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一世一代のワガママ 1

 =====



 馬車でフェンスまで行って、ゲイリーさんと合流してアルダに会って、また泣いて…

 テディの作った新しい国に着く頃には私もメルもかなり酷い顔になっていた。


 恥ずかしくて馬車をおりられずにいると、心配してテディがわざわざお城から出迎えに来る事になってしまった。


 翌日のウイニーから取り寄せた新聞には『ワガママ姫から泣き虫姫へ』なんて見出しが付いていた。

 私の最後の記事がこれだなんてと苦笑する。

 幸いにも挙式は1週間後だった為、その頃には目の腫れもすっかり引いていた。


 後にテディはあの時の事を「無理やり攫って来たみたいで罪悪感でいっぱいでした」と苦笑しながら語ってくれた。

 式にはレイは勿論、伯父様や伯母さま、お父様にお兄様、それにリオやライリ女王陛下も来てくれた。

 他にもベルンの要人が何人か来ていて晩餐では早速妃として色々と気を使わなければならなかった。


 お妃様とか妃殿下と言われてもまだピンとこないけれど、少しずつ慣れて行くのだろう。


 春が過ぎて、夏になる頃、私とテディは『ゼイルの森』と名付けたあの森から南にある竜の山脈を登っていた。


「一応新婚旅行なんですけど…何故こんなに大所帯に……」

 ガックリと肩を落としながらテディは息も切れ切れに山を登る。

「すみません。私も遠慮した方がいいと言ったんですが…」

 後ろから申し訳なさそうにクロエが言えば、

「いいじゃねぇか!王様はケチだなぁ。俺だって竜の国には興味があるんだ。竜の国の旅行記なんてだせば大ヒット間違いなしだ!」

 と、更に後ろからダニエルが意気揚々と言った。


「ごめんなさい。でもクロエとも約束したし…みんなで行った方が楽しいかと思って」

「レティ……うぅ…良いですけど。良いんですけどね。別に」

 しょんぼりするテディに謝ると、テディは更にしょんぼりして「これが惚れた弱みですか…」と、ぽつりと呟いた。


「ですがね、クロエさんと…百歩譲ってそこの男(ダニエル)はともかく、なんでゲイリーとウルフまで着いてくるんですか!」

 前を歩くゲイリーさんとウルフをテディはキッと恨めしげに睨みつけた。


「殿下はともかく、妃殿下に何かあっては困りますから。それに私も竜の国はとても興味深いですからね」

「俺は(マスター)が行くところならば何処へでもついて行きますよ?正直あの国…デール帝国でしたっけ?モンスターはわんさか居ますが、暇すぎて暇すぎて退屈なんスよ」

「心配無用です!貴方がたは少しメルさんを見習って下さい!行きたそうにしてたのを我慢してちゃんとお留守番してるんですよ?」

「…それは(マスター)が物凄い形相で睨み付けるからでしょ」


 ウルフがボソリと言えばテディはまたキッとウルフを睨みつけた。

 そんな様子を見て私は「ふふふ」と思わず笑みがこぼれる。

「皆本当に仲が良いのね。少し妬けるわ」

 肩を竦めて私が言えば、3人は目を見開いて私を見た。


「レティが僕に妬きもちを…」

「殿下。そこで感動するのはどうなんでしょう」

「相手俺らですよ?いいんスかそれで…」

 目尻を染めて私を見つめてくるテディを呆れながらゲイリーさんとウルフが見ていると、後ろからダニエルが感動したような雄叫びをあげていた。


「うおーー!!すっごいなぁ!!クロエ!ハニー!後ろ見てみろ!デール帝国が一望出来るぞ!」

 ダニエルに言われて振り向けば、森の中にポツンポツンと円状の街が幾つも見えた。


 一見不規則に点在している街は転送陣と呼ばれる魔法陣で繋がっていて、中でも7つの主要都市を地図上に線で繋いでみればユニコーンの星座が浮かび上がる様になっている。

 それはいざという時、国全体を護る防壁を発動させる為の魔法陣になっているのだとテディは教えてくれた。

 守護の魔法陣は国王が住む城から国王自らが発動させる事が出来るのだという。

 発動すれば森全体を覆う魔法の壁が出現して、壁に触れた人を瞬時に消滅させてしまう程の威力があるらしい。


 かなり恐ろしい魔法陣だけど、テディは使う日が来なければそれに越したことはないとにっこり笑って私に言ったのだった。


「こうして見ると結構広いですね」

 と、クロエも感嘆した声を上げる。

 私もクロエに頷いて唖然として眼下を望んだ。

「本当ね…いつも魔法陣を使っていたから気が付かなかったけれど、本当に大きな国なのね」

 お城のある方を見ればさらに奥にウイニーの森が広がっている。流石にこの場所からダールは見えなかったけれど、ウイニーの平原はよく見えた。


「大きいと言ってもリン・プ・リエンやウイニーに比べれば小さいですし、リヴェル領より少し大きいくらいしか無いんですよ?それに殆どが森ですしね」

 ちょっとだけ照れながらテディは言った。振り返ればゲイリーさんもどこか誇らしげだった。

「皆さんにそう言って頂ければホルガーや夢想の努力が報われるというものです」

「…僕も頑張ったんですけどねゲイリー」

 ジトリとテディが睨めつければゲイリーさんはひょいっと肩を竦める。


「あのぉ…景色を楽しむのもいいんスけどね、急がないとドラゴン出るんじゃないでスかい?」

 ウルフに言われて私達はハッとする。

 なんたって竜の国の竜の山脈だもの。頂上付近に近づけば、そこにはドラゴンが住んでいるのだ。


 そんな時青い空に轟くようにどこからともなくドラゴンの咆哮が聞こえてくる。

 ゴクリと唾を飲み込んでクロエやダニエルと目を合わせていると「大丈夫ですよ」とテディはのほほんとした様子で私達に言った。


「ドラゴンは僕がいる限り近寄って来ない筈ですよ。僕を誰だと思ってるんですか?王様ですよ」

 えっへんと胸を張ってテディが言えば、更に後ろから呆れたようにゲイリーさんがツッコミを入れた。

「まだ国王じゃないですよ殿下(・・)。それに近寄ってこないのは殿下の懐中時計の所為です」

「ゲイリー…少しは空気読んで下さい。男ならちょっとばかり虚勢を張りたい気持ちが判るでしょう!?」

 テディが言えばゲイリーさんはまたまたひょいっと肩を竦めた。


「ドラゴンは神獣が苦手なのか?」

 と、ダニエルがキョトンとした顔でテディに問い掛けた。手にはちゃっかりメモを取り出している。

 するとテディは嘆息をついてダニエルに丁寧に答えた。


「神獣と言うよりユニコーンが苦手なんです。神話時代に角で刺されたことがあるらしいですよ。真偽は知りませんが本人が刺したことがあると言ってました」

「へぇ…何で刺したんだ?」

「知りませんよそんな事。でも、刺されてからドラゴンはユニコーンに近付きたがらないと言ってました」


 若干拗ねた様子でテディは私にチラリと目線を送る。

 私が視線に気がついて首を傾げれば、はぁ〜…とまたテディは溜息をついたのだった。

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