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かけがえのない絆 2

 屋敷の門の外へ出れば、沢山の人が見送りに来ていた。

 一人一人の顔を見て、止まりかけていた涙がまた溢れてくる。


「何泣いてんだ。馬鹿だな。これから嫁に行く奴が顔を腫れさせてどうする!ほれ、拭け」

 そう言いながらハンカチをよこしてきたレイの目も微かに赤かった。

「う〜〜…レイだって泣いてるじゃない!貴方、あの時ちゃんとガーター受け取らなかったから今だに結婚出来ないのよぉ〜!!」

「はぁ!?俺は泣いてねぇ!それに結婚出来ないんじゃねぇ!しないだけだ!!」

「殿下…そこはそろそろして貰わないと困るんですが…」

 呆れながらに後ろからジゼルダ公がレイに言う。更に後ろからダニエルがジゼルダ公に同意した。


「世継ぎがいないとかシャレになりませんよホント。縁談とか無いんですか?」

「うるさいっ!自分はクロエと結婚したからっていい気になるなよダニエル!」

「で、殿下!あまり大きな声で言わないで下さい…」


 ダニエルがヒョイと肩を竦めれば、クロエが恥ずかしそうに狼狽える。

 クロエとダニエルは結婚して既に2年経つ。

 どういう経緯でそうなったのかサッパリ解らないのだけど、クロエが割と幸せそうだから案外上手くやっているのかもしれない。


「レティアーナ嬢、ダールは何時でも貴女を歓迎しますぞ。すぐ隣なのですから是非また遊びに来てくだされ」

 わざわざダールからリヴェル侯爵とマリアン夫人も見送りに来てくれていた。

「侯爵様、マリアン様、遠い所をわざわざありがとうございます」

「あらあら、良いのよ。孫の顔見るついでですもの。ね?貴方」

「うむ。シミオンは私に似て本当に可愛い」

 でれーっと侯爵が鼻の下を伸ばせば、お父様とお兄様がまた複雑な顔をする。

 それを聞いていたセドがちょっとだけムッとしていた。


「お爺様、僕は?」

「セドリックも勿論可愛いぞ〜!将来が楽しみだ」

 侯爵がグリグリとセドの頭を撫でれば(ようや)くセドも嬉しそうに笑った。


 甥っ子2人の隣にいた乳母のシャルロットが私に心配そうな目で声をかけて来る。

「お嬢様、くれぐれもお気をつけて下さいね。あの森は奥はかなり危険だと聞きますし…」

「大丈夫よ。フェンスまでゲイリーさんが迎えに来てくれる予定だし。シャルロット、セドとコーネルの事宜しくね」

 シャルロットは唇を噛み締めて目を潤ませながらコクリと頷いた。


「困ったことがあれば何時でも相談に乗りますからね」

 泣き出しそうなシャルロットの隣でお姉様が私に言う。

「お姉様…お兄様とお父様の事、よろしくお願いします」

 頭を下げれば、ぽんぽんと目を潤ませながらお姉様は肩を叩いて答えてくれた。


「レティ、ほらこれ持ってきな」

 ぶっきらぼうに声をかけてきたのは『かかとの折れたハイヒール亭』のヒルダだ。

 ヒルダは私に小さなカメオを私に手渡した。

「ヒルダこれ…」


 そのカメオはアルダが昔ヒルダにプレゼントした物だった。貰った時ヒルダは「こんな女の付けるものあたしには不要だよ」とか言ってたのをよく覚えている。

 でも毎日タイピンと一緒に大事に着けてるのも知っていた。アルダは「姉さんは照れ屋だからいいんだよ」ってカラカラとよく笑ったものだった。


「言っとくけど貸すんだからな?サムシングフォーの一つだよ。あんたどうせまだ近所から何も借りてないんだろう?」

「でも、いつ返せるか分からないのに…」

「良いんだよ。いつか返してくれればね。フェンス通るならあの子にもあってっとくれよ?メルを宜しくな。…メル、レティを頼むよ」


ヒルダに言われて私の後ろに居たメルはコクリと頷いた。ヒルダやアルダが居るウイニーに残った方がいいのではないかと言ったのだけど、メルは私について来る事を選んでくれた。知らない地に行く私にとって、とても心強い申し出だった。


「ヒルダ…ありがとう」

 ヒルダにお礼を言えば、後ろからメルが「お嬢様、そろそろ…」と、声を掛けて来た。


 私は最後にぐるりと皆の顔を目に焼き付けると、深々とお辞儀をして言った。

「皆さん、本当に今まで有難うございました。…殿下、陛下や妃殿下にもよろしくお伝え下さいませ」

 向き直って改まって言えばレイは少しだけ顔を歪めて「ああ…」と答えた。

 馬車に足をかければ、色んな人が声を掛けて来た。


「姫、どうかお元気で」

「ハニー!幸せになれよ!」

「お嬢様、いつでも帰ってきて下さいね」

「レティ!フィオに迷惑かけんなよ!」


 笑った顔泣いた顔、色んな顔が目に入る。

 最後にまたレイに目が行くと、私はたまらず駆け寄ってギュッとレイに抱きついた。


「お、おい!?」

「人の事説教する前に早く結婚しなさいよばか!!…レイは私にとってもう一人のお兄様だわ。これ以上心配かけないでよね!」


 必死に背中を追いかけまわした事やイタズラした事を思い出しながら涙混じりに睨みつける。

 するとレイは呆れた様な顔をして頭をぐしゃぐしゃ撫でてきた。


「お前が言うか?それを。ホント、いつまでも手のかかる妹だよお前は!」


 どちらからともなく、お互い笑って別れを告げる。

 馬車に乗って手を振れば徐々にみんなの顔が小さくなって行った。

 レイに渡されたハンカチを握りしめグシャグシャになる迄泣いていると、向かいに座っていたメルもグシャグシャになって泣いていて、お互いに気がついて酷い顔だと2人で笑い、フェンスに着くまでまたわんわんと泣いたのだった。

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