一世一代のワガママ 4
217代!
創生の国とは知っていたけれど、流石に途方もない数字に私とテディは思わず目を見開いて顔を見合わせた。
するとクロンヴァール王は満足そうに私達のに頷いて目をらんらんと輝かせながら私達に語り掛ける。
「大抵の者はそうやって驚くらしいな。いやー私の代で来訪者に出逢えるとは私も運がいい。しかも建国の為に我が国を訪れるなんて歴史的瞬間に立ち会おうなどとそうそう出来る事ではない!…っとと、いかんいかん。とにかく済ませてしまおう。話が脱線し過ぎないうちにな」
そう言ってクロンヴァール王は私達に立ち上がるように促すと、玉座をおりて私達の前まで降りてきてテディの手を私に重ねるようにして握ると、目を伏して古い言葉を呟いた。
『若き王とその妃に竜の祝福を』
「「!」」
ほんのりと手の甲が熱くなる。スッとその熱が引けば体の中に新しい魔法文字が血の中に流れてくるのを感じた。
クロンヴァール王が目を開けてまた微笑むと、テディに質問をしてきた。
「これで貴殿は新たな国の王と認められよう。国の名前は決まっているおるのか?」
「有難う御座います…?ええと、はい。デール帝国と名付けましたが…」
割とあっけなく終わってしまった儀式と唐突な質問に目を白黒させながらテディが答えると、クロンヴァール王は「っぶ」っと吹き出して笑った。
その姿に私もテディもギョッとする。
「デール帝国って…っぶ……貴殿、ネーミングセンス無いな」
くつくつと笑うクロンヴァール王にどう反応していいのかわからないと言った顔でテディは複雑に眉尻を動かした。
私はその2人の様子に悪いなと思いつつも釣られてクスクスと笑ってしまった。
「レティ…」
少し嗜めるようにテディが肩を落として私を呼ぶ。
「ごめんなさい。でも、だって…ふふふ」
私が笑えばクロンヴァール王もますます目を輝かせて笑ってみせた。
「やはりそなたもおかしいと思っておったのだな?子が出来たら王に名を任せるのはよしておいた方が良いぞ。ぶふっ」
「ひ、ひどいです!いくら竜の国の国王陛下でも僕許せません!」
耳まで真っ赤になったテディは目にも涙を浮かべてキッとクロンヴァール王を恨めしげに睨みつけた。
するとクロンヴァール王はどこか満足げにテディの背中を叩きながら素直に謝罪した。
思っていたよりも気さくな王様に私の緊張はすっかり解けていた。
「すまぬすまぬ。しかし自分の名前を国につけるとは…面白いな貴殿。ウイニーの姫にリン・プ・リエンの王子が作る国か…うん。なかなか面白い」
「あの、クロンヴァール王?どうしてワタクシがウイニーの出身だと判ったんですの?」
「そうです!それに僕新しい国を作ったとまだ報告をしていなかったのに…」
まるで全てを知っているようだった。とテディと2人でクロンヴァール王を見つめる。
するとクロンヴァール王は「ふむ…」と腕を組む。
「貴殿らは私がドラゴンを操れるのを知っておるか?竜の国の王家の者は直系ならば皆、古の契約によって竜を山脈から呼び寄せて使役することが出来る」
「あ、はい。伯父…ウイニーの国王から小さい頃に聞いた事がありますわ。ワタクシ達を連れて来てくれた漆黒のドラゴンの話を。陛下は王の竜と仰っていました」
私が答えればクロンヴァール王はコクリと頷く。
「うむ。あれに会ったか。貴殿ら運がいいな。まぁ、この時期はこの辺をよく飛び回っているからなあれは。何年前になるか、そのドラゴンが北の森が人間の手によって開拓されて行く様を見ていてな。年々規模も大きくなってきているからもしかするかもしれんと聞かされておった。そしてそなたらの来訪だ。しかも王子に姫とくればピンとくるだろう?」
高い山脈の上から見られていればどんなに隠しても筒抜けだったという訳ね。
成る程〜とテディも頷く。
「では、ワタクシは何故ですの?空の上から見ていただけでは判らないと思いますが…」
そういえば来る時もドラゴンにウイニー王家の者かって言い当てられていたわね。匂いを嗅がれて…なんか王族特有の匂いでもするのかしら?
するとクロンヴァール王はトントンと自分の頭を指で叩いて見せる。
「その髪と目、私と同じであろう?まぁ、金髪蒼目は珍しくはないが、魔法文字を見ればすぐにわかる」
そう言ってクロンヴァール王は私の額に人差し指を乗せると、フッと息を吹きかける。
額から零れた魔法文字を摘まむようにして私とテディの目の前に浮かべて見せた。
浮かんだ文字は水色の羽根の様な形をしていた。
「ウイニー王家の女性には必ずこれが血の中に流れている。堕天した天神族の羽根だ。神に愛されていた天神のな」
「堕天した天神族?」
それってつまり私のご先祖様は人間ではなかったって事なのかしら?
こんなものが流れているなんて流石に知らなかった。
「もうこの話を知っているのは竜の国の王族だけになってしまったのかな?まぁ、神獣が近くにいるのなら詳しい話を聞く機会もあるだろう。私の先祖とウイニーの王族の先祖は元をたどれば同じだが、決定的な違いは天神族の血と私に流れる竜の血だな。王の竜は父にして祖先だがウイニーの王族にはその血は流れていない。逆もまた然りだ」
なんだか途方もない話ね…言われてもなんだかピンとこないわ。
「もしかしてリン・プ・リエンの王族にもそういう言われとかあったりするんですか?」
と、興味深げにテディが問えば、クロンヴァール王は「無いな」とあっさり答えた。
テディはちょっとだけガッカリと肩を落とした。
「そう落ち込むな。貴殿の祖先は確か…まぁ英雄の血は引いてるな。海神を倒して呪われたと教わった記憶があるな…」
「の、呪い…!?」
ますますガッカリするテディは「聞くんじゃありませんでした…」と悲しそうに呟いた。
「まぁまぁ、伝説に過ぎないだろう。親族同士で争い続ける呪いなんてそんなものがあったら王家はとっくに滅びてるに違いない。ははははは」
えーっと…まさか、ね?
チラリとテディを見ればもう言葉を失って今にも倒れそうだった。
私がテディの背中にそっと手を添えてあげると、テディは力無く口角を上げてみせた。
うぅ…何だか痛々しいわ。
「もしや、本当にそんな事があったのか?うむむ…よもや本当の事とは……まぁ、大丈夫だろう。今与えた祝福の新たに生み出した魔法文字がそなたらを護ってくれる筈だ。ユニコーンの角の形にしておいたぞ。洒落ているであろう!」
クロンヴァール王が更に慰めるように言えばやっぱりテディは力無く「ありがとうございます…」とションボリと答えたのだった。




