約束の深意 3
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「レティ…?」
朦朧とする意識の奥からすぐそばで声が聞こえる。
(誰?)
そう問いたいのに声を上手く出す事が出来ない。姿を確認したいのに上手く目を開けることが出来ない。
「う…」という小さな呻き声を上げると、強い力で誰かに抱きしめられた。
「レティ!!」
泣いているのかその懐かしい声は掠れていて抱きしめてくる腕は酷く震えているのを感じた。
(泣かないで…)
と、手を上げようとするけど、体が重くて上手く動かせない。それに本当に吐きそうだわ…
「う…ぅ……」
「これ!気持ちは分かるが病人を乱暴に扱うでない!レティアーナ。まずは解毒剤を飲むのじゃ。ほれ、飲ませてやらぬか」
近くで聞き覚えのある女性の声がした。
「す、すみません!苦しかったですか?薬、薬飲ませますから!」
女性に言われて慌てたように私を抱きしめていた人が私をベッドへ押し付けるように寝かせた。
「ぅ…」
「じゃから!何故そう乱暴に扱うのじゃ!お主少し落ち着かぬか!」
「すみません…」
申し訳なさそうに謝る誰かに声も掛けられずにいると、口元に独特な風味のする液体が流し込まれてきた。
(美味しくない)
顔を顰めると「我慢するのじゃ。全部飲め」と、女性が言った。
言われるまま飲むと、ヒンヤリとした柔らかい手が額に覆い被さった。
気持ち良いと目を閉じていると、
「ふむ、少し熱があるの。暫く安静にして解毒が済めば治るじゃろ」
と、優しげな声が聞こえてきた。
ポンポンと胸のあたりを叩かれる。
「暫く眠って下さい」
また誰かが額を撫でる気配がした。
その言葉に応える様に私はすぅっと眠りについた。
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気がつけばまた雲の上にいた。
辺りを見渡すとゼイルと猫のような耳の生えた小さな男の子がこちらをジッと心配そうに見つめていた。
「ゼイル?」
私が声を掛けるとゼイルは嬉しそうに微笑んで、ギュッと私を抱きしめた。
「よかったレティアーナ。戻って来てくれてありがとう」
「う、うん?」
雲の上に来るのは随分久しぶりな気がする。ずっと会っていなかったから寂しかったのかしら?
「レティ!ぼくも!ぼくも覚えてる?」
近くにいた小さな男の子が腕を引っ張って私に声を掛ける。
ええと、何処かであったかしら?
「……ごめんなさい。誰かしら?ゼイルの弟さん?」
にしては似ていない気もする。ツノもないし金髪だし。
すると男の子は相当ショックだったのか泣き出してしまった。
「なんで、何でぼくだけ覚えてないの?酷いよレティ!」
「う…あの、ごめんなさい」
わんわんと大きな声で泣き出した男の子を何とか宥めようとギュッと抱きしめて頭を撫でていると、ゼイルが呆れたように男の子に言った。
「あの空間であった事を覚えていられる人間なんていねぇよ!男なら泣くんじゃねぇ!!俺より強い癖にイライラする」
「ぼくゆにこーんより強くないよ!ぼくが出来るのは夢に関する事だけだよ」
「あの、喧嘩はよくないわ…」
睨み合う2人を何とか宥めようとすると、どちらともなくぷいっとそっぽを向かれてしまう。
困ったわね。仲が悪いのかしら?
「レティ、ぼくはみんこだよ。もう忘れないで」
涙を目に溜めたまま小さな手が私の腕をぎゅっと掴む。
「みんこ?もしかして眠虎?ライリ女王陛下の」
驚いて目を瞬かせると、眠虎は嬉しそうに可愛らしい笑顔を私に向けた。
「そーだよ。ぼくみんこだよ!あのねあのね、ぼくもレティにお名前つけて欲しいの。ゆにこーんばっかりずるい!」
キュッと小さな眉根を顰めると、口を尖らせて眠虎は私に訴えた。
「眠虎の名前?私が考えていいの?」
そう問うと嬉しそうに眠虎はコクリと頷いた。
うーん。何がいいかしら?
頭を悩ませていると、今度は背後から誰かに突然抱きつかれた。
「何こそこそしてるのよぅ!あたしの名前も考えてレティ♪」
「えっ、えっ?!だ、誰?!」
「お前ら自分の主にでも頼めばいいだろ!レティアーナは病み上がりなんだ!負担をかけるんじゃねぇ!」
「なによぅ!自分ばっかり!」
「そうだよ!ゆにこーんばっかりずるいよ!」
「雪狐も眠虎もユニコーンもうるさいなぁ…うるさくて眠れないよ」
えっ?!また増えた?!
ぎゃあぎゃあと言い合いを始める彼らを何とか宥めようとしていた所、彼らの勢いに押されて思わず後ずさる。
「えっ、きゃあぁ!」
「「「「レティ!」」」」
後ずさった場所に雲はなく、彼らの名前を考える前にいつかの様に私は雲の下へと落下していった。




