィオが重たい口を開いた。


「すみませんでした…」

「は?」


 思わぬ言葉に思わず声が漏れた。

 まさかの謝罪だった。この生意気な王子がガキの頃から今まで自分に対して頭を下げた事など一度たりとも無かったのだ。


 むしろ自分は道具ぐらいにしか思われてないのだろうと思っていたし、別にそれでも良いとも思っていたのだ。

 相性が良すぎる分、距離があった方がいいと契約した時から何と無くそれは感じていた。

 それでも結局最悪な形の暴走は起こってしまったのだが。


「いくら頭に来たからと、貴方を巻き込んであの様な事すべきじゃありませんでした。ラハテスナの女王から受けたあの光の重さは僕が殺してしまった人や兄上の命の重さなんですよね」

「…一部だけどな。お前の所為だけじゃねぇよ。俺の中にも押さえきれない怒りがある。それはもうユニコーンの性質になっちまってるから消せねぇだろう。お前だけが背負う必要はねぇ。だから謝んな。調子狂う」


(俺ももしもあの時天に帰ることが出来たなら、フィオと同じように神を殺していたんだろうな)


 レティアーナが死んだ時、レギが死んだ時と同じ感情が湧き上がった。きっとフィオもその感情に引き摺られた所がある。

 厄介な呪いだと今更ながらゼイルは思った。


「ゼイル…有難う御座います」

「だからよせって。気持ち悪りぃんだよ」

「そうですね…僕達らしくありませんね」


 そう言って力無く笑ったフィオは立ち上がってゆらりと俄かに殺気立つ。

 ピクリとゼイルが反応すれば、おもむろにゼイルの首めがけてフィオは回し蹴りをお見舞いしようとした。

 すれすれの所でゼイルは雲の下へと逃げ込む。


 再び顔を出して、

「何すんだ馬鹿野郎!殺す気か!!」

 と、睨みつければ、フィオは凶悪な笑みを浮かべてゼイルに言った。


「あの時僕達は少なからずつい最近の記憶(・・・・・・・)を共有しました。その記憶の中に許し難いものが含まれていたんですよね」


 言われてゼイルはキョトンとする。

 フィオに殺されかける様な大失態はレティアーナを護れなかった事以外には特に思い浮かばなかった。


 するとフィオはポキポキと指を鳴らしながらゼイルに向かって言った。

「しらばっくれんじゃねぇぞ…お前、レティに勝手にキスしただろうが!!」

「……あぁ!」


 名前を呼ばれたのが嬉しくて確かにしたなとゼイルは思い出し相槌を打った。

 ゼイルにしてみれば対したことでは無かったのだが、どうやらこの主人にしてみれば大事だったらしい。


「なんだお前、人間以外もダメなのか?随分と心が狭いんだな。いや、知ってたけどな!」

 ニヤニヤと笑みを浮かべて言えば、フィオは真っ赤になってゼイルに殴りかかろうとする。

「避けるな!くそッ!なにが"あぁ!"だ!!そこに直れ!!ぶっ殺す!」

「いいじゃねぇかどうせ夢の中だし。ノーカンだろノーカン。それに俺殺したら開拓地全部無くなるぞ?」

「っく…せめて殴らせろ!!」


 殴りかかろうとするフィオを楽しそうにゼイルはひょいひょい避けていく。


(やっぱり今が一番幸せだな)


 と、生意気な主人をからかいながらゼイルは思うのだった。

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