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絶望の城 6【フィオ編@リオ】

 レティが何者かに連れ去られたという報告は受けていた。

 それが鯨波の仕業だというのも可能性の中で一番高かっただけに納得は出来る。


 だが、死んだだと…?


「ゲイリー…何かの間違いでは……」

 あの娘が死んだなど流石に俺も信じられなかった。ついこの間まで一緒に過ごしていた相手だ。

 フィオの事で真っ赤になりながら泣きそうな顔で悩んでいる可愛らしい姿が昨日の事のように目に浮かぶ。


「直接お会いした事はありませんが、以前雪狐が姫君に変化して見せた事があります。間違いなくかの姫君でした」

 そう言ってゲイリーは拳を握る。

「私が駆けつけた時にはまだ身体は温かかったのですが、近くに毒が入っていたと思われる小瓶が…状況からして我々の攻撃で錯乱して自害なさったのではと」


「自害だと!?馬鹿なっ!何故……」

 何故そんな事を…と言い切る前にハッとする。


 錯乱して自害?あの気丈な娘が…?

 いや、違う…誰よりも思いやりのあるあの娘が自分の為に死ぬなどあり得ない。

「……錯乱してではない…レティは…ウイニーの為に死を選んだ?」


 戦艦が襲われた時、レティなら何を考えるだろうか。おそらく自分の身に何か起これば鯨波かフィオのどちらかにウイニーが攻撃を仕掛けると考えるはずだ。

 レティの顔を知っているのはこの国では限られた人間しかいない事も考えただろう。

 だからこそ攻撃される前に死を選んだのでは無いだろうか…


「まさか!姫君がそこまでお考えになられているなど」

 俺の推論にゲイリーが驚愕する。

「あの娘ならあり得る話だ。その辺の深層の姫君とは違ったからな…」


 まさかこんな形で…

 悔やんでも悔やみ切れない思いに唇を噛み締める。

 錯乱していなかったとしても結果として俺達が追い詰めた事には変わりない。


「フィオ…」

 既にその姿を目で確認する事は出来ない位高速で動き回るフィオの中心には既に原型をとどめていない兄上の姿があった。

 王の死がこのようなものになるなどと誰が想像しただろうか…

 変わり果てた姿の兄と我を失った弟の姿に思わず目を背ける。


「レティが原因だというのであれば…止める術は無いのではないか?」

 俺の呟きに皆が息を飲む。否定したくとも否定しようが無いのだ。フィオがどれだけレティに執着していたかは誰の目にも明らかだったからだ。


「あの子が原因なら…」

 ポツリと雪狐が呟く。

 ふらりとその場に立ち上がると、雪狐はくるりと身を回転させて変化(へんげ)を行う。

 顔色は青く震えてはいるが、姿形は知っている人間が見ればレティとしか言いようがなかった。


「何を考えている?無茶な事はやめろ。今のフィオは普通じゃない!正体がバレればお前…」

「でも他に方法なんてきっとないわよぅ!とにかく止めないと説得も出来ない!」


 その言葉に誰もが口を噤む。

 雪狐はガクガクと震えながらも一歩一歩フィオへと近づく。

『テディ…もうやめて。こんな酷い事しないで…』

 青い顔のまま雪狐がか細く呟けば、ピタリとフィオが手を止めそちらの方を向く。


「レティ…?」

 驚愕の表情を浮かべてフィオが立ち尽くすと、後ろで何かの塊となったそれ(・・)がどしゃりと床に崩れ落ちた。


『テディ…』

 と雪狐が呟けば、フィオはボロボロになった剣を投げ捨て、よろよろと雪狐に近づく。血塗れになった手を伸ばし、我を忘れたまま雪狐を抱き締めると縋るようにフィオは涙混じりに雪狐に話しかけた。


「よかった…無事だったんですね!君が、君が死んでしまったのではと…すみません!こんな事に巻き込んでしまって。よかった…本当に…」

 力強く雪狐を抱きしめるフィオの目から一雫の涙が零れる。雪狐は苦しげに未だ青い顔でフィオの背に躊躇いがちに手を回すと、チラリとこちらに視線を送ってきた。

 俺が頷けば雪狐も目を伏せそれに応え、フィオを説得しようと静かに話し掛けた。


『テディ、お願い。元に戻って。皆心配してるわ』

 雪狐の声にピクリとフィオは反応すると一度雪狐を離し、罰が悪そうな笑顔を浮かべてフィオは雪狐の顔を覗き込んだ。

「レティ…俺の名前を呼んで。そうすればきっと元に戻れる。もう自分では戻れないんだ」

『…フィオディール?』


 雪狐が戸惑いつつもフィオの名前を呼べば、苦笑しながらフィオは首を振って「違うよ」と答えた。

「君が俺にくれた名前だよ。この体の名前じゃない。俺の(・・)名前だ」

『えっ…』


 言われて雪狐は驚いた顔をする。


(マズい…そんな話聞いた事ないし雪狐が知るわけがない)


 背筋に緊張の汗が流れる。雪狐は戸惑い、俺やゲイリーに助けを求める視線を送ってくるが、ゲイリーも俺も小さく首を振ることしか出来なかった。


 その様子に気づいたフィオが困惑した顔を見せる。

「どうしたの?ついこの間君が俺にくれた名前だよ?忘れちゃったの?」

『あの…ごめんなさい。色々な事がありすぎて…』

 俯く雪狐にフィオは少し悲しそうに微笑むと優しく雪狐の頭を撫でようと手を上げる。

「そう…余程恐ろしい目にあったんだね。あのすぐ後に君は………?」


 上げかけた手をフィオはピタリと止めるとその表情が徐々に険しくなっていく。

「匂いが…違う……お前、レティじゃないな!?」

「雪狐!!逃げろ!!」

 ハッとして雪狐はその場から姿を消そうとする。

 しかし一足遅く、フィオが雪狐の首を両手で掴み持ち上げた。


「っく…」

 途端に変化が解け、苦しげな表情を浮かべる雪狐が姿を現す。

 雪狐の姿を確認するとフィオの目には怒りと悲しみを混ぜたような感情が浮かび上がっていた。

「お前…よくも俺を騙したな!!キツネの分際でいい度胸してるじゃねぇか。レティを穢す奴は女だろうが神獣だろうが許さねぇ!その首へし折って毛皮にしてやるっ…!!」

「殿下!!」

「止めろ!フィオ!!そんな事すればアスベルグが、ジールシード領が無事では済まないぞ!!」


 慌てて止めに入る俺やゲイリーをチラリと横目で確認すると「ッハ!」と嘲笑を吐き捨てフィオは笑みを浮かべる。

「それがなんだというんだ!無関係の人間を巻き込んで平然と暮らす貴族がのさばるこんな国無くなってしまえばいいんだ!!」

(マスター)!!」


 フィオと雪狐を引き離そうと3人がかりで手を伸ばす。

 すると突然後ろから妖艶な女性の声が凛と響き渡った。


『止めよっ!!それ以上は妾が許さぬ!!』

 パシンッと背後から鞭の様にしなる金色の光がフィオの方へと伸びる。

 フィオは思わず手を離し、腕を押さえると、そちらの方をキッと睨み付けた。

「お前は誰だっ!」


 振り返ればそこには変わった格好の中年の女性とお付きと思われる男性が立っていた。


「なんじゃ…神獣の癖に妾を知らぬとはモグリじゃの。よく聞くが良い!我はベルン連邦国が一国、ラハテスナ国第12第皇王にして神獣の王ライリ・ミナー・ヌールじゃ!」

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